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暁の咆哮 ─ 鋼鉄の浮き島と垂直の翼

2026年3月。まだ夜明け前の冷たく湿った空気が、港全体を薄い霧で包み込んでいた。


 S.O.D.U. 北斗打撃群が母港とする某港。そのコンクリートの岸壁と一般道を隔てる高いフェンス越しに、異様な熱気を帯びた数十人の集団が陣取っていた。

 彼らの手には、一様に巨大な望遠レンズを取り付けた一眼レフカメラが握られている。


「本当に出るのか?」

「間違いない。昨晩のSNSで『こうようの甲板にF-35Bが並んでる』って写真付きのタレコミがあったんだ」


 ルートは完全な非公開。だが、「航空自衛隊と海上自衛隊の統合運用試験として、F-35B戦闘機が原子力空母に載るらしい」という噂は、耳聡いマニアたちの間で瞬く間に広がっていた。

 さらに、その噂を聞きつけた近隣の住民たちも、「あの巨大な空母が動くところを一目見たい」と、眠い目をこすりながらゾロゾロと集まり始めている。


 午前6時ちょうど。

 静まり返った港に、鋭く、そしてどこか哀愁を帯びた「出港ラッパ」の旋律が鳴り響いた。


「鳴ったぞ……! 出るぞ!」


 シャッター音がけたたましく鳴り響く中、朝靄を切り裂くように、全長333メートルを誇る巨大な鋼鉄の城が動き出した。


 原子力空母『CVN-00 こうよう』。

 10万トンを超える巨体であるにも関わらず、その動きは不気味なほど滑らかで、波を立てることなく港を滑り出していく。その飛行甲板には、ステルス特有の滑らかなシルエットを持つF-35Bが、羽を休める猛禽類のように静かに並んでいた。



 数時間後。


『こうよう』は、何事もなく広大な太平洋上の演習海域へと到達していた。

 見渡す限りの水平線。空はすっかりと晴れ渡り、海風が広大な飛行甲板を吹き抜けている。


 艦橋の航空管制所から、発艦の指示が下された。


『フライトデッキ、クリア。VTOL(垂直離陸)モード、発艦用意』


 甲板の中央に引き出された1機のF-35B。

 パイロットがスロットルを押し込むと、機体に搭載されたF-35Bターボファンエンジンが、空気を切り裂くような甲高い金属音を響かせ始めた。


 ――キィィィィン……!


 その直後、機体の背中、コクピットのすぐ後ろにある巨大なドアがパカッと左右に開き、内蔵された「リフトファン」が姿を現す。

 同時に、機体後部のメインエンジン・ノズルが、まるで生き物の関節のようにうねりと動き、真下である90度の角度へと折れ曲がった。

 エンジンの回転数が跳ね上がる。

 次の瞬間、大気を震わせる暴力的な轟音が、太平洋の海原に轟いた。



 ――ゴアァァァァァァッッ!!


 機体下部から噴き出される数千度もの超高温のジェットブラストが、特殊な耐熱コーティングが施された『こうよう』の飛行甲板に激突し、周囲の景色をぐにゃりと歪めるほどの強烈な陽炎を生み出す。

 甲板作業員たちは、身体ごと吹き飛ばされそうな熱風と爆音に耐えながら、低い姿勢で機体を見守っていた。

 前方のリフトファンと、後方の偏向ノズル。そして両翼の下から噴き出すロールポストの姿勢制御。

 絶妙な推力バランスによって、約20トンもの重さを持つステルス戦闘機が、見えない糸に引っ張られるかのように、重力に逆らってフワリと垂直に浮き上がった。

 轟音はさらに腹の底を揺らすような重低音へと変わる。


 F-35Bは甲板から数十メートルの高さまで垂直に上昇すると、空中でピタリとホバリングした。

 その姿は、まさに空を支配する新たな王の誕生だった。

 直後、真下を向いていた後部ノズルがゆっくりと水平方向へと戻っていく。

 強烈な推進力を後方へと向けたF-35Bは、空気を引き裂く轟音を置き去りにしながら、太平洋の青い空へと弾丸のように加速していった。

「原子力空母 CVN-00『こうよう』」にF-35B 短距離離陸・垂直着陸型を載せ、離着陸訓練を行いました。

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