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転がりぼっちゃん〜もふもふと『転がり』ですべて解決する!〜  作者: 葉月クロル


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第1話 転がっちゃいました

のんびりまったり、だけど危険な異世界の冒険です。

よろしくお願いします!

 僕は……俺は?

 前世では俺って言っていた気がするけれど、まだ赤ん坊未満の存在だから『僕』でいいかな。

 僕は今、柔らかな光に満ちた世界にいる。

 たくさんの丸い光がふわふわと浮かびながら、生まれ変わりの手続きにやって来ている。僕もその中のひとつだ。


 そう、ここはいわゆる死後の世界なんだよね。

 天界って呼ばれているらしい。


 人生の振り返りが終わって綺麗に洗われた魂は、この世界でしばらくゆっくりと過ごしてもいいし、新たな修行の旅に出発してもいい。選択は自由だ。

 ただし、ここには娯楽施設はない。食事や睡眠も必要がないためリゾートホテルもない。テレビもネットもないし、他の魂とおしゃべりする以外には、楽しいことがほとんどないため、すぐに次の生に向かう人が多い。


 生きることってとっても刺激的なんだと、ここに来てわかった。


「お疲れ様です。次の人生のお名前は『コロン』さんでよろしいですか?」


「はい、コロンです」


 なんとなく、インスピレーションのままに選んだ新しい僕の名前は『コロン』だ。


「……はい、確認できました。コロンさん、この度は新たなご誕生おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 頭を下げようとして……球体のままだとできないことに気づいた。僕は「ちょっと待ってくださいね」と言ってから光る身体をもぞもぞさせて、頭、胴体、そして手足を形作る。


「できた!」


「大変お上手でございます」


 僕が改めてお辞儀をすると、光るお姉さんが頭を撫でてくれて、それに驚いた僕はまたいろんな色に光る玉に戻ってしまった。


「ふふふ。それでは、こちらでお名前を呼ばれるのをお待ちくださいね」


「はい、お世話をしてくださってありがとうございます」


 僕はもぞもぞと人型になりながら、引率してくれた白い服を着た身体が光るお姉さん(天界の転生管理人補佐、というお仕事をしている人だそうだ)にお礼を言った。ここの人(なのかな?)たちはみんないい人ばかりだし、魂もよく磨かれて綺麗だからいい魂ばかりだ。


 手続きを終えた僕たちは指示された場所……円形に窪んだ場所に寄り、人型をキープしたままそこにすっぽりとはまって順番を待つことにする。


 魂だけになった今の僕には身体はない。魂は、ふわふわと漂う大きめの光の塊なのだ。がんばればこうして好きな形になることもできるけど、玉でいるのが一番楽みたいで、気を抜くとまん丸になっている。

 僕の色は南の海のような水色……オーシャンブルーって言ったかな? それと、桜の花びらのような薄いピンク色、さらにひよこみたいな黄色でできていてとても綺麗なんだよ。目がなくても見えるのが不思議だね。


 他の人もリラックスしているらしく、いろんな色の光の玉が浮かんで漂い、光る人になって窪みにはまっている。カラフルな魂を見ているだけで楽しい気分になってくる。

 お姉さんたちのようにここで働いている人たちは、安定した人の形をしているし、服を着ているからすぐにわかる。


 僕たち魂は皆、生まれ変わることを選んでここに来ている。

 綺麗な光のシャワーを浴びたり水の中を漂ったりして、様々な経験の記憶を『神』とか『集合意識』とか『マスター』とか、呼び方はいろいろあるけれど、世界の中心にある大切なものに転写してある。

 転生の準備をしたから前世でどんな人生を送ったのかはもうあまり覚えていないけれど、自我だけは残っているから自分というものは持っている。


 さっき、僕は『コロン』という新しい名前をつけて、一般的な常識を記憶として入れてもらった。

 記憶の方は、どんな世界に生まれ変わるのかを選ぶための一時的なものなので、もう一度赤ん坊として生まれる時には消されるらしい。洗いたてのシーツみたいに真っ白でピンと張った、素敵な人生を送るために生まれ変わるのだ。


「次はどんな世界に行くのかな? 楽しみだな」


 いわゆる『現実世界』というものは、この天界とは違ってたくさんの縛りがあり、そこで様々な経験をすることによって魂に力が貯まる。

 つまり、成長するための場所なのだ。


 僕がワクワクしながら(のんびりしてたらまた球になっちゃったよ)少し高く浮かび上がると、隣に巨大なすり鉢状の穴があるのが見えた。僕たちはひとりずつここを降りて行き、途中にたくさんある門のどれかに入るのだ。


 転生先はもう決まっているから、係のお兄さんお姉さんがどこに入ればいいのかを教えてくれる。間違えないように門まで手を繋いで行ってくれるから安心だ。門をくぐると、すべての記憶がなくなって次の人生が始まるとのことだ……あ、今、準備が終わった魂がひとつ、門に入っていった。

 どんな世界に行くんだろうね。良い人生を送れますように!


