俺の夢②
※注意!
本編のイサックとは印象が異なる可能性があります。ブラックな部分が出ています。黒イサックです。
デートとは。
どうやら恋人になった時に、二人きりで出掛けることのようだった。
なんだ、そんなことか。と、思った。
それならば、毎日二人きりで出掛けたりしている俺達は、もうデートしているようなもの。
「そ、それならば、もう──」
そういう仲ではありませんか。そう口にしようとしたが、寸前で言葉を飲んだ。
身分の差。忘れそうになっていたが、自分とシャンリ様には明らかな身分差がある。
今の自分がなんと言おうと、シャンリ様がなんと言おうと、結婚どころか、通じあうことすら不可能。
だが、だからといって、シャンリ様の結婚やデートなど、黙ってみているわけにはいかない。それこそ、気が狂ってしまいそうになる。
俺は頭が良いんだ。ついでに、顔も実力もある。使えるものは何でも使い、そして、阻止すれば良い。そうだ、俺にはそれが出来る。
俺の思惑を、シャンリ様は知ることなく、楽しそうに将来を思い描き、笑っている。
そう、これでいい。シャンリ様には言わない方が良い。嫌われてしまう。この笑顔のまま、俺のところにまで堕ちれば良いんだ。
そこからは、頭脳戦だった。
シャンリ様の婚約者となる者たちには、リン様を接触させる。簡単なことだ。まだ幼い彼女だが、何故だかわからないが、彼女は男を魅了する仕草や雰囲気があるのだろう。
それに、歳のわりに大人びている。
「あ、あの……イサック……」
「ありがとうございます、リン様」
まだ婚約適齢期でもない幼いリン様は、俺に惚れていた。もじもじと俺に微笑み、俺が笑ってやれば、照れて背ける。
「その……きょ、今日の方にも優しくするよう、頑張りましたわ」
「ありがとうございます。本日はどういたしますか?」
「では、その……は、ハグを」
「畏まりました」
リン様の要求も、幼稚だった。
「国王殿下のために必要なことだ」と言えば、深く考えずに、すぐ奴等を誘惑する。俺に疑惑など微塵も感じていないのだろう。
まさか、自分の姉の縁談を壊しているなど、何も理解していないリン様。滑稽で、愚か。俺には扱いやすい、最高級品だ。
そして、その見返りは、毎回、ハグ。
何が良いのかわからないが、頬を染めながらリン様は視線を外す。
内心、ため息をつきながら、何度目かもわからない抱擁をする。
小さく震えている彼女は、遠慮がちに俺の背に手を回した。
ふわり、と花のような匂いが香る。髪の匂いだろうか。
そういえば、シャンリ様の匂いは、どんな香りだろうか。
「シャンリ様、それは面白いものなのですか?」
最近、熱心に読み漁っている漫画、という書物。
絵と文字で構成されているそれは、面白そうには思えなかった。だが、読んでいるのは紛れもないシャンリ様で。そうなれば、気にしないわけにはいかない。
「これ、すっごく面白いのよ! イサックも一緒に読みましょう!」
「え、よ、宜しいのですか?」
シャンリ様は自らの身体を横にずらし、俺の座れるスペースを作ってくれた。
そして、隣をリズムよく叩き「どうぞ!」と笑う。
おずおずと隣に腰をおろせば、シャンリ様は身体を傾けてまで俺に漫画のページを見せ開く。
「ほら! この王子様みたいなのがね……」
なにやら描いてある絵の説明を楽しそうにしてくれるが、俺はシャンリ様との距離の近さに、それどころではない。
シャンリ様の声よりも大きい気がする自分の鼓動に、聞かれまいかとヒヤヒヤしていた。
相槌を適当に打っていると気を良くしたシャンリ様が、さらにページを捲り、なんだかんだと熱く説明する。
そのとき。ふわっと良い香りがした。
それは花でもなく、女性らしくもない匂い。だが、とても良い香り。
「……ふふ、シャンリ様、おやつに食べたパンケーキのメープルシロップが頬についたままですよ」
笑いながら指摘すれば「え!? や、やだ!」と慌てて拭う。服が汚れることもお構い無しのその行動に、彼女らしさを感じた。
