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力を使うとお腹を空かす桜狐の姫は今日も僕に懐いてくれない~追放された底辺調伏師の僕はヒーローを夢見る~  作者: 滝藤秀一
第2章ー1 僕の幼馴染はご機嫌斜め

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第2話 僕の幼馴染と神様は火花を散らす

 僕が退院してから、一週間が経過していた。

 春休みも残り僅かになっていたけど、新種の怪異のおかげで僕たちは大忙し。

 でも、あれ以来ほたるの暴走は収まった。


 完全に制御できるかと聞かれると、まだ自信を持って肯定できないけど――

 コントロールは出来る。


 朝晩のいつものトレーニングの他にほたるに付き合ってもらって力のコントロールを行っている。

 もう二度とあんなことにならないように僕の神様は僕が守る。



 ほたるは僕の前では明らかに口数が増え、ごくまれに笑顔も向けるようになってくれた。




 気温が一番高くなる時刻。

 神様と2人、駅前を少し歩き、目的地であるお店の前で足を止める。

 そのショウケースには、あんみつ、ぜんざい、小倉あいすなどのサンプルが食欲をそそるように並べられていた。


 ほたるは見ただけで耳を立て、隠れた尻尾が小刻みに左右に揺れるのがわかった。


 僕の袖をつかみ、1秒でも早くと入店する。

 女性客が大半を占める店内。

 座布団が敷かれている椅子に腰かけると、店員さんによっておしぼりとメニューが手渡された。


「僕は白玉あんみつにしよう」

「しらたま……美味しそうなの。私はそれにクリームをつけるの」


 チームを追放されたときはどうなるかと思った。

 だけど、ほたると出会えたことで神降ろしも出来るようになったし、調伏出来るようになり収入が増えるだろうし、生活も前よりも楽になる気はする。


 チームには僕とほたると美優しかいないし分け前で揉めるということは皆無。




「これがしらたま……なの」


 テーブルに置かれたあんみつの白いたまをスプーンで突いたり、鼻を近づけたりしている。


「いただきます」

「いただきますなの」


 きちんと手を合わせ、ほたるは甘味を銀のスプーンで掬いその小さな口へと運ぶ。


「にょ!」


 味わったことのない感触だったのか、可愛らしく可笑しな声を上げる。


「こっ、こんなおいしい物食べているなんて人間はずるいの」

「食べてみたいものがあれば、僕がいくらでも付き合ってあげるから」

「……」


 ほたるは一瞬考えこむように沈黙する。


「わたしは餌付けされたりしないの」

「わかってる」

「2人だけのチーム。そうた、目的のために頑張ろうなの」

「うんっ……って美優を忘れてるよ」


 ほたるは少し笑顔で2口目を口へと入れた。


 この子の中でまだ美優はチームメンバーではないようだ。

 笹木美優を人間的に認めてない――

 いや、人間嫌いな自分に信頼してもらう何かを見せてほしいと思っているのかもしれない。



 ☆★★★☆



 公園から入った森の中。辺りは薄暗くなっている。

 僕たち3人だけのチームが対したのは、以前にもやりあったことのある新種の怪異ケルベロス。

 攻撃パターンを覚えていた僕は、その前足の爪での攻撃を仰け反る形で避けた。


「ほたる、美優!」


「落雷の爪」


 その瞬間にケルベロスの頭上から落雷が貫通。

 僕が屈むと、ほたるは飛び越えるように前に出て、桜色の大きな花びらの炎をケルベロスに向かって放つ。


「桜火の一花」


 それは怪異の硬い、硬い皮膚を粉々にした。

 高い木のような形の火柱を上げた後、炎の花弁を咲かせ、怪異の消滅と共に散っていく。


 僕の物と形は違っても扱っている炎は同じもので、強い桜火だ。


 怪異は粒子となって上空に舞い、大きな輝石が残った。

 ケルベロスの怪異を3人で瞬殺出来たことは自信になる。


「怪我は?」

 ほたるは小走りに駆け寄ってくる。


「大丈夫。いいタイミングだった」

「当たり前なの」


 僕の神様であるほたるは、少し視線をそらし右手をグーにして突き出す。

 僕はそれに答え、グータッチで答えた。


「息ぴったり。あたしとほぼ同じタイミングでやって見せるなんて」


 美優は、信じられないというふうにほたるを見やる。


「扱う炎の力強さが前よりも上がってる。例の強い瘴気が実体化した奴を調伏してから明らかに……」

「……」

 ぷいっとほたるは美優から目をそらす。

 あなたとはお話しないのというのが態度に出ている。


「くうぅ、相変わらず態度悪いわよ! あんたの神様は」

「う、うん……ほたる、美優と仲良くしてよ。僕たち、3人のチームなんだし」


 表向きだけならうまくやりたいの。そうたと二人のチームだと思ってるけど。

 心の声が――


「それにしても、こんなにはやくここまで力を付けるなんて……」


 美優は僕の方をじっと見て悔しそうな顔をする。


「なに?」

「なんでもないわよ」


 ほたるは美優を睨むようにしてみて、自分のお腹を擦り持って来ていたお饅頭のフィルムを取る。

 小さく口を開けパクりと齧り付いた。

 僕の方を見て、片耳を立てて尻尾を振る。

 それは美味しいという表れだともう確信していた。


 ほたるは少し悩んだ末に小腹を満たすために用意していたそれをポケットから出して、僕にも食べるように促す。

 ほたるの行為が嬉しくて、遠慮せずに粒あんが入ったそれを食べた。


 美優は僕たちを細め睨みつけるように見ていたが、


「あっ、そうだわ。あなたたち何か力隠してるでしょ? 戦力把握のため何か覚えたなら見せなさい」


 いつもより余裕を持って戦っているのが分かったのかな?


「ええっと……」


 どこから説明しようか。


「別に。教える必要はないの」

 ぷいっとほたるはそっぽを向く。


「なっ、なんですって!」

 もうこの場では話もしないというふうに口を結ぶほたる。


「まあ、まあ。ちょっとまだ完ぺきとは言えないから」

「そ、そう。なら仕方ないわね」


「なんでこの人、偉そうなの……」


 ぼそっと呟くほたるにキッと強い視線を向ける美優。

 僕の神様と幼馴染は目を合わせ、火花を散らしているように思えた。

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