注目の的
叙勲式が終わると、会場を移していよいよ舞踏会が始まる。舞踏会場に移動する間、オーウェンは瞬く間に多くの人達に囲まれた。
「君が…いや貴殿がオーウェン殿か!学院を飛び級で卒業したと聞いている、我が国に一度遊びに来t…」
「オーウェン様ァ、初めまして♡私、オーズィラ国のォ…」
「待ちなさいよ、アタシが先にオーウェン様に話しかけていたのよ!ねぇ、オーウェン様!」
「いい加減にしないか!オーウェン殿が困っているだろう?オーウェン殿、あちらの席でゆっくり話をしよう。ちょうど今、私の娘達も来ていてね。親の私が言うのもなんだが、とても気が利く美人な娘達でな…」
などと、周囲を囲んだ人々がオーウェンに群がっている様を見てナサニエルが言う。
「とんでもない人気だな、大丈夫かアイツ…」
「あんなに女の子達に胸を当てられてる姿をシャルちゃん達が見たら卒倒するわ」
ケイトがケラケラと笑う側で、コリンは「羨ましくなんかない…羨ましくなんかない…」と頭を抱えながら呟いていた。
ナサニエルの心配とは裏腹にオーウェンは一人ずつに丁寧に対応していた。
(無下にしては面倒事が増えそうだからな…我慢だ)
そんなオーウェンの思いを余所に、人の群れはどんどんと増えていく。オーウェンが舞踏会場に着く頃には後ろに行列が出来、オーウェンと話をする順番待ちをする者達まで居た。その時である。
「騒がしいな。我が国の王女殿下が、かの勇敢な若者に会いたいと申しているのに」
ブルートがそう言うと群衆が自ずと道を空ける。
「おぉ、皆の心遣い感謝しますぞ。オーウェン、我が名は…」
「ブルート・ブルイン・フォン・フェルゼン様ですね、存じ上げております」
「ハハハ、抜け目がないな。流石はアウグストの息子といったところか。こちらが我がブルイン国王女ドロシー様である」
ブルートの側で顔を赤らめながらこちらを見つめる少女を見て、オーウェンは最敬礼の姿勢をとる。
「お初にお目にかかります、ドロシー王女殿下。私はオーウェン・モンタギューと申します」
「…ドロシー・ブルイン…フォン・フェルゼン…です…。よ…宜しく」
すると、ブルートが大袈裟な様子でドロシーを気遣うように言った。
「おやおや、どうやら我らが王女殿下はまだ緊張されているようだ。リラックスして頂くためにも、オーウェン、ドロシー様と踊ってくれるな?」
「…わ、ワタシは…」と言いかけたドロシーにオーウェンが手を差し出す。
「もちろんです。ブルート様に言って頂けなければ、こちらからお願いさせて頂くつもりでした」
その言葉を聞いてドロシーは顔を真っ赤にし、無言のままオーウェンの手をとった。オーウェンが優しく手を引いて舞踏スペースまで誘導していく、周囲の女性達は嘆息しながら2人を見送った。
ーーーーーー
「ワタシ…あまりダンスは…得意じゃないのです…」
「そうでしたか、急にお誘いして申し訳ありません」
「い、いえッ…誘っていただいたのは…嬉しかった…です…」
「私がリード致します、簡単なステップですよ。踊りながらでもお話しできませんか?」
「オーウェン様が…そう言う…なら」
「オーウェンで構いませんよ、ドロシー様」
そう言うと、オーウェンはドロシーの腰をグッと引き寄せる。猫背になっていたドロシーが真っ直ぐの姿勢になると、それまでもかなり目立っていた大きな胸がより強調された。
「足下に意識が向かいがちですが、上半身が堂々とする事でより美しく見えるものですよ」
「オーウェン…この体勢は…は、恥ずかしいです。ワタシ、胸が大きい…から…」
「美しさを隠す花が何処にありましょう?堂々とすれば良いのですよ、ドロシー様」
そう言うと、オーウェンがドロシーを上手にリードし会場を広く使って踊りを披露する。最初は恥じらっていたドロシーも徐々に笑顔が多くなり、曲の終わり頃にはオーウェンに自然に身体を預けていた。
「こんなに楽しい気持ちになれたのは久しぶりです」
「喜んで頂けて光栄です、ドロシー様」