良い香りだ。とっても。
やはり、俺にはこの人しかいない。再確認した。
それから暫くして、シャンリ様の婚約者を次々と流れるようにリン様を利用し、断らせ、リン様になびかない輩には「好きな方ができました」といった類いの手紙を送り、時にはなんの報告も無しに、破談を送りつけた。
それでも、相手は何も言わず、従う。上手くいっていた。
それと同じくして、シャンリ様は部屋に閉じ籠り気味になってしまった。
表情も暗くなり、あまり笑わなくなった。
「シャンリ様。漫画をお持ちしました」
「……そこに置いておいて」
「しかし、それでは表紙が汚れてしまいます」
もちろん、嘘だ。だが、そうするしか、シャンリ様とゆっくり話す時間がない。
渋々、というように、シャンリ様は出てきた。
「ありがとう、イサック」
「……シャンリ様、お顔が優れないようですが……? ホットミルクを作りました。是非、私と飲んでください」
「……貴方と?」
「……嫌、ですか?」
悲しげに眉を下げれば、シャンリ様は弱い。困った顔をしたあと「入って」と促した。
どのタイミングで「如何なさいましたか」と聞こうかタイミングを見ていると、シャンリ様から振ってきた。
「……婚約者に、たくさん断られるの。お父様も呆れているわ……私、どうしたら良いかわからなくて」
ホットミルクを両手で包み、ふぅ、と息を吹きかけた。
その動作すら、美しい、と感じるほどになっていた俺は、正直、この展開を予想していた。
そして確信した。上手くいっていることに。
「それは……誰も、シャンリ様の魅力がわからないだけですよ」
「……私に魅力なんて、ないわ」
不細工だもの、と呟く。
ああ、他の従者が噂していたのが耳に入ったのか。確かに、好まれる容姿ではないらしい。
皆、一様にリン様を称賛する。俺にはわからないが。
「……そんなことありません。お、俺は、その、す、好きです」
バクバクと心臓が騒ぐが、この機会に言おうと決めていた。周囲の意見に左右され、自分に自信を無くし、落ち込んでいるところで、俺が好意を告げる。
俺しかいない、と思わせるのにベストだと思ったのだ。傷んだ心には、プラスの感情に大きく傾く。
「うふふ、ありがとう、イサック。優しいわね」
「……そんな、こと、は」
伝わっていない。瞬時にそう理解した。
貴族だかなんだかわからない奴等に断られ続けても、俺のような従者にはそんな想いを抱かないのか。
…………もっとか。
もっと深く傷つき、深く閉ざし、俺以外と接しなければ。
ある書物で興味深い事柄を読んだ。
無人島という閉鎖した環境に男女一人ずつを置き去りにし、数ヵ月後に再び訪れると、その二人は恋人になっていた、という実験だ。
恋愛感情を抱いていなくても、共に時間を過ごし、接触すればするほど、相手に好意を持つ、ということ。
つまり、シャンリ様の周囲から俺以外の人間をなるべく近づけずに、関わらせずに、俺とだけ毎日会い、毎日会話をし、毎日、俺という存在をシャンリ様に意識させれば、俺に好意を持つのも時間の問題。
幸い、誰もがシャンリ様を好ましく思っておらず、国王殿下ですら遠ざけようとしていた。つまり、これは好機。
これを機に、俺は言葉巧みに国王陛下を導き、シャンリ様を離れへ住まわせられることに成功した。
俺以外はほぼ寄らず、シャンリ様も恐れから、周囲との関係を絶つように。
「ふふ、これからだ」
準備はしてある。別邸も俺の金で作られている。あとは、そう、シャンリ様と距離を近づけ、俺に好意を持たせ、俺が良いと思わせる。そして幸せになる。
シャンリ様と二人。静かな毎日。嗚呼、なんていい生活なのだろう。想像するだけで歓喜が沸く。
俺とシャンリ様の幸せはまだか、と待ち望んでいる。
そしてそれが来る未来を、確信している。
完結しておきました。
また続くかわかりません。書きたくなったら、また書きたいです!
イサックは本当に楽しいです。
ありがとうございます。




