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日本の盾

ユーラシア大陸の東端、某国の最高作戦司令室。

 巨大なスクリーンに映し出された太平洋の軍事衛星画像を見上げながら、某国海軍の総司令官は、醜悪な笑みを噛み殺していた。


「……間違いありません。アメリカ第七艦隊と、忌々しい日本の独立部隊『北斗打撃群』は、第二列島線の海域で完全に睨み合っています」


参謀の報告に、司令室は歓喜のざわめきに包まれた。

 ここ数ヶ月、極東の海において最大の障害であったS.O.D.U.の主力艦隊(巡洋艦『たかお』や超弩級原潜『しんえん』)が、アメリカのプライドを賭けた洋上封鎖に引っかかり、数千キロの彼方に足止めされている。

 某国からすれば、これ以上ない千載一遇の「隙」であった。


「馬鹿な連中だ。覇権国同士の意地の張り合いで、自らの玄関をガラ空きにしているとはな」

 総司令官は、葉巻の煙を深く吸い込み、冷酷な目で日本近海の地図を睨みつけた。

「アメリカは身動きが取れん。正規の自衛隊は、憲法と法解釈の縛りで『先制攻撃』など絶対に撃てない案山子かかしだ。……長年の悲願である第一列島線の完全制圧、決行の時は今をおいて他にない!」


号令と共に、数十隻の揚陸艦やミサイル駆逐艦で構成された某国の巨大な大艦隊が、怒涛の勢いで東シナ海――日本の領海へと殺到していった。彼らは「無人の野を行く」つもりであった。

 自分たちが、絶対に開けてはならない「地獄の釜の蓋」を開けようとしていることなど、知る由もなかった。


数時間後。東シナ海、尖閣諸島周辺海域。

 我が物顔で波を裂いて進む某国艦隊の旗艦に、突如として緊迫した報告が響いた。


「前方に所属不明艦! たった一隻です! ……馬鹿な、速力50ノットを超えています!」

「威嚇射撃だ! 我々の進軍を阻む者は容赦なく沈めろ!」


某国艦隊が放った130ミリ砲弾が、海面を切り裂く。

 しかし、S.O.D.U.の次世代高速ミサイル駆逐艦『あきつかぜ』は、海面を滑るような常軌を逸した機動で、着弾の数十秒前には既にその空間から消え去っていた。


「最大戦速。取り舵一杯。……奴らの目をこちらに釘付けにしろ」

 『あきつかぜ』の艦長は、冷徹にデコイ(囮)としての役割を全うしていた。某国艦隊は、レーダーすら追いつかないその機動力に完全に翻弄され、全艦の砲塔を必死に旋回させる。


その直後だった。

 某国艦隊の司令官が、水平線の彼方に「それ」を見たのは。


「……な、なんだあれは……ッ!?」


朝霧を切り裂いて現れたのは、5隻の巨大な三胴船(のづき型)と、4隻の黒きピラミッド(ふるたか型)。

 総勢9隻の「バケモノ」たちが、海戦の黄金時代を彷彿とさせる完璧な『単縦陣たんじゅうじん』を組み、一切のジャミングを行わず、その異様な姿をハッキリと見せつけながら接近してきていた。

 そして、全艦の超電磁砲レールガンと高初速砲の砲身が、ピタリと自分たちに向けられている。


現代海戦における「見えないミサイルの撃ち合い」ではない。直接照準で撃ち抜かれるという、圧倒的な死の恐怖が某国艦隊を包み込む。


しかし、S.O.D.U.の9隻は引き金を引かなかった。

 彼らは完璧な防空網を展開し、自分たちの背後に護っていた一隻の船に、その「歴史的瞬間」を譲ったのである。


海上自衛隊・汎用護衛艦『あさひ』。

 そのブリッジは、重苦しい静寂と緊張に包まれていた。

 戦後何十年も実戦で引き金を引くことを封じられてきた「専守防衛の国」の自衛官たち。しかし今、彼らはS.O.D.U.という完璧な盾に守られながら、自らの手で国を護るという峻烈な決断を迫られていた。


「某国艦艇より、砲撃! 本艦への直接の侵害を確認……!」


法的な反撃条件(自衛隊法第95条 武器等防護)が、完全に満たされた。

 『あさひ』の艦長はゴクリと唾を飲み、震えを帯びた手でマイクを握りしめ、魂を絞り出すように命じた。


「我々の海だ。……主砲、ッてッ!!」


その号令と共に放たれた127ミリ単装速射砲の轟音は、某国の駆逐艦を正確に打ち抜くと同時に、日本が真の意味で自らの「牙」を取り戻した歴史的な号砲となった。


「命中! 敵駆逐艦、大破! 某国艦隊、完全に統制を失っています!」


『あさひ』のブリッジに、安堵と誇りの入り混じった声が響く。艦長は、一発も撃たずにこの「お膳立て」を整えたS.O.D.U.の冷徹な計算と、国への想いに深く息を吐いた。


「追撃はしない。我々は法理に基づき、必要最小限の実力を行使した。……あとは、彼らに任せよう」


艦長が空を見上げた、その時だった。


「……!? 上空、雲の隙間に、異形の影!」


オペレーターが叫ぶ。

 海自の防空レーダーには一切の反応はない。しかし、月明かりを背にして現れたのは、漆黒の三角形――S.O.D.U.所属、艦上戦術爆撃機 AX‐X01『流星りゅうせい』。

 さらにその背後には、誰もその実体を知らない、巨大な全翼機(UFO)のようなもう一つの影が這っていた。それは、空母以外でも運用可能なS.O.D.U.の「真の空の支配者」の姿であった。


『――我々の空に、“聖域”などないと教えてやれ』


冷酷な号令と共に、上空の二機から一斉に20発を超える空対艦ミサイルがばら撒かれた。


「ば、馬鹿な……空からも、死神が……ッ!」


某国の司令官は、絶望の叫びを上げた。

 海からは9隻の単縦陣、空からは見えない暗殺者。

 圧倒的なオーパーツ技術による波状攻撃を前に、某国の大艦隊は回避行動すら取れず、連続する大爆発に飲み込まれていく。


わずか数十分。侵攻の野望に燃えていた某国艦隊は、一隻残らず航行不能となり、ただ炎を上げる鉄屑として波間に漂うこととなった。


「――我々に背中を向けるなら、追いはしません。ですが、次にこの線を越えれば、次はソナー音を聞く前に海の底へ送りますよ」


S.O.D.U.の冷酷な通告が、某国のみならず、全世界に向けて放たれた。

 太平洋でアメリカを黙らせた『北斗打撃群』は、日本近海においても、誰にも破れない「絶対の盾と矛」として君臨し、その底知れぬ力を世界に思い知らさせたのである。

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