朝の紅茶と少女との会話
俺が所属する盆栽部に入部したての村越 凛花は盆栽と言うか植物に興味があって前の部活を辞めてまで盆栽部に入部したらしい。
それにしても俺の女体化とタイミングが一緒だったので、俺目当てかなと一瞬疑ったけど、物静かな彼女を見てそんな訳ないと理解した。
全く自分目当てだと一瞬でも思った自惚れた自分にバカッ! と言いたいよ。
俺は電気ポットに湯を沸かし無糖の紅茶を入れた。始業前とは言え甘いお茶はどうかと思っての事なんだ。
「はい どうぞ」
「 …………ありがとう」
凛花ちゃんは一言言ってから首を縦に振った。むー無口と言うか、コレは俺のカンだけど、彼女はなんらかの理由で喋るのが困難に見えた。
もちろん今理由を聞き出すほど俺はゲスではないから、黙って一緒にお茶を飲んだ。
静かな時間だけが過ぎていく。
俺は凛花ちゃんに気を使って会話のネタを探していたら、彼女が立ち上がりサボテンの前にしゃがんで、興味深かそうに手に取って首をかしげた。
「どうしたの凛花ちゃん?」
「…………コレも盆栽?」
凛花ちゃんは部室で光が差す窓際に置かれていたサボテンに指差して聞いた。
「あー広い目で見ればサボテンも盆栽と言えると思って育てているんだ」
「 ? 」
「あーはいはい このサボテンは俺の死んだお爺ちゃんが大事に育てていた30年物のサボテンさ」
「凄い私より年上なんだ …………」
凛花ちゃんは20センチ程のマスクメロンサイズの丸サボテンを持ち上げ、感慨深く言った。
盆栽部の定義としては決めた形を何年もかけて維持し、育てることが盆栽と呼べる。
だから松や紅葉など一般的に思い浮ぶわのイメージの他に、サボテンとか西洋から来た植物もじっくり育てれば盆栽のカテゴリに入ると思っている。
「凛花ちゃんは植物好き?」
「…………うん」
コクリとうなずいた。凛花ちゃん本当に無愛想ではなく大人しいだけなんだね。
「俺も植物育てるのが好きで盆栽部に入ったんだよ。決して楽そうな部だから入部したんじゃないよ」
そう会話して俺と凛花ちゃんはほがらかに笑った。
キンコ――ン カ――ン コ――ン ♪
始業開始五分前のチャイムが鳴った。
「いけないっ時間だっ凛花ちゃん行こっ!」
「…………はい」
俺は急いで凛花ちゃんの手を取ってしまった。12月の朝だからやけにその手が冷んやりしていた。
「あっゴメンッそのつもりじゃ …………」
なにやってんだ俺はぁ、別にやましいことはこれっぽっちもないんだ。だから、謝る事ないって!
「手、暖かい …………」
「んっそうなの?」
女の子の手って冷んやりしたイメージだけど、女体化した俺の手って暖かいのか?
ま、いっか、それよりも早く教室に行かなくちゃね。
.
「外は騒がしいけど俺について行って」
「………… うん」
内鍵を外して扉を開けるとあれだけ集まっていた生徒達の姿はなかった。ちょっと安心したけどそれだけに始業時間が迫っている証拠だ。
「ちょっと急ぐよ凛花ちゃん」
「………… うん」
凛花ちゃんの握る手の力が強くなる。俺は凛花ちゃんを引っ張るように速足で一階にある教室を向かった。
教室に入ると皆んな着席していて、一斉に振り向いて注目された。巻き込んでゴメンね凛花ちゃん。
全ての授業を終えて放課後の時間だ。廊下には俺目当ての生徒達が待ち構えていた。
こりゃ参ったな。しばらくは沈静化しそうにないほどの人気だ。
ただ、俺の場合の人気は本物の人気ではないと読んでいる。例えると、今の俺の人気は、動物園の物珍しいパンダと一緒だ。
だから近づいて来る生徒達は皆決して俺のファンではないと思う。だって俺が女体化してからたった2、3日でファンになるか? こんなに早く俺のなにが分かると言うのだ?
本当に好きなのならばズカズカ踏み込まない。俺ならそうする。
俺は野次馬達を押しのけ白王子を探しに行く。しかし、正体不明な白王子がどこにいるのか見当もつかない。
心当たりがあるとしたら、校舎裏に広がる広大敷地。そこには立派な洋館がある。
別名クイーンの館と呼ばれる洋館だ。名前の通りクイーンに選ばれた生徒が住む館だ。
今も限界クイーンが住んでいるはずだ。通わないのかと疑問に思うけどクイーンの地位は絶大で、外を出歩くと狙われて危険なので、かえって学園の敷地内の方が安全みたい。
セキュリティも万全だし、なによりクイーンを守護する5王子がいるからね。
俺は野次馬生徒達を振り切って校舎裏にたどり着いた。
「はあはあはぁ …………」
ちょっと走って息切れしたよ。木の陰でしゃがんで休憩した。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」
男子に声をかけられた。流石にやばいと思った俺は立ち上がるとつまずいてよろけた。
「キャッ!」
不覚にも女の子らしい悲鳴をあげてしまった。どうにもコレは注意していても、本能的に女の子のリアクションが出てしまうらしい。
俺は決してその気はないと言いたい。
「大丈夫愛しのマドモアゼル?」
「えっ?」
注意して来た本人に俺は抱き抱えられていた。
そいつは俺が探していた白王子だ。
「悪い。もう大丈夫だ。離してくっキャッ!?」
俺は白王子に押し倒されて見つめ合った。
「マイハニー。僕に会いに来たの?」
「………… 」
んっ、そ、そうだけど ……だけど、そう言う事するために来たんじゃない。
「ゴメン離して」
「離さない」
「むぅ――っ離してっ!」
「いいや、決して離さない」
ちょっとコイツ強引だなぁ。
「 …………どうしたら離してくれるのかな?」
「ふっだったら目をつむってマドモアゼル」
「やだっ!」
その手は食うか! 目をつむらせた瞬間キスするのは分かっている。少女漫画でよく見る手口だ。
「ノンノン、ワガママな子猫ちゃんだね?」
「もうっいちいち臭い演技やめてくれないか? 俺はあんたに聞きたい事があっ んっんんっちゅっ …………んっ」
話の途中で白王子にキスされた!?
ああっ寄りによって俺の大事なファーストキスが男に奪われたっ!?
「ぷはっやめろっはむっ …………ん」
問答無用で再度口を塞がれた。
ああ、何故だ?
気持ちは否定しているのに、女体は白王子のキスを受け入れていた。
「んっんむっちゅっ …………ぷはってめっ!」
「ふうっコレで僕達恋人同士だね?」
「なるかっ!! クッソ!! ああ、俺のファーストキスがぁっこの代償はデカイぞ!」
俺は口を袖で拭うと、未だに上にのしかかる白王子を睨んだ。
こうなったら、秘密を洗いざらい白状してもらうからなっ!
主人公は勝気だけど、とってもか弱いです。まあそこが魅力です。