EPISODE37 英雄集結
飛行艦3隻による空島への侵攻。その任務を任されたウルダ艦長はビール樽のようなお腹を揺らしながら、部下の話を聞いていた。
「しかし、艦長。ハーピィを駆除するのにこの戦力は過剰じゃないですかねぇ」
「獣人の国を攻めた時、1隻では落としきれなかったと聞く。万全を期すために三倍の戦力をよこしたのだろう。もしくはよほど恨みを持つ者が向こうにいるかだな」
「そんなことをする奴がいたのなら、馬鹿ですよ」
「奴らは見た目だけなく鳥頭なのだろう。体は上物だから、愛玩動物として飼うのもいいかもしれん」
「そのときは手足の健を切っておかないといけませんね」
「それでは人形と同じではないか。薬漬けにして思考力を落とす程度にとどめておきたまえ」
下卑た笑みを浮かべながら、前方の風景を眺める。もう少し接近すれば、マシンドールを発進させて、絨毯爆撃で一気に制圧する目論見であった。そんなことを考えているとき、警戒音と共にオペレーターから報告が入る。
「こちらに接近する機影。数は1です」
「魔物か。空の旅が順調すぎてつまらんかったところだ。マシンドール発進準備、敵影をモニターに映し出せ」
「はい。でも、これは……」
目の前の大型スクリーンに映し出されたのはハイティーンの少女の姿。その武装は帝国の最新の兵器であるマシンドールにあまりにも酷似している。
「我らの軍門に下ったシャルトリューズ王国にはマシンドールの技術はなかったはず。まさか、ハーピィが作り上げたとでも言うのか!」
「艦長、アンノウンマシンドールから通信が入っています」
「こちらに回せ!」
【グダー、ボンジュール、ハロー】
「貴様は一体何者だ」
【通じたみたいね。私はハーピィたちを統べる者、ブリュンヒルデ。素通りするなら見逃すけど、危害を加えるつもりなら、ココを通さないわよ】
「どうします、艦長?」
「ふん。たった1機で何ができる。マシンドールを発進させよ」
これが答えと言わんばかりに、浴びせていく艦砲射撃と数十機マシンドールが発進していく。これだけの戦力を使えば、たった1機のマシンドールの撃墜は容易であるとウルダはタカをくくっていた。
「たった30機程度で倒せると思っているわけ!随分と舐められたものね」
前方から降り注ぐミサイルの雨をひらりひらりとかわしながら、お返しと言わんばかりにライフルを発射し、数機のPアサルトが四散していく。そして、距離を詰めたブリュンヒルデがランスに切り替え、Pアサルトに突き刺していく。
味方などお構いなしに、攻撃を仕掛けてくるPアサルトの攻撃を踊るように躱し、同士討ちを誘いながら、葬っていく。しかも、小さく飛び回るドローンによる攻撃への対処ができないのか、あっけなく落ちていく。
『馬鹿な、数分も経たずに半数のマシンドールが墜ちただと!?』
通信がいまだに続いていたら、先ほどの艦長がそう言って慌てふためいているのを聞けたのにと思いながら、一桁になったマシンドールを他所に発着口に向かって砲撃を加えていく。とはいえ、相手の脇にいる戦艦は健在であり、あっという間に二桁、下手すれば三桁はくだらない数のマシンドールが飛び交っていく。
「数があれば良いってもんじゃないけど、これはきついわね」
反撃の隙を作らせまいと銃弾の雨嵐による面制圧がブリュンヒルデに襲い掛かる。急上昇や急降下を繰り返して躱していくが、このままではやられるとおもったとき、視界の端から2本のビームがマシンドールを焼き払う。
「ブリュンヒルデ、大丈夫ですか」
「遅い!」
「これでも急いだんだよ。それにしても凄い数だねぇ。最後の戦い以来じゃない?」
「あれよりひどいんじゃない。数の戦力比は」
「ですが、私たち3人いれば」
「どんな敵でも倒せるよ」
「それもそうね。前大戦を生き抜いた者の力、見せてやろうじゃない」
時代を超え、集った英雄たち。そうとは知らない敵は先と変わらず、数によるごり押しで敵を押そうとする。
「まずは私が!Gシールド!!」
リミッター解除の効果もあり、巨大なGシールドが展開され、その砲撃を完全に防いでいく。その隙に、レイが先ほど使用したバスターランチャーのチャージをブリュンヒルデが行う。