 ちなみに、すり鉢の一番下まで行ってしまうと、そこから落っこちて『ナラク』と呼ばれる不思議な世界に行ってしまうそうだ。


 人の想像から生まれたというその世界には、恐ろしい魔物がいるし、他の世界にはない魔法なんてものまであって、様々な特性を持つ不思議な人種が多く生活していると、お兄さんのひとりが話してくれた。

 ナラクの世界は文明もあまり進んでいないから、エネルギーがたっぷりあってスリリングで面白いらしいんだけど、そこに行くと運命が波瀾万丈になり過ぎるので、選ぶ人が少ない人生らしい。

 もしもそこに行くなら、魔法使いとか剣士とかの特別な才能を持つ人になって、その上から神様に加護もつけてもらうなどの入念な準備がいると説明をされた。


 でも、生きるのが困難な代わりに経験値も高いし、不思議な世界で冒険をしたいと言って、あえてそこを選ぶ魂もいる。

 好む人にはめっちゃ面白いんだそうだ。

 ちなみに、僕にも行くかどうかを聞かれたけれど、剣を手にしての戦いとかとてもじゃないけど無理だと思ってお断りした。

 いつかは行ってみたいと思うけど、今の僕じゃあまだ駄目だろうな。


「懸命な判断だと思いますよ。でも、あと十回くらい生まれ変わってからなら大丈夫かもしれません」


 転生先の相談に乗ってくれたお兄さんは、肩をすくめながらナラクに向かった人たちのことを話して「うっかり選んだら大変な世界ですよ。今はまだ行かないようにね。本当に危ないのです」と言っていた。

 でも、正直言って剣と魔法で人生を切り開くなんて、『選ばれし者』の転生先っぽくってちょっぴりカッコいいと思う。ものすごく興味があるし、内心では冒険に憧れているけれど、お姉さんの言う通り、僕みたいな経験が足りない魂が行くにはハードルが高すぎることもわかっている。


 僕の次の転生先は、文明が進んでいてあまり厳しい課題がないところなんだ。そこで新しい物語を作ったり歌を歌ったりして、芸術を広める役割を果たす人生が楽しいよって言われたんだ。

 芸術家か……絵を描くのも楽しそうでいいな。

 胸躍る冒険はできなさそうだけどね。


 記憶がはっきりしないけど、おそらく前世の僕は運動があまり得意ではなかったみたいだ。だから、転生先に不満はないんだけど……ナラクの世界にはロマンを感じるね。そのロマンを芸術に昇華させるように言われているから、余計に魅力を感じちゃうのかもしれないな。

 ということでいつか、僕の魂の力が大きくなったらナラクに転生したいと思う。


 そうしてぼんやりと漂っていたら、動物の鳴き声が聞こえた。きょーん、という聞いたことのない鳴き声だ。


「あっ、子狐がいる。可愛いなあ」


 すり鉢の鉢を、小さな狐の子がきょんきょん鳴きながら走っている。鼻の先と尻尾が焦げ茶色であとは薄い茶色の毛並みの、とっても可愛い子だ。

 その後ろから「お待ちなさい、危ないからお待ちなさいってば」と言いながら、光る人たちがわらわらと追いかけて来た。


「いたずらっ子な狐だな。薄茶色のモッフモフで、撫でたら最高に気持ちがよさそう……あっ、危ない!」


 子狐が脚を滑らせて、すり鉢の中をコロコロと転がっていく。


「ナラクに落ちたら大変だよ」


 僕は子狐を助けるために人型になり、すり鉢の中に飛び込んで、そのまま脚を滑らした。


「わあ!」


 魂になってもやっぱり運動は苦手だったよ!

 そのままものすごい勢いで転がりながら、僕は子狐の所まで行き着いた。可愛い狐はまん丸の目で僕を見ると、嬉しそうに「きょん!」と鳴き、僕の胸に飛び込んできたので、僕たちは一緒に転がった。


「大変です、コロンさんがコロンコロンしてる!」


「転生が始まってしまいましたね、もう止められないから、ナラクで生き残るための早く加護を付けなくてはなりません」


「加護を、加護を、ええと、コロンコロン転がってるから」


「『転がり』!」


「訳のわからないのを付けてはいけません、もっと役に立ちそうなのを」


「『すごい転がり』!」


「そうじゃなくてですね」


「ええと、ええと、じゃあ『幸運』!」


「いいですね。それではもうひとつ、『人脈』!」


「コロンさんを営業マンにでもさせるつもりなのですか?」


「いや、人脈は大事ですよね。あとは、『言語の習得』」


「それは大事です。さらに、『元気』で『健康』!」


「ふわっとしてませんか?」


「『ふわっと身軽』!」


「そうじゃなくて鑑定スキルとか役に立つものを、ああっ、もう間に合わないです」


「コロンさん、『役に立つアレ!』、受け取ってーっ!」


「アレってなによ?」


「おでかけセットかな?」


「服を着せてあげてーっ!」


「どこに落ちるかわからないから、成長補正もつけましょう」


 お兄さんお姉さんが投げるいくつかの光が僕に吸い込まれて、子狐を抱いたまま、僕はすり鉢の底にある黒い穴に落ちていった。

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