第一章 7:下水路にて
暗闇のなかを、剣筋が一閃する。
シュタインの黒髪がわずかに揺れる。その目の前で、修道服姿の女がどさりと倒れた。腹部は真一文字に切り裂かれている。
しかし流れるのは鮮血ではなく、どろりとしたどす黒く粘性の強い液体だった。
彼の視線の向こう側では、まだ二人の修道女が獣のように威嚇をしながら牙をむき出しにする。
ふと、シュタインの頭上からぽとりと水滴が落ちた。視線を上げた瞬間、唾液を飛び散らせながら修道女が降りかかってくるのが見えた。
しかし剣を構えるよりも早く、彼の背後から、青白く揺らめく球体が修道女を弾き飛ばす。
修道女の体は壁に激突する。壁が大きくひび割れ、その衝突の凄まじさが知れる。修道女の体はそのまま青白い炎に包まれ、声にならない絶叫をあげて黒焦げの残骸を残した。
「油断し過ぎよ、シュタ」
シュタインの背後の暗闇から、人影が浮かび上がった。
黒いマントに身を包み、目深に被った黒のフードの奥には青白い顔が覗く。フードの隙間からは、銀色の長い髪が滑らかに流れていた。
「もっと早く来てくれよな、ルナ。こっちがどんだけしんどいか…」
シュタインの言葉に、露骨に嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「嫌よ。服が汚れちゃうじゃない」
羽織っているマントを手繰り寄せると、裾をぱんぱんとはたく。
「…ったく。わがままなお嬢さまだ」
襲ってくる修道女の腕をすんでのところで躱すと、シュタインが剣を振るう。
あっさりと、二人の修道女が斬り倒された。
転がる三つの死体に向けて、ルナは小声で呟くように詠唱を紡ぐと、左腕を横に薙ぎ払う。三つの死体が、ぼおっと青白い炎に包まれた。
王都の地下を流れる下水路。じめじめとした空気が、つんと鼻を刺すような刺激臭を漂わせる。
「大丈夫なんでしょうね。この二面作戦」
ルナが疑いの目を向ける。
しかしシュタインは意にも介さず、にこりとさわやかに微笑んで返す。
「信頼できる人物に頼んであるからな。どっちもやってくれるさ」
「どうだかね」と、ルナは嘆息する。「ま、こっちはこっちで、やることやるしかないか」
下水路の暗闇はまだ続いている。
その先を、二人は真剣な面持ちで見つめた。




