EPISODE18 襲撃
フルートたちの視察からしばらくの時が過ぎ、平穏な時間を過ごしていたある日、アイリスは自身の工房でナナが土産で持ち帰ってきた帝国産の銃を解体し、再度組み立てていた。その様子は小さな子供がジグソーパズルで遊んでいるかのようだ。ふんふんと鼻歌交じりでかちりと最後のパーツをはめて、銃を作り上げる。
「できた!」
「解体から組み立てで5分少々。このタイプの銃だと、訓練された兵士でも3~4分はかかりますから、十分な早さかと」
「帝国産の銃を触ってみたけど、メンテナンスしやすいように設計されているのね。このあたりは見習うべきとして……」
ごそごそと『いつか使うかも♪』と書かれたプレートが貼ってある木箱の中を探っていく。これでもないあれでもないと中にあった機械のパーツを投げ出して、そこにあった部品を手に取る。そして、銃をばらして、ガチャガチャといじってそのパーツを取り付け始める。
日が暮れる頃、黒から白色に塗装しなおした後、組み立てなおした銃を手に取り、アイリスはむふーと自慢げな表情をする。試し打ちと言わんばかりに、窓から身を乗り出して外に生えている木に向けてトリガーを引くと、一発の魔力弾が放たれ銃痕を残す。
「ナナ、どうかしら?」
「対人では防弾チョッキのような装備で対処されますが、魔物相手なら十分な威力かと」
「なるほどね」
「それはどういう仕組みで? 弾倉部に魔石を取り付けているのはわかりますが」
「昔、魔法攻撃できないかなと思って作ったんだけど、すぐ発散して火炎放射器くらいにしかできない欠点があったの。それがもえるくんね」
ナナは以前、書類や死体を燃やすのに使った道具を思い出し、そういう経緯で作られたのかとコクリと頷く。
「頑張って弾状にできないかなと思ったけど、飛び散ってどうしようもないからお蔵入り。でも、この銃に組み込んで指向性を付与すればできるんじゃないかなぁと思ったの。銃ってそう簡単に手に入るモノじゃないからどうしようもなかったけど」
(そういえば、騎士団の主装備は剣か杖、それと盾。魔法による遠距離攻撃があるせいで銃が廃れているのもその要因なのでしょう)
ナナは魔法と銃、どちらが優れているかについてははっきりとした白黒をつけていない。銃火器は整備性や個人の資質に左右されない火力を出せる点で優れている。しかし、魔法も状況に応じた攻撃や回復ができ、なにより装備がかさばらない。極端なことを言えば、武器が無くても一定の火力が出せるのが強みともいえる。
「魔石による銃撃だから、不要な機構を取り除いて軽くなったわ。今度、ハンティングでもしに行きましょう」
「ええ、わかりました。いくつか候補地を見繕っておきます」
「お願い。楽しみにしているわ」
ウキウキといった感じで、アイリスは改造した銃を磨いていく。こんなにも嬉しそうな彼女を失望させまいとナナはどこが良いかと考え、今日1日が終わるはずだった。
その日の番、ナナは抱き着いているアイリスの手をよけて、ベッドから起き上がる。部屋の窓からのぞくと、暗くてよく見えないが、怪しげな人影が数人こちらの様子を伺っているようだ。
(電気をつけなくても熱源センサーや光学補正をすれば問題ありません。問題は城内に忍び込まれていること。もしかすると手引きする者がいるかもしれませんね)
帝国から持ち帰ってきたショットガンを手に取り、廊下へと出る。玄関の前には見張りの騎士がいるはずだが、見回りをしているのか今はいない。廊下の窓から銃口を向けて、離宮内に入ろうとする不審者たちに向けて発砲する。
「発砲音があれば、夜間と言えども誰かが気づくはず。これで撤退すれば良し。しなければ……迎撃するまで」
窓から何発も放ち、不審者を地に伏していく。情報を吐かせるために生け捕りが好ましいとはいえ、それにこだわってアイリスの身に何かがあれば元も子もない。それは迎撃に余裕ができてからでも遅くはないのだ。
さすがに近くで戦闘していることもあり、ドタバタとパジャマ姿のアイリスがナナに近寄る。
「ナナ、いったい何の音!?」
「招かれざる客のようです。敵は1個小隊ほど。離宮内に侵入を許すのも時間の問題かと。マスターは私の傍から離れないでください」
「わかったわ。でも、これからどうするの?」
「……工房に行きましょう。マスターの武器が必要です」
ナナが空になったショットガンを投げ捨て、右腕を銃口に変える。階段を下ろうとしたとき、火の玉が二人に襲い掛かる。ナナがアイリスの上に覆いかぶさり、銃弾を階下に向けて発砲していく。
(魔法攻撃!? まさか襲撃犯は……!)
