俺の夢①
続きました!
イサック視点です。
城に来る前を少しと、来てから、予定では現在まで書けたら良いなと思っています。
どれくらい続くかわかりませんが、また宜しくお願いします。
※イサックの印象が本編と変わる可能性があります。黒いイサックがいます。ダークです。
裏の顔がたくさん出ていますので、注意。
俺は、拾われた。この国の、王に。
身分の低い女の、子として産まれた俺は、早くに里子に出され、女の顔も覚えていない。
見返してやる。
忘れた母や、見ぬ父を、見返してやる。身分を持ち、俺を捨てたことを、後悔させてやる。根深い復讐が、俺の生きる意味だった。
そう思い、勉強を、ひたすらしてきた。
体力を増やし、身体を鍛えてきた。
騎士に、国の騎士になるために。
国の騎士は、誰でもなれる。
勉学、体力、両方を兼ね備えていれば、優秀なら、スカウトだってくるくらいだった。
師団になれば、それなりに地位も給料も貰える。まずは、そこからだ、と。
そう、思っていた矢先に、予定よりだいぶ早く、スカウトが来た。
というより、俺の知らないところで、里親と国とが取り引きをし、俺は再び、捨てられたのだ。
醜い人間ばかりだな。みな、金のために俺みたいなのは奴隷のように売られる。
「初めまして」
どうやら、従者として、迎え入れられたようだった。
王族への言葉遣い、礼儀、その他など、あらゆることを、叩き込まれた。飲み込みの早い俺は、容姿などからも、優遇された。
国王殿下は、いかにも、といった、ふてぶてしい態度の男だった。従う。すべては、復讐のため。
「イサックよ、娘達だ。仲良くしてくれ」
「……はい、畏まりました」
人の裏の顔を、俺はよく知っている。
国王殿下は俺を利用するつもりだろう。そういう目や態度ばかりが、目につく。
娘たちも、同じだ。
俺を見るなり、目を輝かせた。
自分がどういう容姿をしているか、俺は、とっくに知っている。第一印象が良いのは、昔から。
そのうち、こいつらも、裏の顔を出すに決まっている。俺を、利用するに決まっている。
城での生活もしばらくした頃。
俺の外見に飽きたのか、はたまた仲良くしようとしないことに嫌気がさしたのか、業務以外、近寄る者は、いなくなっていった。
その日は、城の一部を開放し、希望があった民達に、見学を許す催しだった。
「イサック、俺は用ができた。シャンリを頼む」
そう言い残し、国王殿下は、別室へ。
広すぎるロビーに、長女で、民を迎える役をするシャンリ様の、付き添いを命じられた。正直、面倒だ。
もじもじと、大人しくしていた、シャンリ様。
緊張しているのだろう。民への顔出しも兼ねているのだから。だが、それがどうしたと言うのだ。
俺には、何の関係もない。
どうでもいいことだ。声をかけてやる義理もないし、優しさもない。気持ちを和らげよう、といった気遣いも、しなくて良い相手だと思う。
俺はそしらぬまま、ただ、黙ってロビー入口に目をやり続けた。
ある、一人の男が、入ってくるまでは。
「……ルパン、だわ」
それまで黙っていたシャンリ様は、突然、思い出したように、呟いた。
その男は、どう見ても、ただの一般市民だ。城の見学に来たようにしか、俺には見えなかった。
にも関わらず、シャンリ様は、ついに騒ぎ始めた。
ルパン、ルパン、と、俺にまで言い、さらには、盗人扱いまで。
──からかっているのか、俺を。
俺があまりにも、気の利かない従者だから。同い年にも関わらず、姫一人、楽しませることが出来なかったから?
