098
毬菜がいなくなって一日が過ぎた、僕は自分の部屋でゲームをしていた。
やっていたのはもちろんソノサンのガキ。
大翔のいない家に、毬菜までいなくなった。
「僕は寂しくなんかない」
ゲーム画面を見ながら、僕は独り言をつぶやく。
見ているゲーム画面は、いつの間にか終盤のステージに来ていた。
そんな時、僕の家のインターホンが鳴った。
表情が少し緩んで玄関に行った。毬菜が帰って来たんだ。
だけど、それは僕の期待を裏切るものだった。
「あなたに話があるわ、幸神 広哉」
それは、加布羅兄さんのコントローラー香春だ。
というわけで、今は香春が僕の部屋に来ていたわけだ。
「このステージはこの石を消すと早いわよ」
しかも僕の隣で体を寄せながら口出しをしてきた。
確かに支持がかなり的確だ。香春の言うとおりに石を消すと、ショートカットができた。
「詳しいな」
「当然よ、あたしよりこのゲームに詳しい人はいないわ」
胸を張って堂々としている香春、なんだか悔しいな。
「あんたも結構このゲームが得意みたいね」
「僕が初めて勝ったゲームだから」
「でも、次は負けないわよ」
香春はやっぱり毬菜がいないとかなり高圧的だ。
攻撃的で、いまどきの女子大生だ。化粧も濃いし。
「僕だってここまで来たんだ、負けるわけにはいかない」
「そうよ、ファラオになるためにここまで来たのだから」
「そっちはファラオになって叶えたい願いがあるのか?」
「もちろんあるわよ」
「まさか毬菜関係の願いとかじゃないよな」
「そっちもいいんだけどね。マリちゃんをあたしの妹にしたいっ、とか。
だけどこの願いはあたしとアイツの願いだから」
「加布羅兄さんか」
ゲームをしながら、僕は会話に参加していた。
「そうね、願いは既に一致したわ。叶えられるのは一つだから。
あんたのところも願いの話をしたのでしょ」
「……うん」
毬菜は僕の願いを知っている。だけど毬菜の叶えたい願いはあるのか知らない。
僕の願いと異なり、毬菜にも本当は願いがあるのだろうか。
「あなたはいいわよね」
「何がだ?」
「マリちゃんはとってもいい子よ、育ちの良さが分かるわ」
「そいつはどうも」
「だけどあんたは最悪ね」
「なんでだよ?」
「マリちゃんにひどいことを言ったでしょ」
香春の言葉に、胸につままれる思いがした。
「ひどいこと?」
「マリちゃん、どうしてあなたのところにいないのよ?」
「それは……」
「まあ、あたしだって加布羅と喧嘩するけど」
「喧嘩?」
「うるさいわね、あたしはいいの」
香春は厳しく言い放っていた。
「そんなことより、あなたは絶対に勝てないわ。あたしはこのゲームが得意だから。
そう、次のゲームは解禁するわよ」
春香の不敵な言葉に、僕は嫌な予感がした。




