096
いつのまにか自分の部屋に戻ってきていた。
僕と毬菜は気難しい顔で入っていた。
いつになく無邪気な毬菜も不満を浮かべていた。
「僕はとてもついている。加布羅兄さんとの勝負で、得意なソノサンのガキ」
「うん、そうだね」
「じゃあ僕はゲームをする、次のステージはクリアできないところから始まるからな」
「うん」
「飯はいつものカップ麺でいいな」
「うん」
「なんだよ、反応薄いな」
僕の言葉に、毬菜がどこか元気なく微笑んでいた。
そんな毬菜に構っている必要はない。
まだこのゲームは続くのだ。後二つのステージもリードしないといけない。
「じゃあ、僕はゲームをするからな」
「ねえ、広哉」
「なんだよ、僕は忙しいんだ」
そのまま毬菜を無視して、背中を向けてゲームを始めていた。
後ろにいる毬菜は、じっと僕を見ていた。
「広哉って本気で勝てるの?」
「当り前だ、僕達の勝利は僕達の目的に繋がる。
もちろんゲームに勝つことが、一番の目的だ。相手は加布羅兄さんなんだぞ」
「ねえ、広哉はゲームに勝つにはどうすればいい?」
「もちろんスキルだ、プレイヤーのスキルだけだ」
僕はためらいもなく言い放った。
それを聞いた瞬間、毬菜の顔が曇っていた。
だけど毬菜の顔をいちいち見ている様子はない。
これがチャンスなんだ、唯一加布羅兄さんにゲームで勝てるチャンスなんだ。
「そっか、広哉は大事なことを忘れているよ」
「絆とかいうのか?違うさ」
「もちろん絆っ!」
「なぜだよ、今回の目的は勝つことだ。
相手は加布羅兄さんしかいない、加布羅兄さんに勝たないと先には進めないんだぞ」
「分かっているけど、広哉はあたしに最近冷たい」
「それは……勝手にお前が住みついているだけだろ」
僕は激しく言うと、毬菜は急に泣き出しそうな顔へと変わっていく。
だけど、毬菜に対して僕はさらに強く出た。
「毬菜こそ、僕を利用しているんじゃないのか?
大体通り魔だろ、仮にも僕が警察つき出せば毬菜は終わりなんだぞ」
「……ヒドイ」
うつむいた毬菜はそうつぶやいた。
それを言った僕も気難しくなっていた。
「お前が……」
「もういい、広哉なんか嫌い!」
毬菜はそう言いながら僕から離れて行った。
その日、毬菜が戻ってくることはなかった。




