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異世界で嫁に行き遅れました  作者: 白川れもん
番外編
21/21

俺の夢②

※注意!

本編のイサックとは印象が異なる可能性があります。ブラックな部分が出ています。黒イサックです。

 デートとは。

 どうやら恋人になった時に、二人きりで出掛けることのようだった。

 なんだ、そんなことか。と、思った。

 それならば、毎日二人きりで出掛けたりしている俺達は、もうデートしているようなもの。


「そ、それならば、もう──」


 そういう仲ではありませんか。そう口にしようとしたが、寸前で言葉を飲んだ。

 身分の差。忘れそうになっていたが、自分とシャンリ様には明らかな身分差がある。

 今の自分がなんと言おうと、シャンリ様がなんと言おうと、結婚どころか、通じあうことすら不可能。



 だが、だからといって、シャンリ様の結婚やデートなど、黙ってみているわけにはいかない。それこそ、気が狂ってしまいそうになる。


 俺は頭が良いんだ。ついでに、顔も実力もある。使えるものは何でも使い、そして、阻止すれば良い。そうだ、俺にはそれが出来る。

 俺の思惑を、シャンリ様は知ることなく、楽しそうに将来を思い描き、笑っている。

 

 そう、これでいい。シャンリ様には言わない方が良い。嫌われてしまう。この笑顔のまま、俺のところにまで堕ちれば良いんだ。




 そこからは、頭脳戦だった。

 シャンリ様の婚約者となる者たちには、リン様を接触させる。簡単なことだ。まだ幼い彼女だが、何故だかわからないが、彼女は男を魅了する仕草や雰囲気があるのだろう。

 それに、歳のわりに大人びている。


「あ、あの……イサック……」


「ありがとうございます、リン様」


 まだ婚約適齢期でもない幼いリン様は、俺に惚れていた。もじもじと俺に微笑み、俺が笑ってやれば、照れて背ける。


「その……きょ、今日の方にも優しくするよう、頑張りましたわ」


「ありがとうございます。本日はどういたしますか?」


「では、その……は、ハグを」


「畏まりました」


 リン様の要求も、幼稚だった。

「国王殿下のために必要なことだ」と言えば、深く考えずに、すぐ奴等を誘惑する。俺に疑惑など微塵も感じていないのだろう。


 まさか、自分の姉の縁談を壊しているなど、何も理解していないリン様。滑稽で、愚か。俺には扱いやすい、最高級品だ。

 そして、その見返りは、毎回、ハグ。

 何が良いのかわからないが、頬を染めながらリン様は視線を外す。


 内心、ため息をつきながら、何度目かもわからない抱擁をする。

 小さく震えている彼女は、遠慮がちに俺の背に手を回した。

 ふわり、と花のような匂いが香る。髪の匂いだろうか。


 そういえば、シャンリ様の匂いは、どんな香りだろうか。



「シャンリ様、それは面白いものなのですか?」


 最近、熱心に読み漁っている漫画、という書物。

 絵と文字で構成されているそれは、面白そうには思えなかった。だが、読んでいるのは紛れもないシャンリ様で。そうなれば、気にしないわけにはいかない。


「これ、すっごく面白いのよ! イサックも一緒に読みましょう!」


「え、よ、宜しいのですか?」


 シャンリ様は自らの身体を横にずらし、俺の座れるスペースを作ってくれた。

 そして、隣をリズムよく叩き「どうぞ!」と笑う。


 おずおずと隣に腰をおろせば、シャンリ様は身体を傾けてまで俺に漫画のページを見せ開く。


「ほら! この王子様みたいなのがね……」


 なにやら描いてある絵の説明を楽しそうにしてくれるが、俺はシャンリ様との距離の近さに、それどころではない。

 シャンリ様の声よりも大きい気がする自分の鼓動に、聞かれまいかとヒヤヒヤしていた。


 相槌を適当に打っていると気を良くしたシャンリ様が、さらにページを捲り、なんだかんだと熱く説明する。


 そのとき。ふわっと良い香りがした。

 それは花でもなく、女性らしくもない匂い。だが、とても良い香り。


「……ふふ、シャンリ様、おやつに食べたパンケーキのメープルシロップが頬についたままですよ」


 笑いながら指摘すれば「え!? や、やだ!」と慌てて拭う。服が汚れることもお構い無しのその行動に、彼女らしさを感じた。

 良い香りだ。とっても。


 やはり、俺にはこの人しかいない。再確認した。




 それから暫くして、シャンリ様の婚約者を次々と流れるようにリン様を利用し、断らせ、リン様になびかない輩には「好きな方ができました」といった類いの手紙を送り、時にはなんの報告も無しに、破談を送りつけた。

