幕間 僕が追放されたチームのその後
リーダーにチームを追放された颯太の後ろ姿はすぐに見えなくなった。
あとを追いかけようとしたあたしにアプリが怪異の反応を知らせてくる。
チームのメンバーは階段を上がり地上に出てきた。
怪異の知らせを聞いても、緊張感は見受けられない。
このメンバーならどうにかなるだろうという余裕さえ浮き出ている様子だ。
「じゃあ軽くもうひと戦闘して、稼がせてもらうか」
(もう今までと同じように戦えるわけがないのに……)
☆★★★☆
あたしたちも怪異の反応があった現地に向かったけど、そこに颯太の姿はなかった。
どうやらもっと森の奥に行ったらしい。
対峙したのは一頭犬の怪異、さきほど倒した3頭犬と大きさは同じ。
けど、力も速度も劣るのは明らかだった。ランクでいえばC以下か。
だけど――
今のこのメンバーで挑めば調伏ランクは跳ね上がる。
あたしが手を貸さなければおそらく撤退するレベルかも知れない。
颯太の代わりの盾役は、怪異の鋭い爪による初動の攻撃すらも、結界で止めることが出来ず弾かれた。
「っむ、無理だ。振り下ろしてくるのか、横から切り裂いてくるのかも俺にはわからねえ……肩を斬られた……まさかランクAでは?」
あんな緩い初動攻撃で傷を負うとは情けない。
縦からか横からかのモーション判断も出来ないのか……
Aランク……そんなわけがない。
「何やってる! 盾役は抑えておくのが基本だろう。颯太に出来ていたことが出来ないわけがないだろう」
わけはある。おめでたい思考力。
他のメンバーは今まで通り遠距離、中距離の安全の位置から力を溜めているようだけど、もうその戦法は使えないんだってば。
安全地点から危険地点に踏み入れる覚悟がこのメンバーにあるのかしら?
「お前らも抑えに回れ」
イライラを隠せないリーダーが怒鳴り声をあげる。
盾役を買って出た人は、経験も資質もないことは明らか。いや資質はあるか。
結界を張れる能力は防御主体だし。
そもそも自分の結界に自信を持っていないから、慌てふためくのよ。
「なんて速く強い攻撃なんだ」
盾役に抜擢された人たちは思うように行かず涙目になっている。
「人数を増やしても変わらないでしょ」
ぼそっとあたしは呟いた。
みんな颯太がしていたことを当たり前に出来ると思って、軽んじて、あの動きをあたし以外の誰も目に焼き付けていない。
見ていれば飛躍的に成長できる余地があったのに。
どうせその場で言っても、聞く人たちじゃない。
自信だけはあるから。
受けるのは颯太に任せて、攻撃だけに集中すればよかった今までの戦闘。
どれほど楽だったのか、考えたこともないだろう。
でも今は違う。攻撃されるかも、受けきれないかもと心に抱きながら、警戒しながら、隙をつかなければならない。
その思いは精神を疲弊させ、集中力を奪う。
この状況に陥ってみんながパニックになっていることは、動きを見ればわかる。
頑丈な防具も攻撃するタイミングに合わせなければダメージを受けるのだ。
結界も意志を強く持ち、洗練させなければ強度は保てない。
颯太ひとりに負担を強いてきた。それはあたしにも言えることかもしれない。
盾という颯太がしてきた引き付け役は代替えが効かないポジション。
あいつがどれだけのことをしてきたか、この状況でもまだわからないなんて――
盾役の人は片ひざを着き、リーダーに助けを求める眼差しを向けた。
「役立たずが」
上手くいっているときはいいけど、空回りしだすと途端に颯太に向けていた本性の方が顔を出す。
リーダーがこれじゃあね。
このチームには、もはや何の魅力も感じない。
ため息をつきながら、苦戦している連中に嫌気がさしながら数歩前に出た。
「……みんな邪魔!」
あたしはタケミカヅチ様を神降ろしして、怪異に雷を落とす。
口から煙を出し、一時的に怪異の動きを止めた。
「よしっ、笹木よくやった。一斉攻撃だ」
リーダーの寝ぼけた声が聞こえる。
「邪魔だって言ってるでしょ! 雷帝の弓」
あたしは雷で作った矢と弓で怪異に狙いを定め、怪異の体を雷弓で貫いた。
粒子が上空へと舞い、輝石を落とす。
リーダーの指示を無視したあたしにメンバーの目は自然と向いた。
「この戦闘はお情けで助けてあげたわ。どれだけ自分たちが無力か少しは気が付いた?」
少し大きめの輝石を拾い、
「今までの貢献した分、貰っていきます。それじゃあみなさん、さようなら」
「なにぃ!」
リーダーに敵意を向けられる。
「当然でしょ。このメンバー全員より、あたしは颯太の方が強いと思っているので。颯太がいないこのチームにあたしが尽くす意味も義理もありませんから。ああ、次から気を付けた方がいいですよ。もうこのチームには護ってくれる人も倒してくれる人もいませんから。では、各自この経験を生かして頑張ってください」
あたしはにっこりとほほ笑んで、颯太がいる森の奥へと駆けて行った。




