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魔女に喝采を、咎人に願いを、望まれぬ貴女に永劫を。  作者: 采火


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「あぁ。伝承通りの化け物だった」

 森から撤退したガンドルフはそのまま最前線に張った野営地を捨て置き、古竜の大森林に一番近い砦まで全速で騎士団を駆け抜けさせる。ようやく砦までたどり着いた頃には日も暮れ始めていて、茜色の陽光が砦の中に射し込んでいた。


 日が暮れてもすぐには休めない。ガンドルフは砦に待機させていた副団長のイレネオを呼びつけると、騎士団の状況把握を頼んだ。


「各隊、点呼! 隊長は負傷者の報告を私にください!」


 騎士団は十三の部隊から成立し、それぞれが十の班を抱えている。今回、古竜の大森林に出撃したのは五部隊。竜退治にしては少ない人数だが、本来なら交代で古竜の大森林を偵察するための人数だった。


 それがまさか、全部隊で全面衝突することになるなんて。


 世界最古の竜種エンシェント・ドラグーンの領域が思っていた以上に広かったのが誤算だった。切れ端のような大森林の末端でさえその力が及び、文字通りに飛んで来たのだから。


 ガンドルフは深くため息をつきそうになるのをぐっとこらえる。まだここは戦場だ。情けない姿を見せれば騎士たちが不安がる。点呼が終わるのを待ってから、イレネオにもう一つ仕事をお願いした。


「イレネオ、世界最古の竜種エンシェント・ドラグーンにエルダーの血と言われた者もリストにしておいてもらえるか」


 点呼とともに被害状況をメモしていたイレネオが顔を上げた。ぐるんっと顔がガンドルフのほうへと向く。


世界最古の竜種エンシェント・ドラグーンがいたのですか」

「あぁ。伝承通りの化け物だった」

「それは良い経験でしたね! あぁ、私も会ってみたかったです、世界最古の竜種エンシェント・ドラグーン!」

「そんなことを言うのはお前くらいだよ」

「だって気になりませんか? 開けてはならないと言われる箱ほど、中身を見てみたいものです」


 目を輝かせてうきうきとペンを走らせるイレネオに、ガンドルフは苦笑する。


 会った結果、騎士団は命からがら逃げ出してきたんだ、という言葉は飲み込んでおいた。曲がりなりにも副団長の地位にある男なので、イレネオはきちんと被害状況も把握した上での発言だろうから。


 騎士団の戦力を瞬く間に削った竜の姿を想像して、うきうきしていたイレネオのペン先がはたと止まった。首を傾げながら、再びガンドルフのほうへと顔が向く。


「エルダーの血のリスト、ですか」


 ようやく本題に入れそうだ。

 ガンドルフは大きく頷く。


「ああ。今回の出撃で真っ先に犠牲になったのは彼らだ。殺される前に救出できた者もいる。その者たちをリストにして欲しい。古い報告の通り、世界最古の竜種エンシェント・ドラグーンは英雄王を深く憎んでいる様子だった」

「そうですか……団長は怪我などありませんでしたか」

「俺のことはあとで話す。それより」


 砦に戻ってきた時からちらりと視界の端に映っていたものへと、ようやく視線を向ける。


 全速力で駆け込んだ訓練場の隅で、ずっとスクワットしてる人がいた。声をかけるべきか迷って一度は視線を向けたものの、向こうが気にするなと言うように手を振ってきたので後回しにしていた。


 出すべき指示も全て出しきったなら、そろそろ向き合わなければならない。再度視線を向ければ、手を振られた。ガンドルフはイレネオを連れて、その人物のもとへと歩み寄る。


「やぁ、ガンドルフ。大変そうだね」

「アベラルド王太子殿下」


 ゆるく編まれた長い金髪が、スクワットをしているアベラルドの背中でぴょこぴょこと跳ねている。


 ガンドルフとイレネオが簡略ながら王族に対する礼をすると、ようやくアベラルドはスクワットをやめた。


「こんなところで何をされているんですか」

「最近、運動不足だったからね」

「運動不足だからといって、こんなところへ来ないでください」

「早熟のガンドルフ騎士団長に言われたくないなぁ」


 晴れやかな笑顔で護衛騎士からタオルを受け取り、汗を拭く。はたから見れば爽やかな好青年だけれど、口をついたのは品のない悪口だ。


 イレネオが動きそうなのを制して、ガンドルフは一歩前に出る。


「運動不足で最前線に来られても困ります」

「古竜の大森林攻略は僕の立案だ。慰労に来るのは当然だし、後方支援のための視察もしないとだからね。ガンドルフは前線に出て忙しいだろうから」


 アベラルドは汗を拭いたタオルを近衛ではなく、ガンドルフに投げた。ガンドルフがそれを掴むと、アベラルドは胡散臭い笑顔を浮かべながら歩きだす。


「さて、騎士団長も戻ってきたことだし、報告を聞こうかな。副団長、彼を借りていくよ」


 上官であるガンドルフが何も言わないので、イレネオは首肯するだけ。ガンドルフは表情を変えないまま、アベラルドに従う。


 これから始まるのは憂鬱な時間だ。王族たるアベラルドから報告を求められれば、断る選択肢はない。


 たとえ一つ報告を上げれば十の嫌味で返ってくるような人物相手でも、騎士であるガンドルフは誠実にあらねばならなかったから。


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