六.五踏目『イスト王国兵ディブーは、踏み込まない』
【イスト王国兵ディブー視点】
オッス! オラ、ディブー!
イスト王国兵やってっぞ!
今日も激しい訓練でオラ腹減ったぞ。
遠くから匂う食堂の匂いはうまそうで、オラわくわくすっぞ!
仲間達もいっぺえ動いてたから、ヘロヘロだぞ。
疲れた身体を無理矢理動かして訓練場をあとにする。
『勇敢なるイストの兵は、止まらない~♪』
誰かが歌い始める。
『雨が降ろうと、槍が降ろうと、止まるものか~♪』
一人二人と歌声は増え大合唱に。
『我らイストの兵は踏み越える。敵を、屍を、あらゆる苦難を踏み越え行くのだ~♪』
この歌を歌うとみんな元気になる。
いや、元気になりすぎるくらいだ。
ちょっと目が血走って、口の端があがってっぞ。
オラ、びくびくすっぞ。
都会の歌は過激だ。
田舎育ちのオラには刺激がつよすぎるだ。
田舎の歌は平和だ。
風が吹くとか、川が流れるとか。
当たりめえのことしかいわねえぞ。
だからって、よええ訳じゃねえ。
オラの故郷は、遥か遠くで、魔物がすっげえウジャウジャいっぞ。
それを、王国兵の半分以下の人数で倒しちまう。
お嬢様なら、一人ででもやっちまう。
そして、それを食う。
あまり作物がとれねえあそこでは、ちゃんとしたもんはじっちゃやばっちゃやこどもから優先して食わす。
旦那様やお嬢様のかんげえだ。
で、オラ達つええ大人は、魔物を狩ってくう。
お嬢様が率先して食う。紫の魔物でも、緑でもどどめ色でも食う。
だから、オラもパクパクすっぞ。
だから、オラ達はつええ。
オラにとって、こええもんなんてお嬢様と奥様くれえだと思ってた。
けど、最近、心が折れそうだ。
ついこないだ、大きな地震があった。
城がすげえ揺れた。
オラはビビってしまった。
背筋に汗が流れた。
オラ、ぞくぞくすっぞ……。
オラがビビった?
お嬢様じゃなく、地震ごときに?
都会に来て、オラの心はよわくなっちまったんだろうか。
オラは、何が起きたのか誰かに尋ねることなく毛布をかぶって眠りについた。
次の日だ。
城の男達に色目使いまくる婆さんが上から落ちてきた。
頭から落ちて、スカートの中モロ見えだぞ。
え……?
オラ、トゥンクトゥンクすっぞ……?
黒髪美しいお嬢様が近くにいてもぽーかーふぇいす出来てたオラが……?
こんな匂いと性格のキツいばあ様に……?
オラは本格的におかしくなっちまったかもしれねえ。
オラは、ばあ様に差しのべようとする手を押さえつけ、毛布をかぶって眠りについた。
更に、次の日だ。
腹減ったぞと思ったオラは備蓄庫に忍び込んだ。
よくねえこととは思ったが、元々はオラ達が年貢としておさめてたものだし、どうやら、無理矢理とってたとダチから聞いて、まあ、ちょっとだけもらおうとした。
すると、お嬢様の婚約者であるこの国の王子と、お嬢様ほどではないが綺麗な女の人が叫びながら落ちてきたぞ。
誰かにやられたみたいだ。
この国では王族は神様に等しい。
そんな神様に逆らうやつがいる?
足が震えた。
オラ、がくがくすっぞ!
オラは、何も見なかったことにして、毛布をかぶって眠りについた。
こんな恐ろしい場所で、フミお嬢様は無事なんだろか。
神様、お嬢様だけはぜってえ助けてくれよな!
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