幕間 僕を追放した元リーダーの心情
調伏師が訓練している大きなホテルの地下。
そこはあるひとつの病名【怪異症候群】を改善させるためだけの医療施設になっている。
怪異の瘴気に中てられ感情を乗っ取られた者は負の感情を浄化し、正常に戻ったと判断されれば、一般人ならばその後日常の生活に戻れる。
もちろん監視がつき、定期的な検診を受託しなければならないが。
怪異と対面する機会が多い調伏師は、一般人より免疫が強いとはいえ発症することは確認されている。
今回は7人が軽度の発症。一人が重度の発症。
新種の怪異は発症率も跳ね上がるようだ。
怪異症候群に発症者からの感染性はない。
「話ができる?」
受付で怪異症候群のスペシャリストを呼びだそうとしたが、ちょうど私に気が付き彼女の方から近づいてきた。
「ええ。薬が効いて、潜伏期間も過ぎた。今回の彼は今までの患者の中で一番危険度が高かったわ」
「罪は当然償ってもらう」
「颯太君がいなかったら、もっと酷いことになっていたと思う。神降ろし出来たってきいたよ。日和、その辺話題にしてお茶でも飲みに行きましょう」
「ええ。じゃあ待っていて」
私は御堂進の病室へと向かった。
ベッドに上半身だけ起こして、御堂進は黙って私の話を聞いていた。
「あなたのしたことは、弁解の余地も出来ないほどひどいこと。怪異症候群にしても、抑えられなかったあなたが悪い」
「俺は……」
御堂進は両手を爪が食い込むくらいまで握りしめていた。
自分への怒りなのか、颯太君への恨みなのか判断が付きにくい。
「自分のことしか考えられないリーダーは必要ない。もちろん今までリーダーとして活動させていたことは、周りの大人である私たちの責任でもあるけど」
「どんな罰でも受け入れる……あいつに、颯太に悪かったと伝えておいてくれ」
潜伏期間が抜けたとはいえ、態度が軟化しすぎている気もしないでもない。
何かあるのかと勘ぐってしまう。
「はあ……」
それに言葉だけの謝罪なんか、私は受け付けない。
今まであの子が受けてきた仕打ちを思うと、胸が締め付けられる。
感情的になって、御堂進に拳を打ち付けたい。
だがそれは出来ない。颯太君はそれをしなかった。
ほたるちゃんのことだけを想って――
「調伏師のライセンスははく奪。これから長期間、拘束されるからそのつもりで」
御堂進は凍り付くような冷たい目を私に向けて、
「わかってる」
ほんとにそうだろうか?
何かが引っかかる。
「当然犯した罪は消えない。だからそれは償わなくてはいけないけど……あえて今言う。1つ、颯太君から伝言がある。どうするかはあなた次第」
私は少し考えながら、口にした颯太君を思い出しながら彼の言葉を伝えた。
☆★★★☆
狭い病室の殺風景な部屋。
そのベッドに仰向けになり、薄暗い天井を見やる。
悪かったと伝えてくれ。
なぜあんなことを――
俺が悪いわけじゃない。
なぜこんなところに俺はいる?
俺は調伏師のチームリーダーだ。
いい暮らしが出来ていた。充実した毎日だった。
だがそれもすべて奪われた。
あの落ちこぼれのせいで――
あいつが、あいつらさえ居なかったら――
俺の中にいる冷気を放つそいつの声が初めて聞こえた。
「我慢するな」
そうか。感情に身を任せるべきなんだ。
俺は特別なんだ。
俺にはその力がある。
何をしてもいいんだ。
牧颯太――
あいつだけはぶち殺してやる!




