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初めての…

あの転生から6年…かつては『鬼神 呂布』と恐れられたオーウェンも、今では子供らしい仕草を見せている。努めて意識することもあるが、何よりこの世界で体験することは何もかもが新鮮なのである。


まず、父母の容姿に驚いた。ひと目でわかる美形。そして、先の尖った耳。(まご)うことなき、エルフである。

(…美形とは聞いていたが、まさかこれ程とは。男女関係なく美しい)


父アウグスト・モンタギューは聖アールヴズ連合国に存在する7つの騎士団の一つ、『(くれない)(おおとり)』騎士団長である。モンタギュー侯爵家に生まれながらその地位に胡座(あぐら)をかかず鍛錬と研鑽を怠らなかった結果、数ある連合国騎士団の一角を務めるほどとなった。緋色の髪とエルフの中でも突出した弓術の腕前から、<鮮血の剛弓>の異名を持つと聞き及んでいる。


母エレノア・モンタギューは名の通り、光のように明るい性格だ。同格の侯爵家の出身で育ちが良く、真っ直ぐで天真爛漫な性格ゆえに誰からも好かれるような人だった。また人柄だけでなく銀髪と際立つ美貌は、他国では「7大宝石のダイヤモンド」と評されている。因みに「7大宝石」とは主に人族で構成される国々で行なわれる他薦のコンテストであり、当人達は気にもしていないが各国の男性達には根強い人気があり、聖アールヴズ連合国においても酒屋で話すネタとしてはテッパンである。


そして、オーウェンは…これまた、とんでもない美形だった。

(…前世でも割と端正な顔立ちをしていたと自負しているが、今と比べれば雲泥の差だな)


加えて生まれてから一度も髪を切った事がないため、城下に出ると女児に間違われるなんてことは良くある事だった。一度髪を切りたいと言ったこともあったが、両親の猛反対を受けたため断念した。なんでもエルフの髪には魔力が宿っており、特に貴族においては重要な書類(親書や司令書など)の差出人証明のために添付したりするため、無闇に切ってはいけないとのことだ。後ろで(まと)めておく分には問題ないとの事で、普段はポニーテールのように結んでいた。


しかし、最も特筆するべきはその髪色であろう。


ーーー余談だが、一般的にエルフの髪色は森林地帯における保護色の緑である。しかし時々、黒髪の子供が生まれる。黒髪は珍しい方ではあるが、緋色や銀色ほど希少というわけでは無い。せいぜい500人に1人くらいといった所だろうか。髪色の濃淡は身体能力と魔力のバランスに関係していることが多く、一般的に色が濃くなればなるほど身体能力が高くなり、淡くなればなるほど魔力が高い傾向にあった。中でも黒髪のエルフ達は魔力量が他と比べて著名に低い代わりに、身体能力がズバ抜けて高く騎士団員にも黒髪は何人かいた。しかし魔力量の低さから防御魔法が使えず、戦闘でも不利な事が多いため実際には騎士団員として採用されなかったり、例えなれたとしても早くに命を落としてしまうケースが多かった。理由は単純で、エルフの戦場は基本的に草原や森であり戦闘方法も遠距離からの弓の打ち合いが主であり、黒は目立って狙われやすいのだ。そのため黒髪の多くは農民などの非戦闘職として長い一生を終わらせるか、あるいは暗殺部隊などの汚れ仕事に従事するのが常だった。(ゆえ)に黒髪は希少ではあるが、歓迎されない特殊色であった。因みに緋色や銀色などの特殊色は、長いエルフの歴史の中でオーウェンの両親を含めて十数人に限ったものである。その能力値は個体数の少なさから不明な点が多いが、学者達の仮説では身体能力や魔力に加えて精霊などの何かしらの加護が備わっている可能性が高いとされてきた。ーーー


話を戻そう。オーウェンの髪は黒髪である。しかし、これまで確認された普通の黒では無かった。確かに一本一本は黒いだけに見えるのだが、(まと)めてみるとその辺縁が鈍く青く光ってまるで金属のように見えるのである。当初、黒髪である事に父アウグストは幾分か肩を落としたようだが、その後母エレノアから暗闇でも鈍く光る髪の報告を受けると、連合国中から高名な学者達を急ぎ呼び集めて検証させた。結果は、『普通の黒髪とは異なるが、現時点では能力の高さを判定できない」という酷く無難な解答だったが、父は判定出来ないのなら手当たり次第させてみればよいと、オーウェンが3歳になると歴史や魔術等の座学から武術に至るまで、あらゆる家庭教師を付けた。そのためオーウェンにとっては毎日が未知との出会いの連続だったのである。


そして6歳を迎え、全ての教育課程が修了した。文字通り、()()である。6歳にして最高等学院卒業レベルの知識を持ち、魔法においても実践はしていないが、知識として基礎や応用のみならず難関術式の理論まで理解しており家庭教師が半ば自暴自棄になるほどである。オーウェン自身、自分の記憶力や読解力の異常な高さに驚いていた。何しろ、書物は一度目を通せば(そら)んじることが出来たし、一度会った者の顔と名前だけでなく年齢、住所に加え聞きかじった家族構成すら覚えることなど造作ないのである。オーウェンは、「これが異世界定番のチートってヤツなのか」などと考えていたが、ゼウスから与えられたものは間違いなく『屈強で健康的な肉体のみ』であった。


では、この英知の源は何なのか。

答えは至極単純。この男、天界で『知恵の実』と呼ばれる林檎をたらふく喰ったからである。この林檎、(じつ)は『1つ食べれば今を知り、2つ食べれば過去を知り、3つ食べれば未来を知る』とすら評される代物(しろもの)である。あのアダムとイブですら口にした林檎は二人で1個だが、オーウェンはそれを(じつ)に200個近く食べている。加えて、転生前から学ぶことには非常に貪欲であったため、珪藻土マット並みに次から次へと知識を吸収していったのである。


斯くして、アウグストの当初の心配は杞憂に終わった。だが、オーウェンの非凡さはアウグストに新たな悩みを植えつけた。というのも、モンタギュー家に出入りしていた家庭教師から、オーウェンの非凡っぷりが公爵家や王家の耳にうっかり届いてしまったのである。アウグストは慌てて領内に緘口令(かんこうれい)を敷いたが、急に情報が途絶えたことがかえって逆効果となり、余計に興味を持たれてしまった。そしてオーウェンを直接見定めるために王家や公爵家の者達が、()()同士の社交界へ参加すると言い出したのである。


通常、格下の貴族が格上の貴族を自身の社交界に招待するのは失礼にあたり、また格上の貴族にとっても格下の社交界は実りが少ないため、例え誘われても断るのが当たり前である。そのため、当然このような事は前例がない。それに、万が一粗相があった場合は、格上のメンツを守るためのあれやこれやと煩わしい事が予想されるため、本来はお互いに忌避すべきなのである。しかし、今回は公爵家や王家からその申し出があった。


つまり「我々にとって実りのある宴を準備せよ」…こういう事である。


(…公爵家や王家の面々(めんめん)を満足させられるほどの調度品はおろか、食事も酒もない。もし仮にそれらを揃えられたとしても、その翌日からは1日パン一個の生活が数年続く事となる。どうすれば…ッ!?)


こうしてオーウェンが初めての体験に胸を躍らせているなか、アウグストは初めての事案に胸を痛める事となった。

徐々にオーウェンさんの周囲にも目を向けています。お付き合い頂ければ幸いです。


少しでも面白いと思っていただけたらブックマークして頂きたいです、ヤル気に繋がります!

投稿は大体週1程度にしていますが、執筆は先まで頑張っています。

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