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異世界で嫁に行き遅れました  作者: 白川れもん
番外編
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17/21

自称、イサックの一番弟子

城にいる、従者視点です。

彼は、本編では出てきていません。


本編の四、五話辺りのイサックです。


再び、本編のイサックの印象を変えてしまう恐れがあります。注意してください。


 こんにちは! ぼくは、この城の従者、アンリ。歳は十九。

 赤毛にブルーの瞳がトレードマーク。それに、泣き黒子も。


 この城に来たのは、五年くらい前で、きっかけは、もちろん、街で見かけたイサック様に、憧れたからだ。

 ぼくもああなりたい! ぼくも格好良く、スマートに、そして、何事にも動じず、涼しい顔をしたい! ただ、それだけだった。


「イサック様、おはようございます!」


「ああ」


 本日も、イサック様は格好良い!

 ぼくを見ようとしない横顔も、言動の冷たさも、いつもこんな感じだから、特別気にしない。クールだ!

 ぼくも早くイサック様のような、素敵な男になりたいな!



 朝の稽古に汗を流しているイサック様も素敵だ!

 イサック様は、細身のようで、実は筋肉が結構ある。その点、ぼくには筋肉なんて……。

 羨ましいな、と眺めていた。その時。ふと、イサック様の動きが止まった。


 何事だろうか? と、イサック様の視線を追えば、そこには、窓際で、こちらを見ているシャンリ様。

 ああ、シャンリ様か。動きが止まったのも、納得する。


 イサック様を見ていて一番最初に感じたのは、シャンリ様という存在。イサック様は、それはもうシャンリ様を気にかけている。いつもだ。理由は……わからない。



 イサック様を再び視界に入れれば、迷っているような様子に、ほんのりと恥じらいも伺える。

 そして、何故か手を振り始めた。唖然だ。あの、イサック様が、手を振るとは! なんて、なんて事だ!


 い、一大事だぞ!!!

 叫び、走りたい衝動を抑えながら、見ていないふりをした。


 イサック様は、いつも涼しい顔をして、何を考えているか分からなくて……。

 何か言えば、一言、それも冷たく放つ言葉しか返ってこなくて。世間話や私生活等は、全く話してくれなくて、仕事以外には関心も持たなくて。

 それでも、そういう、格好良い男だと、思っていた。





「イサック様、どちらへ?」


「シャンリ様のお部屋だ……昼食の時間だろう」


 無表情で、そそくさと歩いている。また、シャンリ様か。

 ぼくはイサック様の笑顔を見たことがないが、果たしてシャンリ様は、あるのだろうか?


 ぼくが思うに、イサック様の、シャンリ様への関心は、この国で一番だ。

 シャンリ様を気にする人が、少ないのも原因だが、イサック様は、別だ。常に、シャンリ様だけを考えているように、思う。



 聞けば、これも頼まれた訳では、ないらしい。つまり、仕事では、ない。なのに、毎食、送り迎えを率先している。

 誰かに頼めば、良いのに……それも、しない。

 頼めば良いのでは? と、聞いてみたこともあるが、断られてしまった。素っ気なく「いらない」と、ただ一言。



 つまり、イサック様が、やりたいのだろう。

 仕事の時間を削ってまで。

 そういえば、先日も、仕事終わりだというのに、シャンリ様の部屋の電気を気にされていた。

 電気代など、この城では大したことはない。ということは、シャンリ様の体調を心配しているのだろう。お優しい。



 ぼくも馬鹿じゃない。ここまでくれば疑問に思う。

 もしかして、イサック様は、シャンリ様に特別な想いを抱いているのかもしれない。と。


 歳も近いから、仲が良いのだろう。とは、ならない。何故なら、イサック様は、人の顔や名前を覚えないからだ。

 滅多な事がない限りは。王族だろうと、それは同じ。次女のシエル様の顔も、名前も、覚えていないらしかった。

 僕は、たくさん話し掛けてるから、覚えていてくれているかな?

 他の誰かと話しているところも、あまり見ないしなあ。


「イサック様は、結婚しないのですか?」


 以前、聞いたことがあった。


「……しない」


 一瞬、苦しそうに、答えたそれを、当時は理解出来なかった。

 今思えば、もし、シャンリ様に特別な想いを抱いているのなら、それは叶わない。そういう気持ちも、含まれていたのかもしれない。


 でも、今は。

 シャンリ様は、城の中でも特別、離れに住む、哀れなお姫様。として有名。


 誰も近づこうとしない、謎に包まれている、引きこもり。出てくるのは、食事の時のみ。

 ぼくもまだ、きちんと拝見したことはない。




 長い廊下を歩いていると、声が聞こえてきた。この低く軽い声は、サラン様かな?


