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RIVER-SIDE-CAFE   作者: 麗 未生(うるう みお)


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第24話 不慮の再会

彷徨い続ける魂――(和孝の場合)

(旨そうな香りだ…)


コーヒーの匂いにつられて、ついふらふらとこのカフェに立ち寄ってしまった。

 マスター1人でやっている店のようだが、本格的なサイフォンや、並べてあるコーヒー豆が、マスターのコーヒーの知識の高さを物語っている。


 私は無類のコーヒー好きだ。


 このカフェは、私の家からさほど遠くない場所にあるように思えるが、今まで全く気付かなかった。まあ、ここは通勤路とは少し離れている。私は基本的に寄り道をしたり、わき道にそれたりということは、ほとんどしない人間だ。だから気付かなかったのかもしれない。今となっては、なんと惜しいことをしたのだろうと思う。この香りからすると、ここのコーヒーは相当旨いはずだ。でも今の私には、それを味わう術はない。なぜなら私は、既に死んでいるからだ。こうして匂いを感じることはできるのに、それを味わえないというのは案外つらいものだ。


 私の人生は、概ね悪いものではなかった。子どもが3人、孫が五人いた。ただ、私はこの世を去る3年前に脳梗塞を患い、右半身不随というハンデを背負ってしまい、介護生活を余儀なくされた。妻と私は、取り立てて問題のない夫婦だったとは思うが、介護となると妻がどう出るのか、多少不安もあった。横暴というほどではなかったと思うが、私はどちらかというと亭主関白だった。そんな私の介護を、果たして妻が嫌がらずにしてくれるのだろうかという懸念は拭えなかった。


 でも案外、妻は嫌な顔一つせず、私の介護をしてくれた。少し意外に思ったが、妻の存在を改めてありがたく思った。そんな妻が、私は時々、別の誰かに見えることがあった。それが誰なのか、はっきりしない。生前の記憶がぼやけているというよりは、脳梗塞を患ってから、私の記憶はどこか曖昧になっていたように思う。


 そして時々、とても嫌な気分になることがあった。何かあったのだろうか。そこのところがはっきりしないが、私の人生にさほど変わった出来事があったとは思いにくい。仕事も家庭も、ほぼ波風を立てることなく送った人生だ。それなのに、私はなぜ、今も成仏せずにこの現世(うつしよ)を彷徨っているのだろう。この世にそれほどの未練があるとも思えない。息子たちも成長し、今はそれぞれ家庭を持ち、一人前になっている。妻も私がいなくなったからといって、生活に困ることはないはずだ。


 私は生きているとき、幽霊というものをほとんど信じたことがない。それは私には、あまりにも非現実的なものに思えたからだ。でも、仮にそういうものが存在するとすれば、それらはきっと、この世に大きな未練、もしくは後悔があるのではないかと思っていた。しかし私には、その心当たりがない。なのにどうしてなのだろう。どうして私は幽霊になって、この世を彷徨っているのだ。


 もしかして実際には、死んだ人間はみんなこうして、生きている人間の中に混ざるようにして存在しているのだろうか。考えてみれば、あの世とか天国とか地獄とかも、所詮は生きている人間が生み出した想像の産物にすぎないのだから。自分が死んでみないと、死後どうなるかなんて分からない。


 ということは、私はこのままずっとこうしている、ということなのか。時間の流れはあまり分からなくなったが、1度死んだということは、2度と死ねないということなのだから、このまま永遠に彷徨うということなのか?それは、あまりにも途方もない時間のように思える。


(あ…!?)


あそこに座っているのは、妻ではないか?あいつがコーヒーを好むというのは一度も聞いたことがない。挽きたての豆の味も、インスタントとの違いも分からないほどなのだから。とはいえ、こうして一人で好きな時間を楽しめるというのは、良いことだ。でもまさか、こんなところで妻に会うとは予想外だった。


 そんなことを考えながら何気なく妻を見ていたら、不意に悪寒が走った。既に死んでいるのに悪寒が走るというのも、おかしな話だ。暑さも寒さも、とっくに感じない体になっているのに。振り返ると、そこに新たな訪問者がいた。どうやら私と同類のようだが…中学生くらいの男の子と、その背に乗っている女性――。二人とも血塗れだ。


(ウワッ!)


思わず声を上げそうになったが、死んでからこういうことは何度かある。彼らもこの世の者ではない。彷徨える魂だ。


 でも、どうしてあんなふうに、あの女性はこの子に乗っかっているのだろう?そして私は、この女性を知っている、と思った。女性は私と目が合うと、穴が開くほど私の顔をじっと見た。そして私は、思い出した。


(この女性は…)


私が殺してしまった女性だ――。



                              終


お読みいただきありがとうございます。

こちらのお話しは第16話「消えない光景」、第22話「私を殺した男」と繋がっています。

また第2庭「曖昧な記憶」、第6話「離れられない」、第17話「止まったままの時間」と関連があります。


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今後ともよろしくお願いします。

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