だが、いくら今の時間が退屈でも、俺のせいでは無い。
俺だって、同い年の子守りをさせられている。早く騎士団という地位が欲しいのに。
わがままな奴だ。
「……私を、からかっているのですか、シャンリ様は」
押し殺すように、絞った声。
いい加減にしろよ、と。俺だって嫌なんだ、と。
だが、反応は悪く、シャンリ様は止まらない。鈍いのか? と、真剣に様子を伺えば、その目は、必死だった。
…………本気なのか。
シャンリ様は、俺への当て付けではなく、本気で訴えていた。
誰も、ルパンなど知らないし、そんな戯れ言、耳を傾けてはくれていないのに。
この人も、俺と同じなのかもしれない。
身分や境遇は違えど、一人で、戦おうとしているのかもしれない。
……俺だけは、この人の助けになりたい。なれるだろうか。
だが、初めて見た、人の必死な様子は、可笑しくて、不敬にも、吹き出してしまいそうだった。
吹き出す寸前の俺を前に、気にする素振りのないシャンリ様は、俺よりも、強く見えた。
俺は産まれて初めて、人に興味を持った。
「シャンリ様、退屈してませんか?」
その日から、俺は暇さえあればシャンリ様の元へと足を運んだ。
シャンリ様も、俺に慣れてきて、買い物を頼まれるようになってきた。
俺も、喜んでそれに従う。知れば知るほど、シャンリ様は面白いし、興味深い。俺の知らないことをたくさんご存じで、俺よりも凄いと思った。初めて人を、尊敬した。人として。同じ、人間として。
汚いことはしないし、裏の顔もない。こんな人、いるんだと。こんな純粋な人は、もういないかもしれない。
そんなある日。
「シャンリ様ってさ、本音言うと、可愛くねえよな」
「あ、俺も思ってた。リン様の方が可愛い。というか、俺リン様好きになるかも──てか好き」
「年下過ぎるだろ。身分も考えろよ」
と笑い、小声で話す、休憩中の従者を見かけた。
…………可愛くない? シャンリ様が?
俺は首を傾げて、その従者達の、横を通り抜けた。
はて、可愛いとは?
会話にも出てきたリン様を、目にして見る……あれが、可愛い? 汚い顔があるのに?
……わからない。
それよりも、俺にはシャンリ様の方が、よほど魅力的だ。笑顔も、表裏のない表情、性格、その全てが。
これを可愛い、というのなら、俺はシャンリ様が好きだということになるのだろうか。
答えは、意外と早く出た。
「ねえ、イサック」
「はい、シャンリ様」
「私って、結婚適齢期でしょ?」
「……結婚?」
考えもしなかった。
そうだ、この人も俺も十六。結婚できるし、そういう年頃だった。
「私、いくら結婚するっていっても、でもデートって必要だと思うの」
シャンリ様だって、当然、ご結婚される。
「あ、そういえば、デートって知ってる? イサック」
なんてことだ。失念していた。
シャンリ様が結婚? 結婚してしまえば、俺はもう世話をすることも無くなるのか? 話をすることも?
こんなに楽しかった日々も、終わるのか?
「イサック? 聞いている?」
俺は、また、捨てられるのか? こんなに素晴らしい人にも、俺は捨てられ、また汚い奴等と毎日を?
それよりも、この人が、結婚。シャンリ様の隣に立つ……男?
「…………い、嫌だ」
「ん?」
シャンリ様は、訳もわからず、俺を覗き見る。
無邪気なその顔に、俺は気づいた。
そうか。これが恋か。
これが独占欲か。これが、愛しいという感情か。
自覚した途端、近すぎる距離に、鼓動が早まる。見上げるシャンリ様を、誰にも取られたくないと思う。
「……シャンリ様は、どなたとご結婚したいのですか?」
「それは……」
目が泳ぐ。
……いないのか。
それも、そうだ。よく来るサランだとかいう男に、魅力など感じていないに違いない。
あいつは駄目だ。たとえ結婚しても、シャンリ様を幸せに出来るとは思えない。それに、シャンリ様を一番理解し、近くで見ているのは俺だ。
何か、取られない秘策を考えなければ。
俺の頭は、その瞬間から、高速で動き出していた。復讐よりも、シャンリ様を取られまいとする独占欲が、勝っていた。
シャンリ様は悪くない。悪いのは、結婚させようとしている、この国だ。
シャンリ様は、いつか、そう、いずれ、俺を選んでくれるはずだ! 是が非でも、俺でなければならない。
何故なら、シャンリ様を想い、理解しているのは俺だけだからだ。
微かな、だけど、確かな希望が灯る。
俺は、この人と会うために、幸せにするために、産まれたに違いない。
そう考えると、母も、父も、里親さえも許せる。ここに従者として来たことも、頷ける。
これが、運命というやつだろうか。
逸る心と、上がる口角を隠すために、俺は口にした。
「デートとは、何ですか?」
Twitterにて、更新予定日や今後の話数などを呟く予定です。
また、番外編ですが、お付き合いください!
よろしくお願いします!