そして、銃弾の攻撃が効かないせいか銃撃をやめた瞬間、バスターランチャーから迸る光線がPアサルトたちを貫き、相手の僚艦に直撃する。
艦の右舷から黒い煙がもくもくと立ち昇る中、バスターランチャーによって切り開かれた道をレイが猛スピードで駆け巡る。その進路をふさぐかのように数機のPアサルトが立ちはだかる。
「邪魔だよ!」
手に持った高出力のビームサーベルですれ違いざまに斬りつけ、バランスを崩しかけている戦艦に近づいていく。左手を砲門に変えたレイは戦艦の中央部に狙いをつける。
「ジェネレーター接続。一気に行くよ、レイバスター!!」
遠くから見てもバスターランチャー以上の火力があると思えるほどの高出力のビームが装甲やフレームを溶かし、中にいた人を蒸発させながら貫通していく。指令を出すべき人間が、あっけなく墜ちた僚艦に慌てふためいているのか、マシンドールの動きが鈍くなる。
「戦艦を落とせば戦術を変えると思いましたが、同じ動きしかしないのであれば!」
「先と同じようにやるわよ!」
「こっちにも何機か来たけど、問題なし。もう片翼の戦艦を切り落とすから、真ん中は任せた」
そう言って、レイが今度はビームサーベルをジェネレーターに接続していく。より巨大化したビームによる斬撃を加えようとする。それを目撃した帝国兵たちが我先にと逃げ出そうとするが、ここは空の上。逃げ出せる場所など、どこにもない。
「エーテル剣一刀両断!なんちゃってね」
火を噴きながら、二つに折れた船と共に乗組員はその運命を共にするのであった。
「これは悪夢でも見ているのか……」
ウルダは信じられない様子で目の前の光景を見ていた。僚艦は既に墜ち、残る自分の船も両舷から火の手が上がり、もはや戦闘能力はほぼ残っていない。しかも目の前のバリアは破れる気配が一切なく、向こうの砲撃を防ぐ手段は無い。
「なんなのだ、あいつらはあああああああ!」
眼前に迫りくるビームに発狂しながら、そのウルダは蒸発し、コントロールを失った母艦は地上へと墜落し、爆炎の華へと姿を変えた。
帰投したブリュンヒルデたちは王宮の一室で、今後について話し合っていた。
「これで私たちも帝国とは無関係ってわけにはいかないわね」
「ええ、同じ手は通用しないでしょうし、次攻めてくるときはより多くの戦力を用意してくるはず」
「となれば、アイリスちゃんの国には帝国と手を切ってもらうほうが手っ取り早いわね」
「私も、帝国のやり方は間違っていると思う。だからお兄様を……止めます!」
「明日が決戦だったわね。こっちからも戦えるハーピィを集めておくわ」
「モグモグモグ……ん? 話決まった? ボク、考えるの苦手だからセブンたちについていく」
「話には聞いていたけど、それにしてもよく食べるわね……」
顔くらいの大きさまで積み上げられたステーキ肉をペロリと平らげ、おかわりまで要求している。それを見たハーピィもあきれた様子で、空いた皿を厨房まで持っていく。
「食糧が乏しいんだから、あまり食べないこと」
「お腹空いてるのにー、ケチ」
「お兄様を止めたら、支援もちゃんと再開するから。それまではね」
「じゃあ、この戦いが終わったらみんなでいっぱい食べよう!」
「……そうですね。生き残れば、祝賀会を開きましょう」
「ナナ、大丈夫? なんか元気ないみたいだけど?」
「少し緊張しているのか知れませんね。作戦は明日の夕刻、それまではゆっくりと過ごしましょう」
適当に誤魔化したナナが自室へと戻る。ナナの脳裏に浮かぶ体の損傷をみるモニターには無事なところを示すグリーンはほとんど無く、イエローとレッドが混在している。
「リミッター解除によるフィードバックダメージ……ここ最近は使わない戦いがほとんどありませんでしたから、こうなるのは仕方のないことです」
ナナは自分の手を開いたり、閉じたりする。まだ正常に動く。ならば戦える。そう自分に言い聞かせる。
(大丈夫。この戦いは『まだ』戦えるはず。ですが、その次の戦いでおそらく『ナナ』は――)
ナナは少しでもベストコンディションに近づけようと、回復に専念する。来るべき運命を乗り越えるために。




