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BLOOD STORY  作者: 初、
22/48

第二章 8:鐘楼の街へ

「さっきは悪かったな」

 言葉とは裏腹に、まったく悪びれた風もなく、隊長はにやりと黄ばんだ歯を見せる。

 名前を、クラウスという。ブロム家の私兵を束ねる隊長だということだが、いわゆる傭兵あがりだ。

 そもそも私兵自体が、傭兵の寄せ集めらしい。

 ヴァルターが用意した馬車で、ルナとシュタインは一路、ベルフェルへと向かっていた。

 同乗しているのは、隊長のクラウスと、もう一人の兵士。

 乗合馬車よりも簡素な馬車で、がたがたと揺れもひどい。

 車輪が小石を踏むたびに、ルナの体が小さく跳ねた。

「あんた、強いんだって?」

 クラウスが、シュタインに不躾な視線を向ける。

「なんで、おれたちに捕まったとき、抵抗しなかったんだ?」

 シュタインが短く息を吐いた。

「買い被りだろ。あんな人数に囲まれたら、手も足も出ないさ」

 言いながら、シュタインは肩をすくめて見せる。

「ふん」と、クラウスは鼻を鳴らした。

「ブロムさんがあんなに丁重に送り出すんだ。よほどの大物なんだろ?」

「どうかな」と、再び肩をすくめるシュタインを、クラウスはにやりと笑って見る。

「機会があれば、手合わせをお願いしたいものだ」

 がたんと馬車が揺れて、ルナの体が弾む。

 クラウスの視線が、彼女の方を向いた。

「そっちの姉ちゃんは、――確か、リ…」

「ルナ、よ」

 黒いフードの奥で、ルナが睨む。

 虚を突かれた様子で、クラウスが振り向いてシュタインを見た。

 シュタインは口元を歪めながら肩をすくめて、それに応える。

 視線を窓の外に戻すと、ルナは深く息を吐いた。

 ――リディアは、シュタインの元パートナーの名前だ。

 彼女は、ルナと同じ銀色の髪の、聡明な女性だった。

 リディアも、今のルナと同じように、黒いフードを目深に被っていた。というより、ルナが彼女の格好を真似しているといったほうが正確だ。

 ルナが、彼女を知っている期間はたったの二週間。

 だが、彼女の存在は、ルナの中でとても大きい。実の姉のように慕っていた。

 そして、彼女は唐突に居なくなった。

 一年前。とある事件の最中、――ルナを庇って命を落としたのだ。

 今でも思う。自分が、二人と出会うことがなければ、彼女は死ぬことはなかった。

 彼女の代わりに、今はこうやってシュタインと旅を続けている。

 だから決して、彼の足を引っ張るわけにはいかない。ましてや自分のでせいで、彼を危険に陥れるようなことがあってはならない。

「聞いてなかったわ。名前は?」

 窓の外を眺めたままで、ルナが問う。

 怪訝な顔つきで、彼が名乗る。

「クラウス、だが」

「違う」と、ルナが振り向いて睨んだ。

「消息不明の、娘の名前よ」

「ああ、そっちか」と、クラウスが笑いながら答えた。「テオドラだ」

 肖像画の少女を思い出す。金色の髪の、あの安心しきった笑顔。

 馬車は、速度をやや上げて街道を進む。

 どれくらい時間が経っただろうか。幾つかの森を抜けて、ふっと視界が開けた。

 崖下に街並みが見えてきた。

 高い壁に囲まれ、色鮮やかな屋根がいくつも連なっている。街の中央の小高い丘には、石壁の高い塔が見えた。

 ここからでは見えないが、その塔には聖なる鐘が吊るされているはずだ。

 鐘楼の街――。

「あれが、ベルフェルだ」

 ルナの隣で、クラウスが窓の外を見ながら言う。

 眉をしかめてルナが彼を睨むが、クラウスは意に介した素振りも見せない。

 風が、ルナの銀色の髪を揺らす。

 緩やかな下り坂の途中で、車輪が小石に乗り上げた。

 ルナの臀部が二回、座席で軽く跳ねた。

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