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異世界で嫁に行き遅れました  作者: 白川れもん
番外編
16/21

イサックという従者

ここから番外編です!

国王様(シャンリのお父様)視点の、イサックです。

三話より前くらいだと思って、読んでください。



注意!

本編のイサックとは、印象が変わる恐れがあります。気を付けてください。

 金髪が風に揺れている。中性的な綺麗な顔をしている、小僧だな。そう思ったのが、最初の印象だった。


 俺は一国を担う王。美しい妻と暮らし、三人の娘にも恵まれた。

 イサック、そう名乗った小僧は、確か長女のシャンリと同い年と聞いた。



 イサックは、頭が良かった。城内や仕事内容も、直ぐに覚えた。そして、剣を教えれば、直ぐに使いこなした。

 そして、シャンリと仲が良かった。何かと世話を焼き、シャンリの望む物を、全て与えていた。


 初めは、歳が近いから、と微笑ましく思っていた。妻も、そう思っていたに違いない。

 シャンリの次に出来たシェルもリンも、五歳以上離れているからだ。




 今でも、そう思っていた。あまり話さなくなったイサックが、リンや俺達よりも、シャンリの近くにいるのは、歳が近いからだ、と。

 そして、シャンリは、大人しい。破談が続いているのを、イサックも知っている。同情でもしている。そう、思っていた。

 シャンリはどうして……俺や妻には似ていない。




 リンがイサックに好意を持つのは、自然な事だった。

 イサックは何でも出来る。魅力もある。


 こんなときが来ても良いように、イサックを指導したつもりだ。シャンリの破談が続いたときから。


 次期国王としての素質も頭もある。彼なら任せられる、と。実際、イサックは俺の右腕の様に、この国には欠かせない者になった。

 王としての仕事の大半も、任せている。何故か。信じていたからだ。息子の様に、少しは感じていた。

 いつだって従うし、忠誠を誓っていると思っていた。



 イサックを呼ぶと、装飾の強い扉から、いつもの無表情で、現れた。

「お呼びでしょうか」と、頭を下げる。礼儀も、きちんと出来ている様だ。


「イサック、今からお前は、俺にではなく、リンの為の、従者になりなさい」


 娘をくれてやろう。そういう意も、俺の中にはあった。

 頭をゆっくりと上げたイサックは、変わらずに、無表情。そして淡々と、こう言った。


「お断りします」


「何?」


「お断りする、と言いました」


 何を言っているのか理解出来なかった。十六から数年、ずっと反抗などしたことがなかったイサックに、断られるとは、思ってもみなかった。

 眉間に皺が寄るのが分かる。


「何故だ」


「リン様は、私には荷が重すぎます」


「問題ない。リンは、ああ見えて、注文の少ない子だ」


「……私は、今のままで、十分です」


 何か不満でもあるのか、それとも、本当に重荷だと、思っているのか、頷こうとしない、イサック。



「では、こう聞こう。イサック、お前の望みは?」


 イサックの望みであれば、何でも叶えてやろう。だから、リンの従者に──と。そういう、気持ちだった。

 だが、イサックの口から出た言葉は、予想外過ぎた。


「では…………シャンリ様の従者に、なりたいです」


「何だと、シャンリ?」


「はい」


 変わらぬ無表情だが、微かに喜びも見える。まさか、こいつ。



「お前、リンを、好いてはいないのか」


「はい」


「…………」


 清々しいくらいの、即答だ。


 リンを好いている者は、いくらでもいた。リンと話すことなく、俺に相談しに来る輩までいたくらいだ。

 なのに、リンを好いていない。


 それに、シャンリの名を口にする時の、イサックの、あの微妙に変化した表情。

 まさか。疑惑が、確信に変わる始める。縁談を断られ続け、部屋に閉じ籠る様になった、哀れな俺の長女。



「お前、まさか、シャンリを」


「……恋愛は自由。そう決めて下さったのは、貴方です。国王様」


 ため息が漏れる。

 確かに、リンが六歳の時に言った「好きな人と結婚したい!」から、自由制度に変えた。

 城を含めた、国の全てを。


 シャンリが破談され続けた時に、これでもか、というくらい後悔したが、それでも変えることは、無かった。


 今、俺は再び後悔している。

 まさか、リンではなく、シャンリとは。

 じんわりと、怒りが頭を支配している。何故リンではない? 何故、縁談で断られ続ける前に、こうして言わなかった? 今ではシャンリは、俺達の恥だ。


「……お前は、シャンリを幸せに出来るのか」


 父親として、当然の事を、聞いたつもりだった。

 イサックの雰囲気が、変わる。少し眉間に皺を寄せたが、直ぐに涼しい表情に変わる。


「それを、言いますか。当たり前です。国王殿下より、俺はシャンリ様を大切に出来る。あんな、一人離れに住まわす事など、しません」


 こいつ、本気か。

 今まで俺に従ってきたのは、国王になるためでも、俺への忠誠心でもなかったのか。まさか、シャンリの為に?


