第103話
よく見ると、海は靴を履いていなかった。海は裸足のまま、森の中を走っている。対して星はきちんとランニング用のスニーカーを履いている。
……なめないでよ。こちとらずっと(海のことを追いかけて)毎日、本気で走ってきたんだからね。
星は初等部のときから、学院の高等部に進学した現在まで(星と海は今年で高等部三年生である。年齢は星が十八歳。海が十七歳だ)ずっと陸上部に在籍していた。きっかけは、もちろん陸上部に海がいたからだ。(今はそだけではない。海はあくまできっかけだ)
海の走る姿を見て、星は(その姿に憧れ)感動した。そのときの経験が星の『走るという行為の原点』になっている。受験を控えて高等部では部活はお休みとなってしまったが、走ること自体はやめていない。今でも星は暇さえあれば、その時間をランニングをする時間に充てていた。
やがて、海はこのままでは星から逃げ切れないことを悟ったのか、ある地点でさっとその身を翻し、自分の後ろから(自分を追って)やってくる星と正面から向き合った。
体勢を低く構え、やる気満々といった感じだ。
……諦めた? いや、『戦う』つもりか?
……上等じゃない。やってやるわよ。
海を追いかけながら、(自分から本気で逃げる海を見て)なんだか星はちょっと腹が立っていた。
星は海と少し距離を保ったところで立ち止まる。(二人とも肩で息をしている)するとすぐに二人の周囲は降り続く雨と、枯れ落ちる無数の葉っぱによって、その空間が満たされるようになった。




