第30話 帝都ハイウェイの死闘(前編)
「ミコ、奴は首都高4号線から都心環状線へ入った! 霞が関出口まで残り五キロ……時間がない!」
秋葉原の地下要塞で、ロキは額に汗を滲ませながらキーボードを叩き続けていた。
彼の目の前にある巨大モニターには、首都高速道路の全監視カメラの映像と、トラフィックを制御するデジタルマップが展開されている。
『道は俺がこじ開ける! 制限速度のタガを外せ!』
ロキの指先がシステムを掌握し、ミコが走るルート上の電光掲示板に「緊急車両接近・車線変更せよ」という偽の警告を乱れ打ちにする。同時に、料金所のETCゲートを強制的に封鎖し、一般車両の流入を完全にストップさせた。
「恩に着るわ、ロキ!」
スーパーチャージャーを搭載した漆黒の怪物が白昼の首都高を時速250キロを超える猛スピードで駆け抜ける。
強烈な風圧がミコの頬を打ち据えるが、彼女の視線は一直線に前方を見据えていた。
カーブを抜けた先、一般車両を縫うようにして強引に車線を変更し続ける、けたたましいサイレンを鳴らした一台の救急車。
間違いない。スタジアムから逃亡したメギドのリーダー格が運転する、爆弾を積んだ偽装車両だ。
「見つけたわ!」
ミコがアクセルをさらに捻り、一気に距離を詰める。
救急車のバックミラーで黒いバイクの接近に気づいたリーダーの男は、顔を歪めて舌打ちをした。
「あの化け物女……! なぜこんなに早く追いつける!」
男はハンドルを片手で握り、もう片方の手で助手席に置いてあった短機関銃を掴むと、窓から身を乗り出して後方へ銃口を向けた。
ダダダダダッ!!
時速200キロ近い極限のチェイスの中、後続のミコに向けてフルオートの銃弾がばら撒かれる。
火線がアスファルトを削り、ミコのバイクのすぐ横を掠めていった。
「ッ……!」
ミコは車体を右へ左へと限界まで倒し込み、弾道を予測してスラロームで回避する。常人であればわずかなハンドルのブレで即死する速度域だが、古武術で培われた彼女の体幹と動体視力は、バイクという機械すらも己の手足のように完全に支配していた。
『ミコ! 奴が乗っている救急車の後部には、軍用のC4爆薬が数百キロ積まれている! 流れ弾が起爆装置に当たれば、首都高ごと吹き飛ぶぞ!』
「わかっているわ! だから……近接で仕留める!」
ミコは弾幕の隙間を縫い、一気に救急車の右側面へと並び立った。
「死ねェッ! 異教徒!」
男が銃口をミコへ向けようとした、まさにその瞬間。
ミコはバイクのステップから両足を離し、時速200キロで並走するバイクの上で、なんと真っ直ぐに「立ち上がった」のだ。
「なっ……!?」
男が驚愕に目を剥いた時には、すでに遅かった。
ミコはバイクを蹴り台にして、救急車の運転席の窓へと身を躍らせた。
空中で抜刀された小太刀の柄が、男の顔面を窓ガラスごと強烈に打ち砕く。
ガシャァァァンッ!!
「ぐあッ……!」
粉々になった強化ガラスの破片と共に、男が車内へ吹き飛ぶ。
ミコはそのまま窓枠を掴んで運転席へ滑り込み、血まみれになった男の首元に、冷たい小太刀の刃をピタリと突きつけた。
「……ドライブはここまでよ、狂信者」