「イサック、お前、従者でなく、公爵や侯爵の地位を与えると言っても、受け取らなかったのは、遠慮ではなく──」


「シャンリ様の従者でなくなるのは、死んでも嫌でした」


 涼しい顔をして、そう答える。

 そうか……では、随分と前からなのか? どうして気づかなかった? それとも、隠していたのか。



「今までの恩を仇で返す気か?」


「そんな、私としては、国王殿下がお望みならば、王になっても良い、そう思っています。ただ、相手はリン様ではなく、シャンリ様ですが」


「ならん。国王は、皆の憧れでなければならない。それは、王妃となる国王の妻も、だ」


「シャンリ様は、民衆の憧れには、なれないと。そういうことでしょうか」


 肯定した。

 当然だ。国王になるイサックは従者だとしても、外見や頭脳、力で乗り越えられる。だが、シャンリは無理だ。シャンリは王妃の器では無い。

 あいつは、王族でいるのも不思議なくらい、誰かに勝る物がない。


「では、別邸で暮らさせて下さい」


「別邸だと?」


 そういえば、数ヵ月前に別邸を建てる許可を貰いに来た。その時は、また何か国の為だと、気に止め無かった。

 が、ここまで来れば、流れで分かる。

 まさか、最初から、あそこを新居とする気だったのではないか、と。全く、頭の良い奴は、敵にすると怖い。



「はい。シャンリ様の許可は、まだ頂けていませんので、シャンリ様の許可を頂き次第、別邸で生活したいと思います。ご安心下さい。この仕事は、続けたいと思っておりますので」


「……駄目だ」


 止めようと、思った。飼い犬の暴走くらい、止めなければ。

 それに、俺が許可を出さなければ問題はない。簡単な事だ。国王なのだから。


 そう思うのだが、精神的に追い詰められているのは、俺だ。

 何故か、それは。


「差し出がましい様ですが、今の国王殿下は、国王とは名ばかりではありませんか。私が──いいえ、俺が……この国を指揮している。経済的な問題も、他国との交流も、ほとんど全てを、俺が指示している。国王殿下は、この国の、何をご存知なのでしょうか?」


「……イサック、お前、俺を脅すのか」


「いいえ。俺はただ、シャンリ様とのお許しを、貰いに上がりました」


 表情は全く変わらない。やられた。そう思った。

 俺は国のほとんど全てを、イサックに任せている。何故か。頭がよく、裏切らない。そう思ったからだ。

 いずれ息子になる、そう思っていたからだ。

 それに、他の誰よりも迅速に、的確にこなしてくれる。それにかまけて、俺は任せる量をだんだんと増やし、胡座をかいていた。




 今、この国は、イサックの掌にあるのも同然。俺達の命も、だ。

 つまり、この涼しい顔した綺麗な男が、俺の回答次第では、悪魔になるかもしれない。

 シャンリをやるのは、構わない。シャンリをくれてやるだけで、この国を維持し続け、発展してくれるなら、安いものだ。


 ただ、可愛い可愛い、俺のリンの願いが叶えられない。そして、イサックに、これから揺すられるかもしれない恐怖


 内密に処分してやりたい気分になるが、不可能だと知る。

 俺は、とっくに王としての権力を無くしていたと、気づいたからだ。

 貴族も従者も、もちろん騎士さえも、誰も俺の命令は聞かないだろう。どうして、こうなる前に気づかなかったのか。



「ぐ………………良かろう。くれてやる。シャンリの許可が、取れ次第、また改めて来なさい」


 それまでに、シャンリに優しくしなければ。良い顔をしなければ。

 そうしなければ、もし、シャンリが俺達を恨んでいたら。その時、この男は、本気で潰しに来るだろう。


「ありがとうございます!」


 イサックが、初めて笑顔を見せた。

 とても綺麗な笑顔だが、俺には不吉に思える。



 頭が良く、剣も強く、外見も良い。部下との関係や、育てるのも上手い。そんな、この男が。何故シャンリなのか。

 それに、あの時から既にシャンリに惚れていたとしたら、かなり心酔しているとみえる。

 シャンリの為なら、俺を脅すことだって、するくらいだ。




 そうか。俺を脅せる立場になったからこそ、今、なのか。それならば──もしや、シャンリの破談は。

 考えることを止めた。これ以上は、頭も胃も痛くなりそうだ。



 とにかく、シャンリの好感を得ておこう。この犬は、もはや俺には制御出来ない。綱を引けるのは、シャンリだけかもしれぬ。

 間違っても、俺達が蹴落とされる事が無いように。

 王族で、居続けられる様に。




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