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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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新たな妖魔を倒すには……?



 土日の休みとはいえ、善は急げと冬賀さんにはメッセージを送っておいた。青木さんと陽太さんにもメールで大まかな事情と、話し合いの場が欲しいと伝える。


 陽太さんからの返信は早く、トキワ君を助けられるなら協力したいと、既にメール文に書かれていた。


 青木さんは、話は聞いてくれると言っていて、近日中の空き時間を教えてくれた。


 そして冬賀さんは……


「清野は深入りするだろうな、とは思っていた……。だがな、閻魔大王に話を通しても協力を得られなかったのに、どうしてこの件で俺たちが動くと思う?何度も言うが、こっちはボランティアではやっていない」


 だよね……

 冬賀さんからのコメントは鉄壁だと思っていたよ。


 目の前には冬賀さんの鎌倉土産「ハ◯サブレ」がある。買ってきてもらった物だけど、甘い物を出したら少しは機嫌が良くなるかな?


「お土産……いただきますね。社長もどうですか?」


 冬賀さんの事務机の上に、そっと鳥の形のサブレを置く。いつも置いてある、銀色の猫の置物と鳥が並んだ。

 

「猫より鳥の方が大きいですね」


「そうだな。自分の体よりデカい鳥と戦ったら、ミーニャも流石に勝てないかもな」


「え?ミーニャって黒猫さんですよね。この銀色猫さんに、ちょっと見た目は似てますけど」


 鶏の卵くらいの大きさをしている銀色の置物は、結構リアルな猫の形をしている。

 行儀良く手足を揃えて座っているポーズが、水族館で見たミーニャと重なる。


「この置物は、ミーニャのモデルなんだ。よく知られているのは紙などの『依り代』に霊を宿らせる擬人式神だが、俺の場合は思いを形にする式神なんだ。師匠がこの思業式神にこだわる人だったんだよな……。俺はそんなに術者としてのセンスは良くないのに、どうしてもこのタイプの式神にこだわって使役させたがった。スパルタも良いところだ」


 やっぱり冬賀さんは、よく分からない苦労を背負い込みやすいらしい。術者でスパルタって、荒行とかもしていそう。


「自分の想念を形にする為には、明確にイメージを固める必要があるんだ。この銀色の猫は深月のオモチャだったんだが『思い』や『気』を高める訓練をするには丁度良かった。この猫を夢に見るくらいには、いつも見て記憶していた」


 冬賀さんの術者としての起点には、妹の深月さんがいる。

 この猫の置物は、深月さんの記憶と繋がる大事な物なのだろう。


「この銀色の猫さんが、ミーニャさんの原型だったんですね。ん?何でミーニャは銀色じゃないんですか?」


「それは……黒狼も作りたかったからな。色を揃えておきたかった。銀狼も考えたが、俺が強くイメージ出来るのは黒狼の方だった……って、呆れてんじゃないぞ、清野っ」


 深月さんの思い出を語られ、聞いている私の胸まで熱くなってきていたのに、まさか銀狼と黒狼で迷っていたとか……。

 実年齢より上に見えるくらい落ち着いた冬賀さんが、実はそんな少年っぽさを秘めていたなんて……かなり意外だな。


「一応聞かせてもらいますけど、ミーニャというお名前はどちらから?」


「…………妹が好きだった、猫のキャラクターの名前なんだ。他に良い名も思いつかなかったからな」


 冬賀さんが、深月さんとの思い出を大事にしている事は、よく分かった。

 


 ◇



 青木さんと陽太さんの都合から、今日の夕方に急遽、話し合いをする事になった。

 場所はここ、ブラックウルフの商談室。

 つい先日、ここで話し合いをしたばかりなのに、早くも2回目だ。



「すいません冬賀さん。就業時間中なのに」


「まぁ仕方がないだろ。逆にこの間は残業してもらったからな。状況次第で動きを変えない方がやりづらい」


 青木さんと陽太さんは途中で待ち合わせをしているらしく、2人一緒に来るようだ。


「先に清野の案を聞かせてもらっているが、確実に駄目な点があるのは分かっているな?」


「はい。トキワ君の魂から妖魔を引き離す方法ですよね?」


「そうだ。前は閻魔大王が助けてくれたが、今回はもうその手は使えない。清野の案はどうなんだろうな……。上手く行くのか?俺はさっぱり分からない。厳しい事を言う様だが、現世の俺たちだけでどうにか出来ないのなら、それはこの世においての定めということだ」


 冬賀さんは受け入れ難い事実でも、誤魔化さずに伝えてくれる。

 私が不可能を前に足掻かないように、覚悟を決められるように、今から教えてくれているのだろう。


「難しい事だと分かっていても、出来る事はやって、悪あがきでも何でもしたいんです。それに冬賀さんや青木さん達を巻き込むのは違うと分かってはいるんですけど……。私の力だけでは、本当にどうにもならないから」


 今回の話は私が勝手に動いているも同然で、偽善だの自己満足だのと思われても仕方がない。

 冬賀さんは初めから一線を引いて、新たに現れた妖魔との関わりを断とうとしていたし、陽太さんだって、あれこれ伝えては来たけど、それは自分の身を守る為だったから。


 どうして私は会った事も無い、ただ一方的に知っただけの男の子を助けようとしているんだろう?それも周りの人達を巻き込んでまで……


「青木さんも浅野君も、話を聞いてくれると言っているんだから、そんなに清野が気にすることは無いだろう?それに浅野君なんて、この話を振ってきた張本人だし、よく話も聞かない内から、協力するとまで言ってくれている。

 だからこっちは要件だけを伝えて、まず反応を見たら良い。ただ相手から出てきた意見は、しっかり受け止めろよ」


「はいっ、分かりました。今回の妖魔の件では、社長にもっと嫌な顔をされると思ってたから、ちょっと拍子抜けしちゃいましたよ」


「ちょっと待て、俺ってそんなに嫌そうな顔とかするか?」


「あー……まぁまぁしてるかと。嫌そうというか、眉間にシワがよく寄ってます」


「これか……」


 自覚があるのか、冬賀さんが自分の指で両眉の間に触れた。


「そうです、それですっ。社長の似顔絵を描くなら、私はその眉間のシワを書き込みます」


「なんだよ嫌味だな。絶対に似顔絵なんて描くなよ」


「それってもしかして、描いて欲しいって言ってます?」


「言ってねーよ……お前、そんな事ばっかり言ってて、閻魔大王と喧嘩にならないか?」


 エンマも私も口の悪さは同レベルだ。エンマだってこの間、それを認めてくれていた。


「私もエンマ様も、口の悪さと迂闊さにおいては同レベルのおあいこなんです。ご心配には及びません、社長」


「閻魔大王と同レベル……おあいこ?お前、それって本気で言ってるのかか?」


「もちろん本気です」


「閻魔大王の求婚を受ける奴は、やっぱ違うな……」


 冬賀さんはそう言うと、軽く頭を振りながら自分の事務机に戻って行った。


 もうすぐ、青木さんと陽太さんがやってくる時間だ。


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