 それでも、相手は何も言わず、従う。上手くいっていた。

 それと同じくして、シャンリ様は部屋に閉じ籠り気味になってしまった。


 表情も暗くなり、あまり笑わなくなった。



「シャンリ様。漫画をお持ちしました」


「……そこに置いておいて」


「しかし、それでは表紙が汚れてしまいます」


 もちろん、嘘だ。だが、そうするしか、シャンリ様とゆっくり話す時間がない。


 渋々、というように、シャンリ様は出てきた。


「ありがとう、イサック」


「……シャンリ様、お顔が優れないようですが……? ホットミルクを作りました。是非、私と飲んでください」


「……貴方と?」


「……嫌、ですか?」


 悲しげに眉を下げれば、シャンリ様は弱い。困った顔をしたあと「入って」と促した。


 どのタイミングで「如何なさいましたか」と聞こうかタイミングを見ていると、シャンリ様から振ってきた。


「……婚約者に、たくさん断られるの。お父様も呆れているわ……私、どうしたら良いかわからなくて」


 ホットミルクを両手で包み、ふぅ、と息を吹きかけた。

 その動作すら、美しい、と感じるほどになっていた俺は、正直、この展開を予想していた。

 そして確信した。上手くいっていることに。


「それは……誰も、シャンリ様の魅力がわからないだけですよ」


「……私に魅力なんて、ないわ」


 不細工だもの、と呟く。

 ああ、他の従者が噂していたのが耳に入ったのか。確かに、好まれる容姿ではないらしい。

 皆、一様にリン様を称賛する。俺にはわからないが。


「……そんなことありません。お、俺は、その、す、好きです」


 バクバクと心臓が騒ぐが、この機会に言おうと決めていた。周囲の意見に左右され、自分に自信を無くし、落ち込んでいるところで、俺が好意を告げる。

 俺しかいない、と思わせるのにベストだと思ったのだ。傷んだ心には、プラスの感情に大きく傾く。


「うふふ、ありがとう、イサック。優しいわね」


「……そんな、こと、は」


 伝わっていない。瞬時にそう理解した。

 貴族だかなんだかわからない奴等に断られ続けても、俺のような従者にはそんな想いを抱かないのか。

 …………もっとか。

 もっと深く傷つき、深く閉ざし、俺以外と接しなければ。



 ある書物で興味深い事柄を読んだ。

 無人島という閉鎖した環境に男女一人ずつを置き去りにし、数ヵ月後に再び訪れると、その二人は恋人になっていた、という実験だ。

 恋愛感情を抱いていなくても、共に時間を過ごし、接触すればするほど、相手に好意を持つ、ということ。



 つまり、シャンリ様の周囲から俺以外の人間をなるべく近づけずに、関わらせずに、俺とだけ毎日会い、毎日会話をし、毎日、俺という存在をシャンリ様に意識させれば、俺に好意を持つのも時間の問題。


 幸い、誰もがシャンリ様を好ましく思っておらず、国王殿下ですら遠ざけようとしていた。つまり、これは好機。



 これを機に、俺は言葉巧みに国王陛下を導き、シャンリ様を離れへ住まわせられることに成功した。

 俺以外はほぼ寄らず、シャンリ様も恐れから、周囲との関係を絶つように。



「ふふ、これからだ」



 準備はしてある。別邸も俺の金で作られている。あとは、そう、シャンリ様と距離を近づけ、俺に好意を持たせ、俺が良いと思わせる。そして幸せになる。

 シャンリ様と二人。静かな毎日。嗚呼、なんていい生活なのだろう。想像するだけで歓喜が沸く。

 俺とシャンリ様の幸せはまだか、と待ち望んでいる。


 そしてそれが来る未来を、確信している。


完結しておきました。

また続くかわかりません。書きたくなったら、また書きたいです!

イサックは本当に楽しいです。

ありがとうございます。

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