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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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新たなエンマと私の関係は?3



 どうしよう……エンマをまた怒らせたかもしれない。

 私、何をエンマに言ったっけ?おあいこ……?

 閻魔大王との口論を「おあいこ」で済ませようとしたのは、流石に不味かったか?


 リビング内の空間が歪み、見慣れた黒衣のエンマが現れた。

 怒っているかと思ったのに、その表情は思いの他柔らかだ。


「マコモ……これ以上離れてはいられないと思い、来てしまった。おあいこか……くくっ、まるで子どものケンカだな。それくらいが私達には丁度良いのであろう。おいで……」


 何だ、何だ?

 怒られるかと思ったのに、妙にご機嫌なエンマがそこに居た。

 

 おまけに「おいで……」だと??


「エンマ様、それって小さい頃の私にやってたやつですよね……。現世に現れるとまずそうしてくれるから、私……そこにダイブしていたような」


 記憶に残る、私が幼い頃に見ていたエンマの姿がそこにはあった。


「そうだな。私がこうすると、マコモは目を輝かせて懐に飛び込んで来ていた。いつからだろう……マコモが私に触れなくなったのは」


 私がエンマに抱きつけなくなったのは、いつからだっただろう?

 抱きついた時に感じたエンマの体温に、妙な恥ずかしさを感じたのは覚えている。受け止めてもらえる嬉しさは、エンマに触れる気恥ずかしさに変わっていった。


「そりゃ……仕方ないですよ。私だって成長しますし、恥ずかしくなったんですから」


「そうか、ならば私から行く他無いな」


 エンマはそう言うと、私との間にあった数歩の距離を即座に詰めて、私の体を覆うように抱きしめた。



 エンマに抱きしめられて、懐かしいエンマの香りが鼻腔をくすぐる。

 衣に焚き染められた香の香りと、熱気を帯びた汗の匂い。


「ドキドキするかと思ったら結構、安心しますね。こうしてギュッとされるのは」


 エンマを意識して距離をとっていた時の方が、心が落ち着かなかった。

 逆にゼロ距離でくっついている今の方が、安心して心地良い。


「そうか?まぁそう言われると、ちょっと複雑な心境だがな……。私は逆に落ち着かなくて困る。勢いで行動するとやはり後悔も付きまとうな」


「後悔、ですか?私は久しぶりにエンマ様に抱きつけて、嬉しいですよ?」


 見上げると、エンマの顔が直ぐ近くにあった。

 昔はエンマの体にすっぽりと収まるくらいに私は小さかったのに、今の私はエンマの肩に目線がある。


「嬉しい……か、その言葉は益々マズイな。マコモの香りがこんなに近くから香るのも予想外だ」


 エンマはそう言うと、何か考えにふけるように目を閉じた。


「マコモ、何か冷静になれる話題はないか?早急で、深刻なものであればなお良いのだが……」


「あっ!」


「何だ、言ってみろ」


「至急、エンマ様に確認したい事があったんですっ」


「そうか、ならば聞こうではないか」




 エンマに陽太さんの件を話すと「またあの男か……」と言いながらも、確認作業を了承してくれた。


 この時間帯、陽太さんの近くにいる人物を確認するなら冥府まで戻った方が良いらしく、エンマは私を連れて空間を移動した。



 ◇



「ここは私の執務室だ。そこにある鏡から現世の様子を見ることができる」


 目の前に広がる和風の調度が置かれた洋室は、以前見学をした冥府の役所の一室らしい。


「ここでエンマ様はお仕事をされるのですか?」


「あぁそうだ。だが多くの時間は、亡者と対面する裁定の場で過ごしている。ここは特別な用事がある時だけだ」


「特別な用事……ですか」


 現世の様子が見られるという事は、私の生活を眺め見る時もここにいるのだろうな。

 それって特別な用事に入るのか……


「さっきは、ここから私を覗き見していたんですか?」


「覗き見とか言わないで欲しい。様子の確認だ、確認っ」


 エンマもやはり少しは罪悪感はあるのか、慌てているみたいだな。


「分かってますよ、確認、ですよね。それじゃ早速ですけど、陽太さんの周りの様子を見てもらっても良いですか?」


「そうだな。成長した妖魔がいるのであれば、状況の確認くらいはしておいた方が良いだろう」


 エンマはそう言うと、立てかけられた大きな鏡を静かに見つめた。



 ◇



 ガラスの様に透明感のある鏡面が僅かに揺れ動くと、その中央に陽太さんの姿が映し出された。

 鏡にはノートに赤字で何かを書き込む陽太さんの姿が見える。その前に、机を前に座る誰かがいそうなのだけど、顔までは見えない。


「ビデオ録画をしている様な見え方ですね。周りの様子も、もう少し見えたりします?」


「あぁ、とりあえず目的とする人物に合わせて映し出しただけだからな。この場の周りの様子も順に見ていこう」


 カメラでの撮影中に対象物からズームアウトしていくように、徐々に陽太さんの姿が小さくなり、周りの様子も映り始めた。


「目の前に居る子、女の子でしたね。あれ?陽太君に絡んできた子がどんな子か、聞いてなかったかも」


「この娘は違うな。青く冷静な魂を持っている。この陽太という男を前にしても、怯まない気質だ。先日一緒にいた、あの妖魔を撮る娘と似ているかもしれん」


「そんな事まで分かるんですね。それじゃ、陽太さんがこの生徒さんに教えるのは有りですね」


「そうだな。学びに来たとて、この男の姿や物言いに心落ち着かなくなる若者も居るだろうからな。まぁ、それも悪い事ではないが」


「年上の人に憧れる年頃ですしね」


「マコモもそんな事があったのか?」


「ええ、まぁ」


 このタイミングで、私が昔から募らせていたエンマへの恋心を打ち明けるのは面倒だから、とりあえずスルーをしておこう。


 今は陽太さんの周りの人を確認しないと。


「隣の子はどうですか?メガネをかけた男の子」


「…………誰だ?あの頃は確かにマコモは塾に通っていたが、関わる教師は女性が多かったはず。そういえば短期間だけ男子学生がこのように教えに来ていたような……まさか?そいつか?いや、でもマコモはそんな素振りは全く…………」


「エンマ様??隣の子はどうですか?」


「あぁっ……隣だな?真面目で真っ直ぐな少年だ。無論、妖魔は寄生していない」


「ちょっと広げて、この塾内の全体を見てもらう事はできますか?」


「あぁ、そうだな。もうここに居る全員を順に見てしまった方が早いだろう」

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