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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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新たな妖魔を倒すには……?5



 美味しいお昼ご飯を食べ、眠気をこらえながらデスクワークをこなす。そんな平和な午後だ。


 この会社には経理担当が居ないので、お金に関わる事は全て冬賀さんの仕事になっている。

 私の仕事はと言えば、今はまだ雑用程度だけど、あと数日で正式入社すれば、広報を任せてもらえるらしい。


 今はブラックウルフのWebサイトに載せる写真を選んだり、お客様からの感想をまとめている所だ。もちろん私はWebページをいじれないし、修正は全て管理会社にお任せだけど。



「あーっ、そうか……。だよなぁ」


 冬賀さんが1人喋ってる声が聞こえて来る。PCのディスプレイを覗いている冬賀さんが、どんよりとした重たい空気をまとい始めた。

 あ、これ絶対何かあったやつだ。


「社長……何かトラブルですか?」


「あれだ、陽太君だ。今メールを確認したんだが、常盤君の親との面談には塾長も参加するらしい」


「塾長って……それじゃ常盤君の様子は聞けても、お祓いしますか?なんて話は出来ないんじゃ?」


「そうだ。結局はこういう具体的な話の運びや、目の前にある状況を崩す事が難しい。アルバイトで雇われている陽太君が、生徒の親御さんと話をしたいと言ったのなら、責任者である塾長も一緒に出てくるのは当たり前だった……」


「あーっ……確かにそうですよね。社長も私1人にクライアントを任せたりしないですし」


 何となく陽太さんなら、常盤君のご両親に上手く話を通してくれるような気がしちゃったんだよね。

 陽太さんはそもそも先生として常盤君を受け持っていた訳でも無いし、そりゃそうなるか。

 

「手紙に伝えたい事を書いて、面談の時に親御さんに渡す、とか?」


「不確実だな……。相手からの反応が無ければそれで終わりだ。せっかく陽太君が作ってくれた機会だ、出来る限り有効に使いたいんだがな」


 正直言って、今は一刻を争うような時だと私は思っている。それなのに段取りばかりに手間どって、肝心な常盤君の身の安全は保たれていない。

 だから今はもう……決断の時ではないの?


「呼んじゃえば……その面談に常盤君も呼んじゃうのはどうですか?」


「は?常盤君を呼んでどうするんだ?まさかその場で妖魔を払うとか言うんじゃないだろうな?」


「……そのまさかです」


「また無茶振りかよ……」


「社長、心の声がだだ漏れてますよ」


 またって言うけど、そんなに私は何かやったっけ?


「嫌でも前を向かせられてる気がするな。いや、尻を叩かれてると言った方がしっくりくるか?」


「社長のお尻を叩く程、私は偉くありませんよ。それぐらい出来るような人になりたいとは思いますけど」


「そうはなりたいとか……閻魔大王が聞いたら大変だな。あの人は嫉妬深そうだからな」


 確かに私がブラックウルフで働きたいと言った時、エンマが反対したのは単純に冬賀さんへの嫉妬からだった。

 でも最近のエンマの発言や行動を見てると、どうもにそれだけじゃない気がして……


「実はエンマ様は嫉妬深いという以前に、独占欲が強いんじゃないかと思ってるんですよね。私はちっちゃい頃から、ずーっとエンマ様の部下というか手下だったから……私が他で働くのが嫌だったんじゃないかと」


「なるほどな。だから清野がここで働き出したと思ったら、急に求婚してきた訳か。閻魔大王も清野に逃げられないように、あの手この手と大変だったんだな」


「……エンマ様って、もうちょっと分かりやすくならないんでしょうかね?」


「俺に言うなよ……。まぁ何にせよ、常磐君の件を引きずったままだと、他の仕事が回らなくなるからな。早めに助けに行こう」


「そうですね。まずは常磐君に会う段取りだけでも、陽太さんにお願いしましょう」


「そうだな」


 

 ◇


 

 " ブブブッ、ブブブッ " 

 " カタタタッ、 カタタタッ " 


 冬賀さんの事務机の上でスマフォのバイブが鳴っている。

 横に置かれたミントタブレットの薄いプラケースが接触していて、ただのバイブなのに妙に騒々しい。


「はいっ、あぁ……どうも。……そうか、……まぁ仕方無いな、向こうの都合的にはそうなるだろうな。いや大丈夫だ、清野にもそう伝える。分かった……またな」


 あれっ?今、清野って言った??

 就業時間まで残す所5分ほど。私はそろそろ広げていた資料の片付けを初める所だった。

 通話を終えて眉間のシワが濃くなってしまった冬賀さんだが、私から声を掛けても大丈夫だろうか?