 そろり、と、顔を出すと、イサック様に腕を引かれて、困惑気味のシャンリ様。どこかへ行ってしまわれた。

 シャンリ様に、サラン様が何か言ったのだろうか? あり得る。


「誰だい、そこにいるのは?」


 僕の事だろう。サラン様に気づかれたなら、仕方ない。


「こ、こんにちは! サラン様!」


「おや、また従者か。君は、そうだねえ、あの従者より、素直でいい子そうだ。従者っていうのは、そうでなくちゃ」


「イサック様が、何かしてしまったのでしょうか?」


 イサック様が、サラン様を怒らせるような事でも? サラン様は、仕事上では重要。地位も上だ。怒らせてはまずい。



「そう、イサックね。あの従者は、僕をいつも睨む。嫌われているようだね」


 睨む? イサック様が? 軽い調子で、サラン様は気にも止めていないけれど、ありえない。

 イサック様は、仕事はきちんとする。嫌いな相手でも、顔に出すことは無い。

 でも、仕事を疎かにして、私情が出てしまうとは。何かあるのだろう。仕事より大事な…………そう、例えば、シャンリ様、関係。かも、しれない。うん、そうだ。



 先程も居たしな、一緒に。



 この時には、ぼくの中でだけだが、イサック様のシャンリ様への気持ちに、ほとんど気づいた。




「あれ、イサック様?」


 昼食にシャンリ様を連れていったイサック様の、様子がおかしい。気づいたのは、食事場の前で、ただ、呆然と立ち尽くしているイサック様を、見たからだ。

 今は、きっと、その扉の向こうで、シャンリ様が食事をなさっているに、違いない。


 いつもなら、何か別の仕事を、テキパキと、こなしている時間だ。

 何か、あったのだろうか? サラン様から逃げるように去った後、何か。


「あの、イサック様、どうかされたのですか?」


 反応はない。ただ、扉を見つめているだけの、イサック様。


「イサック様? イサック様!」


「…………あ? ああ、アンリか。どうした」


 名前覚えていてくれたんだ! 嬉しい! やっと、こちらを見てくれた、イサック様は、やっぱり、どこかいつもとは違う。

 夢心地というか、寝ぼけているみたいだ。

 どうした、と聞く方が、おかしい。ぼくが聞いているんだから。


「あの、イサック様? 大丈夫ですか」


 数歩、歩み寄って、気づいた。

 イサック様は、もしかして、笑っている?

 そう思ったのは、眼が、優しさを孕んでいたから。今、イサック様は、確かに僕を見ているが、たぶん、違う、誰かを見ている。

 いや、思い出しているのかもしれない、シャンリ様を。


 何か、良いことでもあったのかな。もしかしたら、進展したのかもしれない。

 イサック様の耳が、ほんのり色付いていたから。

 僕は、こっそりと、イサック様とシャンリ様を、応援することにした。

 あくまで、こっそりだ。





 夕食をシャンリ様が召し上がっている間、この部屋に来てから、イサック様の様子がおかしかった。書類を片手に、だけど眼にすることはなく、呆然としている。

 またシャンリ様と何かあったのだろう。今回は、考え込んでいるみたいだ。


 不審に思って、避けて通る他の従者達。


 イサック様は、完璧故に、近寄りがたい存在だ。ただでさえ、それなのに、今は、呆然と空を見ている。どうしたのだろう。聞きたいが、しつこくして嫌われてしまったら……。


 そしてしばらくすると、ぼくはあることに気づく。


「い、イサック様! イサック様!」


「……なんだ、うるさい」


「あの、もうすぐ時間ですよ! シャンリ様の!」


「何?!」


 本気で気づかなかったらしく、僕に書類を渡し、走り出した。


「イサック様! ま、まだ時間ありますよ! あの、そんなに急がなくても!」


 僕がイサック様の背中に叫ぶ。まだ走らなくても大丈夫な、時間だろう。ただ準備を──と思っただけだ。



「逃げられるかもしれん!」


 イサック様は、走りながら返事をしてくれたけど、どういう意味?

 追い駆けっこでも、しているのだろうか?

 仲が良いなあ。



 そんな、ぼくたちの関係が変わったのは、この日の夕食後からだ。



「楽しそうですね、イサック様!」


 その日の夜。

 嬉しそうな雰囲気を出したイサック様が、厨房にいた。初めて眼にする、イサック様の喜び。

 鼻歌まで聞こえるのだ。しかも、上手い! 何から何まで、完璧な人だな、本当に! 格好良い!


「ああ、分かるか、アンリ」


「はい! 凄く、楽しそうです! でも、どうして、料理を?」


 そう、イサック様は今、黒いエプロンと共に、フライパンを片手に鮭を焼いている。

 ご飯は先程食べたし、何を作っているのかな? もしかして、シャンリ様の夜食?


「これか、いつか、シャンリ様に作るため、練習をしている。鮭のムニエルだ」


「いつか、ですか?」


「ああ。暇なときは、他の料理も練習したい……食うか?」


「良いんですか!」


 いただきまーす、と、出来立てを食べる。だけど、感想は求めていないのか、また別の食材を手に、作業をし始めている。


「美味しいですよ、凄く!」


「そうか」


 僕の評価なんて興味無いのだろう。

 でも、言うだけ、言っておく。美味しいものを、シャンリ様に出して、願わくば、幸せになってほしい。

 それに、今のイサック様は、本当に珍しく、仕事以外も話をしてくれそうな、気配。ここぞとばかりに! ぼくの話しも聞いてくれるだろうか。



「イサック様、聞いてください! ぼく、最近初めてデートをしたんです。でも、良く分からなくて……」


 意見を、求めるつもりだった。ぼくの言葉に、イサック様の動きが、止まる。

 あ、この感じは、聞いてくれるかもしれないぞ! そう思ったぼくは、また続ける。


「お相手、凄く勝手で、向こうから一回だけ、なんて言われたから、デートを了承したのに、ここに行きたい、ここを見たいって、大変でした! どうしてああ──え?」


 何かイサック様の口元が動いた気がして、話しを止めた。


「……ろ」


 イサック様が、何かをボソッと言ったが、良く聞こえない。


「え、何ですか?」


「デートとは、何をする? 教えろ」


「え、ぼく?」


「そうだ。デートについて知りたい」


「あ、えっと……」



 まさか、意見を求めたのに、逆に求められるとは。

 何故だろう。求められるのは、嬉しい! それも、憧れの人に。ぼくの知っていることなら何でも教えて差し上げよう!


 思えば、この時から、ぼくとイサック様の、奇妙な関係が始まった。



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