「これじゃあ、階段が使えない!」
「……少し無茶をします。失礼」
アイリスを片腕でお姫様抱っこして、廊下を走っていく。後ろから火や氷の塊が飛んでくるが、ナナの鋼鉄のボディーにはさしたる影響はない。そして、目標ポイントに到達すると、床に向かって低出力のエーテルキャノンを放ち、床を破壊し飛び込む。
工房の部屋の前には見張りもおらず、襲撃犯はまっすぐアイリスの部屋へと向かっていたようだ。工房内に入ったナナたちは部屋に鍵をかけて、机やいすでバリケードを作る。
「一体、だれがこんなことを……」
(マスターがただの貴族ならば、嫉妬に駆られて襲撃するのはわかります。ですが、一国の王女を狙うとなると……)
動機を考えても埒が明かないと思ったナナはアイリスに昼間に作った銃を手渡し、作業台の陰に隠れるように指示する。そして、ナナが作業台の前に立ち、バリケードを壊そうとして集まっている襲撃犯に向けてエーテルキャノンを放つ。
肉の焼けた匂いがたちこめる中、アイリスは机の陰から覗くと、片腕を失ってでも立ち上がろうとする襲撃犯が居た。血走った目をした襲撃犯が怖くなり、とっさに彼に向けて1発の弾を撃つ。撃たれた襲撃犯はたたらを踏み、床下へと落下していく。その様子を見た彼女は机の陰に隠れて、吐き気を抑えようとする。
「なんで、なんで……こんなことに? 何がいけなかったの? 私はこんなことをするためにつくったんじゃあ……ただ魔物と戦えたらよかったの。人を撃つためじゃあ……」
ナナの銃声と襲撃犯の悲鳴がガンガンと鳴り響く中、アイリスは何も考えたくない。ただ、それらが止むまでガタガタと体を震わせるしかできない。早く戦闘が終わってほしいと祈る。
大半の仲間がやられたことで、残存する襲撃犯が離宮から離れていく。深追いをする気は毛頭ないナナは、踵を返し、離宮内に戻ろうとしたが、ピタリと足を止める。こちらに近づいてくる足音があったからだ。振り返ると、くすくすとほほ笑む妖艶な女性の姿があった。
「どなたでしょうか?」
「カーディナル帝国三幹部の紅一点、マリリン。以後、お見知りおきを」
「マリリン、貴女の目的は?」
「そうね。前、貴女がやったのと同じ威力偵察ってことかしら、リバティーズのリーダーさん。フフフ」
「ありえない。偵察で本丸まで来るなど」
「それがありえるかも。アタクシ、気は短い方だから。まさかピエロの坊ちゃんが言っていた王女様が、裏で反政府組織と通じていたなんて知らなかったわ。あとグラムみたいにアタクシは手加減をしないのよ、幻惑のトリコロール!」
赤、白、青の3色の光がマリリンの身体が発せられる。それを見たナナは一時的にその動きを止める。
「この光を見た者は幻覚に堕ちるの。自分がいくら動いているつもりでも、現実では一歩も動いていない。機械には効かないけど、監視カメラの無いこの国じゃあ、ざる警備も良いところよね。そして、動いていない獲物を殺すなんてさらに簡単よ」
拳銃を抜き、「グッバイ」と言ってその弾丸を放つ。銃弾がナナの眼前に来た時、銃弾をつかみとり、投げ捨てる。その光景に困惑しているマリリンに向かって切りかかり、血しぶきを上げる。
(思ったより傷が浅い……そのゴスロリ衣装は防刃チョッキのようなものか)
「よくもアタクシの身体に傷を!!それより、なぜ効かない!たとえ武器に変換できる義手でも幻覚には関係ない」
「私には耐性があるので」
「ぐっ、覚えてろ!!」
マリリンが汚い言葉を吐き捨て、闇の中へと消えていく。相手が三幹部となればここで捕まえたいところではあったが、ナナは深追いせずに自身の主が待つ工房へと急いだ。
そこには「終わって……終わって……」と念仏のように唱えるアイリスがおり、彼女をそっと抱きしめる。
「大丈夫ですよ、マスター。もう大丈夫です」
「ナナ!!私、私、人を……」
「大丈夫です。私がいる間は誰も殺させはしません」
ナナは胸元でわんわんと泣きじゃぐるアイリスを慰めているとき、ドサッと物音がする。まだ、襲撃するつもりかと思い、作業台からナナが飛び出すと、そこには襲撃犯数人を縄で捕縛したアヤメの姿があった。