「あの……社長?何かありました?」


 思い切って声を掛けてみたけれど、冬賀さんの吐く深い溜め息に不安しかない。


「あぁ、有ったと言うか無かったというか……。今のは陽太君からの電話だったんだが、常磐君親子は塾には面談に来ないそうだ。もう塾は辞めるから、面談の必要はないと常磐くんの親御さんから言われたらしい」


「ええっ……確かに。言われてみれば、そうかもしれませんね」


「そうだよなぁ……。だがそれくらいしか常磐君との節点は無いだろう?繋がりの無い中で、こちらが勝手に『妖魔を祓わせてくれ』なんて言っても、だれがそんなオカルトじみた話を聞いてくれるんだ?

 そもそも妖魔を祓うと言っても、何の面識もない中学生の彼に何かしてみろ……親に訴えられて、普通に犯罪者として俺達が検挙されてもおかしくない」


「えええっーー?!ただ常磐くんを助けたいだけのにっ?!」


「俺達は現実に生きているからな。多くの人の意見、多数決で常識というものが決まっている。俺達の仕事はどんなに正しくてもマイノリティーだ。理解を得たいと言っても、そう簡単に得られるものでは無い」


「それは私だって分かってますよっ。私だって妖魔を退治してるなんて、周りの人に言った事無いですし、痛い奴だと思われるのは目に見えてますから」


 まさか常磐くんの状況をここまで知っておきながら、手も足も出せないなんて……。こんなの常磐くんを見捨てるのも同じじゃないの?!


「残念だがな清野、これが現実だ。こちらがどんなに相手を思って取った行動でも、相手が頼んで無ければ、ただのストーカー行為で加害にもなり得る。助けたいと思った所で助ける関係性が無い」


「それは……相手が助けて欲しいって頼めない状況に居たら、言えないのも仕方なく無いですか?逃げる判断さえも出来ないくらい追い詰められた人が、SOSなんて出せる訳ないでしょう?

 そんな人を助けられないから、今も常盤君を見捨てるみたいな話になっちゃうです。そんなのおかしくないですか?間違ってる……」


 ヤバい、また口が滑って言い過ぎた。

 冬賀さんに「間違ってる」なんて、言って良い訳が無いのに……


「清野……気持ちは分かる。だが今、何か具体的に取れる対処はあるか?」


「ありま、せん」


「そうだな。だがまだ何も出来ないと決まった訳じゃない。諦めないというのも清野の決定事項なんだろ?それを俺はとやかく言うつもりも無い。只な……」


「只、なんですか?」


「暴走するなよ?清野は今まで1人で妖魔を倒してきたみたいだが、今回の妖魔は一癖も二癖もあるからな?」


「いくら何でも……わたし1人で出来ることなんてたかが知れてますから。突っ走ったりは出来ませんよ」


「それなら良いんだがな……」


 私の頭の中はさっきから、どこに行けば常盤君に会えるのかを考えていた。

 私の考える事なんて、冬賀さんには簡単に見透かされてしまうんだな。



 ◇



 ブラックウルフの事務所を出て、歩き慣れた目白駅までの道のりを歩く。

 池袋方面の電車に乗り、見慣れた車窓を眺めていると隣駅の池袋まではあっという間だ。


 後ろから人の波に押されるように電車の扉をくぐりホームへ降りる。この後は乗り換えの為に一度改札口を出なければならない。

 私も先を急ぐ人々に紛れ、吸い込まれるように自動改札口を通り抜けた。



 *



 いつものように駅構内の地下通路を歩いていくとショルダーバッグの中でスマフォのバイブが鳴った。急ぎ取り出しディスプレイを確認すると、冬賀さんからの着信だった。


「お疲れ様です社長、どうしました?」


「あぁ清野、仕事時間外に済まない。実は今、陽太君から連絡があったんだ……。正直、清野に言うのは迷ったんだが、後で知るのも嫌だろうと思ったから言うな。今、陽太君の居る塾に常磐君がお母さんと一緒に来ている」


「ええっ?!もう塾には来ないんじゃなかったですか?」


「そうだ。流石に面談は断ったらしいんだが、最後にお世話になった塾長に挨拶をしに、急に塾へ来たらしい。陽太君が今、それを連絡くれたんだ」


 塾って確か、この池袋駅近くじゃなかったっけ?


「社長、今私が何処にいるかご存知ですか?」


「はぁーっ、それもあって連絡を迷ったんだが、時間からして池袋の辺りだろ?」


「大正解です。確か塾の名前は『研進塾』でしたよね?」


「清野、行くつもりだな?」


「もちろんです。すいません」


「何故謝る?!」


「私、何かしてしまうかもしれないので」


「分かった。とりあえず俺もそこに向かうから早まるなよ」


「すいません」


「だから謝るなよ……大人しく待ってろ!」

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