「…もう一曲だけ…踊って頂けないかしら…」
「はい、喜んで」
そう言うと、オーウェンとドロシーは色々と話しながらそのまま次の曲も踊り続けた。
ーーーーーー
一方、ナサニエル達は椅子に腰掛けながら、オーウェン達のダンスを見ていた。
「…アイツ、マジ出来ないこと無いんじゃねぇか?」
「いいなぁ、あんな風にリードされたら気持ちいいだろうなぁ」
「ブルイン王国の王女様ってあんなに綺麗な人だったんだね、ウチらと同い年くらいかな?」
などと話をしていると、オーウェンをジーッと見つめていたオードリーがポツリと呟いた。
「ってか、オーウェンてあんなに人付き合い良かったっけ?ずっとニコニコしてるけど」
ケイトが確認するようにオーウェンをジッと見つめて言う。
「そりゃあ…大きいオッパイよ」
側で聴いてたナサニエルが飲んでいた水をブッと鼻から吹く。オードリーが水飛沫を華麗に避けながらケイトに聞き返した。
「え?オーウェンってオッパイ好きだったの?」
「オーウェンに限らず、男はオッパイが好きなのよ!さっき囲まれていた時に機嫌よかったのもオッパイのせいよ!」
「オッパイオッパイ連呼すな!周りに聞こえるだろ?」
とナサニエルが小声で注意すると、ケイトがニヤニヤしながら言った。
「…ナサニエルだってぇー、オッパイ好きだよねぇー。ビーちゃんの胸、いっつも観てるもんねぇー?」
「はぁッ?い、いつもじゃねぇし」
「ププッ。観てる事否定しないんだぁ、このむっつりス・ケ・ベッ♡」
などと揶揄っている側でオードリーが自分の胸を持ち上げながら「そっかぁ、オーウェンも大きい方が好きなのかぁ」などと呟いている。
すると、その後ろから急に声が聞こえた。
「…誰が何を好きですって?」
「だーかーら、オーウェンが大きなオッパイが凄く好きって…」
と言いながらケイトが振り返ると、そこにはこれまでに見た事ないほど怒りで顔を真っ赤にしたシャルロッテとイザベル、そして呆れ顔で胸を隠すような姿勢を取るベアトリスがいた。
「しゃ、シャルちゃんッ!?ベルちゃんッ!?」
「オーウェン様ってぇ…大きいオッパイがぁ、好きだったんですねぇ?」
「私達だって…あんなには大きくは有りませんが、平均に比べればかなり大きい部類に入りますッ…なのに、オーウェン様ったら」
シャルロッテ達の怒りを抑えようとナサニエルがフォローに入る。
「ち、違うって!それはオーウェンが好きって言ってたんじゃなくて、コイツらが勝手に…」
と言うナサニエルにベアトリスがズンズンと近寄って来る。
「…見てたんでしょ?」
「…は?」
「ワタクシの胸、見てたんでしょ?」
「な、なんで急にそういう話になんのッ?」
「答えなさいよッ!ワタクシのオッパイ、見てたんでしょッ!?」
ベアトリスがナサニエルの顔を覗き込もうと膝に手をついた結果、谷間が更に強調される。ナサニエルが顔を真っ赤にしながら言った。
「そりゃあ…ちょっとは…」
「やっぱり見てるんじゃない!」
そのやりとりを聞いていたシャルロッテとイザベルの目から光が消える。
「…って事は、やっぱりオーウェン様もオッパイ好きなんですわ」
「あんなにぃ、露骨にぃ、喜んじゃってぇ…許せませんわぁ」
イザベルのおっとりした口調が不気味さを更に助長する。その底が見えない怒りを見てナサニエルはこれ以上話す事をやめた。
(誤解を解くのはおろか下手すりゃこっちがやられるッ…すまん、オーウェン!)
十数メートル後ろで、そんなやり取りがされているとはいざ知らず、オーウェンはドロシーと踊っていた。途中首筋に冷たい何かを感じる。
「…?」
「オーウェン…どうかしたのです?」
「いえ、何か変な気配を感じたのですが…」
「ウフフ、貴方は…注目の的ですから。色々お話したいと思っている…女性の視線かも…ですね」
「…なんかそう言う感じではないような…」
(…どちらかと言うと、殺気に近い様なものだったんだが…)
オーウェンがこの気配の正体に気付くまではもう少し時間を要するのであった。
続くー




