第19話 僕は神様に生きてほしい
ほたるに向かっていた数人は足を止めこっちを見た。
「何を言ってる?」
「やだなぁ、耳遠いの。この子の言ってることが真実って言ったんだよ。あなたたち本当に選りすぐりの調伏師? みんなこの子より弱そう。その神様になんかしたらぶっ飛ばすからそのつもりで」
顔を見ようと振り向こうとしたけど――
「前だけむいてなさい。昨日のあれ、見てたんだよ。正直揺さぶられた。あなたの神様を元に戻して、自分の言葉を証明してみせなさい」
「うんっ」
誰だか知らないけど凄い感謝。
僕は立ち上がって一歩、一歩ゆっくりとほたるに近づいていく。
向かってくる炎の弾丸はすべて受ける。
避けるのはもったいないと思ったからだ。
受けるたびに、ほたるの心が僕に語り掛けてくる、そんな気がした。
わたしの唯一、絶対の大好きな人はお姉ちゃんなの。
「そっか、それはぜひ会ってみたいな」
人間は大嫌いなの。
「僕も嫌いな人は多いよ。僕、人付き合い苦手だから」
あなたがわたしの封印を解いてしまったの。
生きるのをやめようとしたのに――
「そっか……ごめん。でも、生きてほしかったんだよ。笑ってほしかったんだよ」
人間がお姉ちゃんをわたしから奪ったの――
「それもあって、人が苦手だし嫌いなのか。許せないな。探し出して一発殴ってやろう」
次々に僕目掛けて弾丸の炎が飛んでくる。
進むことをやめない僕を見て、ほたるに攻撃しようとしていた人たちの目がこちらを向く。
カレーパン美味しかったの――を食べてみたかったの。
「今度、買ってあげるよ。僕も食べたいし……」
今度はないの……
(そんな悲しいことは言わせない)
「あるさ」
いずれこうなることはわかっていたの。これはあなたのせいじゃない。
「僕はほたるを守る。君の笑顔が見たいから。君の辛さが、悲しさが僕にはわかるから。今からは目を背けずに一緒に背負うから」
炎の正面に立って両手で触れる。
「戻って来て。絶対に後悔はさせないから。僕はほたるに生きていてほしいんだ」
あなたはいつもボロボロになるの。
でも、そのたびにわたしに教えてくれる。
そんなにそばにいて欲しいの?
「うんっ。神様、お願いします。この先も僕に力を貸して」
だけど、この力はわたしじゃ制御出来ないの。
もうあなたの声を聴いても戻れない。
「大丈夫。僕に力を貸して。僕の身を案じる必要はないんだよ。僕がほたるのその強い力を制御するから。心の声が聞こえる今なら、それが出来るはず。今の僕に迷いはない。今度こそ絶対必ずほたるを守る。僕はほたるを信じてる。だから、ほたるも僕を信じてほしい」
馬鹿なの。
本物の大馬鹿なの。
死んでも知らないの。
……
…………
………………
道連れにしてやるの……
大きな桜の花びらのような炎が上空に舞い、それが僕のところに落ちてくる。
おかえり、火垂る。
さすが僕の神様。すごい力を秘めているんだな。
前よりも強く、そして激しい。でも少し優しいように感じる、まさに燃える炎。
ほたるが抑えていた力を貸してくれるなら、制御するのは僕の役目だろ。
この時のために、この子を助けるために、僕は毎日訓練を重ねていたんだ。
暴れるな。乱れるな。統一させろ。
桜の木の大きな御神木。僕はまだまだ器としては役不足だ。
でも、僕がほたるの契約者だ。
「んんっ!」
赤い炎は徐々に桜色に変化し、小さな体に戻していく。
あなたはわたしを何度も助けてくれた。
感情を揺さぶり、死を恐れたからこそ封印していたこの力は漏れ出たの。
人間は信用できない。
でも、あなたは人間だけど大嫌いではないの。
一緒にいるとお姉ちゃんを思い出す。
だから契約したの。
自分のことより他人を考えるアホな人。
すぐボロボロになる危なっかしい人。
すぐ馬鹿なことをする人。
わたしと同じ悲しい経験をしている人。
ほうっておいたらすぐに死んじゃう。
その馬鹿さ加減に免じて、しょうがないから少しだけ信じてあげるの。
わたしもあなたに死んでほしくない。




