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BLOOD STORY  作者: 初、
20/21

第二章 6:失われた便り

 商業都市エルドヴァル。

 自宅の執務室で、テーブル越しにヴァルターが二人を見つめる。

 先ほどまでの芝居かかった態度とは一変して、今は胸の前で手を組んで、沈痛な表情だ。

 その正面の席で、シュタインとルナが彼を見る。シュタインは怪訝そうに。ルナはやや顔を背けて、疑わしそうな視線を向けていた。

「私には、一人娘がいましてな」

 ヴァルターが独白するように続ける。

「遅くにできた子で。私にとっては目に入れても痛くない、本当に宝石のような娘です」

 シュタインは少し興味を惹かれたようだったが、ルナは相変わらずだ。

 不機嫌そうに巡らせたルナの視線が、書斎机の上に飾られた小さな額縁に留まった。

 額縁の中には、少女の絵が飾られていた。

 金色の髪の下で、優しげに微笑む少女の肖像。

「ご覧のとおり、こういった商売をしていると敵も多い。汚れ仕事を引き受けることもある。とても娘を手元に置いてはおけないので、寄宿学校に預けてある」

 ヴァルターが深く息を吐いた。

「毎週届く、娘からの手紙が生きがいでね。それが、先月から届かなくなった」

 ルナがすっと目を細めた。

 かたん、と椅子を引いて彼女は立ち上がり、書斎机に近づく。

 肖像画を手に取り、絵画の少女を見つめた。

「かわいい娘さんね」

「ありがとう…」と、ヴァルターが力なく笑ってみせた。

 ルナはそっと額縁を机に戻す。

「それで、寄宿学校に出した捜索隊はどうなったの?」

 ルナの問いかけに、ヴァルターが驚いたように顔をあげた。

「どうして、それを――」

 ルナが呆れたように苦笑する。

「そりゃ、そうでしょ。こうやって私たちを連行するぐらいなんだから」

 そして、ヴァルターを見据える。

「――そして、捜索隊に何かあったんでしょ。じゃないと、わざわざ私たちを無理やり連れてくる必要もない」

 ヴァルターが瞬きをして、シュタインを見る。その表情には驚きと困惑が混ざっていた。

 シュタインはおどけるように肩をすくめてみせた。

 一度、言葉を飲み込んで、ヴァルターは決心したように二人を見比べながら続けた。

「様子を探らせるために派遣した私兵は、誰ひとり、戻って来ませんでした」

 そして、テーブルにつくほど深く頭を下げる。

「どうか、お願いです。娘の様子を――、娘の安否を確認してもらえませんか」

「いいわ」と、二つ返事でルナが答えた。

「いいでしょ、シュタ」

 ルナがシュタインを見る。その口調はすでに強制的だ。

 シュタインは再び、肩をすくめた。

「お嬢さまの仰せの通りに」

 ルナは満足げに、ヴァルターの方に向き直る。

「それで、その寄宿学校はどこにあるの」

 ヴァルターが目を閉じて、静かに息を吸う。

 しばしの沈黙。

 再び開かれた彼の目は、真っすぐに二人に向けられた。

「――ベルフェルです」

 思わず、ルナとシュタインは目を見合わせた。

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