極限の妖魔2
「それじゃ誰か代表の人が話を出来る?皆んなで話されると、私ちょっと混乱しちゃうから」
「俺が話そう。俺が1番年上のようだからな。
……俺たちは奴に取り込まれると同時に、奴の一部になっていたんだ」
「奴って……妖魔の事?私達はこの黒い魔の物をそう呼んでいるの」
「妖魔か……確かにその呼び名は誰かが言っていたな。何だ、こんな化け物がいるって知っているのは当たり前ってか?クソがっ」
この大人の男性らしき魂は、既に誰かから「妖魔」という言葉を聞いている。
一体誰から?
もしかして同じく妖魔に喰われた魂達の誰かが、妖魔の存在を知っていたのかもしれない。
「俺たちの記憶や知識を、奴はあたかも自分が経験した事のようにトレースしてしまうんだ。
まるで俺ら自身が化け物になったみたいで、気色悪いったらなかったな……
奴は、あの化け物は、次から次へと人の体に入っては魂を取り込んでいたんだが、いつからか意識のような物が弱くなったんだ。
俺らが奴の代わりに人の体を操ることが出来る程に」
「意識?妖魔の意識が弱まったから、こうして常盤君の体を操れているの?」
「そうだ。元々俺たちは、化け物に取り込まれてはいるが、別々の意思をもった別人格だ。妖魔が俺らを抑え込む力が無いのなら、代わりにこの身体を操れもする」
それって……常盤君を操っていたのは妖魔だけでは無いと言うことになるよね?
それはとても問題なんじゃない?!
「それじゃ常盤君を操って、陽太さんを狙っていたのは誰なの?陽太さんは明らかに狙いを付けられていたと思うのだけど」
「陽太……浅野先生のことか。惜しかったな、凄く輝いて強く見えたのに……」
「え……?」
「化け物は欲張って多くの魂を取り込んだ挙句、その情報量に耐えきれなくなったのだろうと、俺たちは考えたんだ。
だとすれば、もっと多くの魂を……それも強くて化け物の意識を奪える程の魂を取り込めば、俺たちはここから解放されると……希望を持っていた。……それなのに」
背筋に冷たいものが走る。
私が助けたいと思っていた魂達の本質って……妖魔とそんなに変わらないんじゃない?生きている人を、ワザと妖魔に取り込ませるなんて、身勝手にも程がある。
「違うっ!そんなんじゃ無い、そんな言い方しないでよっ!強くて輝いている魂の人だったら、私たちに気がついて、助けてくれるかもしれないと思ったからっ!」
中にいる別の子が突然、話しだした。
魂たちの間でも意見は割れているみたいだ。
「だがお前だって、あの男を駅前で見かけた時には賛成しただろう?追いかけて居場所を突き止めれば、化け物に取り込ませやすくなるからと」
「それは……浅野先生の魂が似ていたから、間違って追いかけなくちゃって思ったんだよ。でも今は、本物を見たからはっきり違うって分かる。白い魂が大人になるとどんな風になるのか。このお姉ちゃんに会って、ようやく分かったから」
*
目の前で常盤君の「一人芝居」めいた会話が繰り広げられている。
常盤君の体が妖魔や魂たちに操られているその時、本人の常盤君は一体どうしているのだろう?
今1番心配すべきなのは、押し込められている常盤君の意識ではないの?
こんな状態が、長く続いて良い訳がない。
「今、この体の持ち主はどうしてるの?妖魔にも君たちにも押さえ込まれていたら、苦しいんじゃない?」
「そんな事を言われても、俺たちがこの体を使っていないと、あの化け物が出てきて勝手な事をするからな。さっきも暴言吐いて、あんたを遠ざけようとしたろ?」
「私を見て、『来るな』って言ったのは妖魔の方なのね?」
「そうだ。化け物はあんたの『白い光』に怯えていたからな。あんたと出会った後に、俺らが太一の体を操るのは造作も無かった。
その白い光は……あの化け物を消せるんだろ?
俺たちの中には、その力を持つ前に喰われちまった子どもが何人かいる。皆がその白い光に会うのを待ち望んでいたんだ。
だから俺らは、あんたを逃すまいと必死で連れ出したんだ。
頼むっ……俺らをあの化け物から、解放してくれっ!」
*
「ねぇ?私たち、ここから出られる?」
小さな女の子のような口調で、常盤君が話し出した。さっきも話していた子だ。
「それは、今すぐには無理みたい。君たちは常盤君の魂に入り込んでいるから、私の力を使うと常盤君の魂ごと壊れちゃうんだって」
「えーっ……やっぱりこの体から出ないとダメかぁ」
エンマは確かにそう言っていたはず。寄生された魂に光球を投げると、その魂も無事では済まないみたいな事を。
……エンマ。そう、エンマだ。
スマフォは使えなくても、私はエンマに念話が出来る。今の状況を伝えたら、きっと助けてくれるはず。
「エンマ様?今ちょっと大変なんですけど!」
ーー「マコモ、私も丁度念話をしようとしていた所だ。今どこに居る?冬賀の顔が酷いぞ」
「エンマ様、それは言うなら顔色が酷い、です。私は今……どこにいるんだろ?どっかのビルの一階です」
ーー「随分とざっくりした情報だな。私もあいにく現世に降りて来ていてな、映しの鏡が使えん」
「あー……そうなんですね。冬賀さんが居るって事は塾の近くですか?」
ーー「そうだ。あの陽太という男がマコモが連れ去られたと騒いでいる。とりあえず無事か?」
「はい、とりあえず……うわっ!」
突然伸びてきた常盤君の両手が、私の首に掛かった。




