第109話
……やがて海の変化が終わる。
海は星の見てる目の前で真っ黒な色に染まった人間になった。(いや、海は本当の魔女になったのかもしれない)その真っ黒な海を見て、星がはじめに連想したのは自分のパートナーである魚の存在だった。
星の相棒である黒い魚と同じように、どこかの闇から抜け出してきたと思われるような、(あるいは影が一人で勝手に出歩いているような)真っ黒な海の姿は『闇そのもの』だった。
裾の長い白い服からはみ出した海の手足は『深淵』(それは自我と欲望に執着した魔女が行き着く先の世界のことだ。契約のとき、魚が星に忠告として、深淵の風景を少しだけ星に見せてくれていた)で見た闇と同じ色をしていた。
黒ではない。闇なのだ。海の顔もそう。海の顔は真っ黒で、その瞳の部分にはぽっかりとした穴のようなものが空いている。(それが確かに認識できる)
それはまるで宇宙にあるブラックホールのようだった。
海は私を恨んでいる。世界のすべてを恨んでいる。
海は世界のすべてが敵だと思い込んでいる。その結果として、……世界は海の敵となる。
海に味方をしているのは世界でただ一つ、この森だけだった。
(だから海はこの森の中に逃げ込んだのだ)
きっかけが欲しかった。
なんでもいい。
誰か私の背中を押して。
星は意識を集中する。
一陣の風が吹き抜ける。
落ち葉が風に舞って、雨が空気中でランダムにその軌道を変えた。
星の足は動かない。(星は一瞬、足を動かそうとした)
……疲れていて、星の思い通りに動いてくれない。
情けない。
星は思う。




