第6話 僕の幼馴染は全力を出していない
後ろにいる二人の怪訝そうなオーラは嫌でも感じとれた。
午後6時を過ぎ、すでに担当地域の見回りは終えている。
共同生活のため僕たち3人は家へと帰宅。
僕の神様と幼馴染は視線を交わらせることなく、ぷいとお互いにそっぽを向く。
「とりあえず仲良くね。お互い誤解してる部分があると思うから、その辺払拭すれば……」
「誤解ってなに? ほたるがあたしを邪険にしてるのは事実でしょ」
「……ふっ!」
僕は今にもゴングがなりそうな関係に頭を抱える。
美優もほたるもいい子なんだ。
だから、ちょっとしたきっかけで……
「とりあえず夕食作るわ。何が食べたいの?」
「……」
美優はほたるに尋ねた。
ほたるが食べ物に興味を持っていることはわかっているみたいで、仲良くしようとは思っているらしい。
「なにも言わないなら、あなたにはおからでも食べさせるわよ」
「…」
なんだそれは……と不思議顔でスマホを弄り眉をひそめる。
よほどお気に召さなかったのか、耳が力なくぺたっと寝てしまった。
もう少し大人になれば美味しいのかも知れないが、僕も大好物ではない。
「そうた、お料理できるでしょ? 」
「僕より美優の方が上手いよ。僕もおから苦手だから出来れば別の物を」
僕の助け舟にほたるは乗っかり、首を上下に動かす。
「何を食べたいのか、言葉で伝えなさいよ。初対面じゃないんだし、あたしが気に入らなくてもそのくらい出来るでしょ」
「…オムライス…」
「OK。作ってあげる」
悔しそうに答えるほたると、勝ち誇る美優。
特にほたるはしてやられたという感じで、フラストレーションをため込んだみたい。
チッチがほたるにすり寄っていき、怒の感情を和らげているように思える。
ほたるの胃袋を捕まえて、仲良くなってくれと願うばかり。
☆★★★☆
ほたるはオムライスの真ん中にある旗を興味深々に抜く。
なるほど。これは面白い趣向なの。
パクリと口に入れ、尻尾を左右に揺らす。
美味しいそうだ。
「颯太、あんた力の制御してるとき何を意識してるのよ?」
「えっと……言葉にするの難しいな。その時で違うし」
「あなたにはそうたのやり方は無理なの」
「なんですって!」
「鎮めて。どうして僕に聞くの? 美優は雷神様の力ちゃんと扱えてるじゃん」
「扱えてない…少なくとも今のままじゃあの怪異はあたしには倒せない」
自分に足りないことを自覚し、対処するために思考することはいいことなの!
なぜ、心のなかでいう……
直接言ってあげれば美優なら何とかすると思うよ。
そうたは甘いの。人はあなたみたいに単純バカじゃない。
「悪かったな、バカで」
「はあ? なに言ってるのよ?」
「いや、こっちのはなし」
ほたるは味付けにも満足したようだ。
食後――
僕とほたるはリビングで日課となっている訓練を行う。
美優はそれを恨めしそうな目でみていた。
「力の制御ってところかしら。でも今までのとは何かちょっと違うきが……馴染ませてる感じがある」
「そんな感じだよ。ほたるの力、凄いんだ」
「しっ~」
この人にそれ以上喋るな。
「ふん……そうだわ。これあげる」
少し照れ臭そうに、美優はほたるに歩み寄り左耳だけが覆える赤いコットン帽子を差し出した。
どう見ても手作り。
これは嬉しいだろうな。2人の仲もこれで――
思った通りに上手くは行かない。特にこの2人は。
「……」
バシンっと美優の手を弾き、帽子は床に転がる。
「なっ、なにすんのよ!」
「……」
ほたるは獲物を見据える獣のような目で美優を睨みつけた。
仲が良くなるどころか、どう見てもこじれてしまっているようだ。
僕はほたるの契約者として、保護者としてちゃんと叱らないといけない。
★☆☆☆★
20分間に渡り、神様と幼馴染の睨みあいは続いた。
僕は2人の怒りを鎮めることにし、互いに頭を冷やすように言って別々にお風呂に入るように命じる。
柔らかくだけど、ここは従ってもらう。
互いを尊重して、あまり口を出さないようにしようとしていたけど、考えを改める。
ほたるが先にお風呂場に向かったので、美優と二人きりで話すことにした。
「どう考えても悪いのはあの子でしょ! あたし、帽子をプレゼントしただけじゃない」
ソファに足を組み、僕に愚痴を吐き出す。
「理由があると思うけど、ほたるにはちゃんと注意する。美優、ほたるはいい子だよ」
僕はそれでもほたるの味方になる。
「どうだか! とてもそうは思えないわ」
「そんなにほたるのこと気に入らないの?」
「はっきり言って気に入らない。あたしのこと見下してるし、チームから追放しようとしてんのよ。にこにこなんて出来るわけないわ」
「美優のこと、僕はほんとにすごいと思ってる。強さも才能も人としても。ほたるは僕の神様なんだ。あの子のこと絶対に守るって約束した。僕はほたるに笑ってほしい。僕と美優の前では気兼ねなく接してもらいたいんだ。それこそ家族みたいに」
美優は口を尖らせ、湯気の立つ紅茶を啜り、
「あたしがすごい。冗談言わないでよ。エリートって言われてることなら、あんなの力の把握が出来ない人が適当に言ってるだけじゃない。あたしには颯太ほどの吸収力も集中力もないわ」
「……怒らないで聞いてほしいんだけど……」
「なによ?」
「戦闘の時、本気で戦ってないよね?」
「……」
ぱちぱちと瞬きをし、
「全力出してるに決まってるでしょ」
「じゃあ苦手なのかもしれないな」
「このあたしは苦手なことだらけだからね。最後にはいつも颯太に抜かれるし」
「僕、全力出してやっと何年かして美優に追いついてるだけだよ。美優がその気になったら敵うわけがないからね。今の僕のままならだけど」
「あたしを過大評価し過ぎよ。それに自分も過小評価しすぎ」
「ほたると仲良くしろとはもう言わない。でも、ちゃんと見てあげてあの子を。そうすればたぶん美優はもっと強くなれる」
意味が分からないという顔で美優は僕を見つめた。
「お姉ちゃんのあたしに随分と生意気なこというじゃない。ふん、いいわよ。あの子をちゃんと見て評価してあげようじゃない」
暫く沈黙したあと、自信を取り戻したかのような顔を作る。それはいつも僕の前を歩いている美優の惚れてしまいそうな表情だった。
これで美優の方は大丈夫かな……
美優のすごさを一番わかっているのは、間近で見てきた僕だからな。
あとは僕の神様の方か




