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第31話 清華さんとトレーニング2

「はぁ、はぁ。」

「拓人くん。ラスト、10秒全力で頑張って。」

「だぁーー!」

「はい!そこまで。」

「疲れた〜。」



 トレーニングを始めてから、約1時間。

 ボクシングのトレーニングはきついと思っていたけど、想像の500倍キツイ。


 遡ること、1時間前。

 怪我をしないように入念にストレッチをした後、俺は武田さんに基礎のフォームを教えてもらい、

 シャドーボクシングでそれを固める作業を30分行った。

 だから、正直言って最初はそこまで、キツくなかった。

 だが…そこで油断したのが命取りだった。

 次のトレーニングは、サンドバック打撃トレーニングを3分5セット行う。

 俺は初心者のため、武田さんには、「まずは3セットにしましょうか」と勧められた。

 しかし、清華さんが5セットやっているのに男の俺が3セットではかっこ悪い。

「5セットでお願いします!」と意気込んで清華さんと同じトレーニングに挑戦した。

 しかし、全力の連打とフットワークを使い、コンビネーションを行う全身運動に完全にやられ、終わる頃には一歩も動けなくなるほどヘロヘロになっていた。


「拓人くん。大丈夫?」

「だから3セットでやめとけって言ったのに…。はい、水よ。」

「あ…ありがとうございます。」

「次はミット打ちなんだけど…。すぐには無理そうね。少し休憩でもしましょうか?」

「…たすかります。」

「清華ちゃんも少し休憩しなさい。」

「私は大丈夫です。まだやれます。」

 

 サンドバッグ打ちでグロッキーな俺をよそに清華さんはピンピンしていて、6セット目をやっている。


「清華さんあのトレーニングをやって、まだ動けるなんてすごいですよね。俺も体力には自信があったんですけどね。全然動けませんでしたよ。」

「まあ、普段と違う動きをすればいつも以上に疲れるし、清華ちゃんはこのトレーニングをもう2週間くらい続けてるからね。今日始めたばかりの拓人くんより清華ちゃんの方が動けるのは当然よ。」

「えっ!?こんなトレーニングを2週間も!?」

「ええ。うちの練習生たちよりも、はるかに練習熱心よ。映画の役作りとはいえ、普通、ここまで努力できないわよね。」

「ホント……、カッコイイですよね。」

「あらっ!ひょっとして拓人くん、清華ちゃんのこと好きなの!?」

「ち、違いますよ!俺はただ…清華さんのことを尊敬してるんです。」

「尊敬?」

「…はい。俺のような素人から見ても分かるほど演技の才能を持っていて、しかもその才能を上回るほどの努力をしていて、周囲の期待に応えようとする。そんな清華さんを見て来た、だから。そんな清華さんの助けに…。期待に応えられるように、最善を尽くしたいんです。」

「ふ~ん。」


…何を口走ってんだ?…俺は。

武田さんにいじられて、つい、反論を。

しかも、妙に恥ずかしいこと口走ってしまった気がする。

おそらく、俺が清華さんの食事管理をしてるって武田さん知らないはずだし。

ちらりと、横の武田さんの顔を見ると、キョトンとした顔でこちらをみている。

やっぱり…。

武田さんからしたら完全にわけわかんないこと言ってる人だよな、俺。


「何だかよく分からないけど、要は、拓人くんは俳優として、清華ちゃんに憧れてるのね。」

「え!?え、あっ…そうですね。」



確かに、事情の知らない武田さんが俺の言った言葉を分析したら、そういうことになるのか?


「まぁ、演技のことは専門外だからよく分からないけど、このボクシングトレーニングに関しては拓人くんもあと1週間トレーニングをすれば清華ちゃんと同じように動けるようになるわよ。」

「あはは…。できたらやりますよ。」


流石に、このトレーニングを1週間も続ける体力を気力も俺にはないからな。遠慮しておこう。


「さてと、拓人くんも体力が戻ったみたいだし、そろそろミット打ちを始めましょうか?清華ちゃんもミット打ち始めるわよ。準備して。」

「「はい!」」



その後、相変わらず俺がトレーニングへとへとになること意外は何の異常もなく、ミット打ちトレーニングは進んでいった。

そして、トレーニングも終盤。


「そうーそれでいいわ。いいパンチよ。次、ワンツー。」


武田さんの掛け声に合わせて清華さんの左右の連続ジャブが綺麗にミットを貫く。


「ラスト!アッパー!」


そして、

渾身の右ストレートが武田さんが胸の辺りに構えたミットに目掛けて打った瞬間。


「っ…ッ!」


清華さんが突然、脇腹を抑えてうずくまってしまった。

俺たちは急いで駆け寄り、様子を伺う。


「清華さん!?大丈夫ですか!?」

「どこが痛いの?」

「右の脇腹のところが…。」

「触るわよ。少し痛いかもしれないけど我慢しなさい。」


武田さんは清華さんを仰向けに寝かせて、どこを痛めているのか触診して確認する。

武田さんが肋骨の下辺りに触れると、清華さんは苦悶の表情を浮かべた。


「おそらく、右脇腹の筋損傷もしくは肉離れといったところでしょうね。アッパーで捻った時に痛めたのでしょう。今日はこれ以上のトレーニングはやめた方がいいわね。拓人くん、アイシングするからそこの棚の中にある氷嚢に冷凍庫から氷入れて、持ってきて。」

「わ、わかりました。」


指示通りに、氷嚢に氷を入れたものを武田さんに手渡す。


「持ってきました。」

「ありがとう。…とりあえず、これを患部に当てて15分くらい抑えて安静にしてなさい。」


「拓人くんごめんだけど、今日のトレーニングはこれで終わりにするわ。それとこれから病院に行くから、清華ちゃんを連れてきてくれる?私は、先に下に行って車のエンジンかけてくるから。」

「わ、わかりました。」

「病院は行かなくても、だ、大丈夫です。それより映画まで、後少しなのでトレーニングしないと。休んでる暇はないですから。…っ。」


 そう言って起きあがろうとするが、顔を歪めて苦しそうな表情だ。


「…あのねぇ。確かにきっかけはアッパーの時の捻りだけど、これは明らかに、オーバーワークからくる疲労の蓄積が原因よ。今トレーニングやっても全く意味がない。むしろ逆効果になるわ。本当、無茶ばかりして…。名前を売って有名になりたい若手でもないでしょうに。」

「この作品は私が本当の女優になるための大事な作品だから、私の全てをかけて臨みたい。」

「はぁ…。なにを焦ってるのか知らないけど、怪我をしてるなら休まないと。とにかく、今日は帰って一度医者に診てもらいなさい。良いわね。」

「わ、わかりました。」


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