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天才ハッカーによる日本独立物語  作者: ロキ
第1章

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第12話 神風の如く(後編)

「ターゲットの部屋に突入する! Go!」

ロキが潜伏していた隠れ家のドアが、CIAの別働隊によって蹴り破られた。

しかし、彼らが踏み込んだ部屋には、すでに破壊されたパソコンの残骸と、開け放たれた窓があるだけだった。

「チィッ! 逃げられたか!」

隊員の一人が窓辺に駆け寄り、下を覗き込もうとした瞬間。窓枠に仕掛けられていた小型の指向性EMP(電磁パルス)手榴弾が炸裂した。

青白いスパークが弾け、別働隊の通信機と暗視ゴーグルがショートして完全に沈黙する。

その隙に、ロキは非常階段を猿のように駆け下りていた。

路地裏に停めてあった細身のオフロードバイクに飛び乗り、エンジンをふかす。排気音を夜の闇に響かせながら、彼は追手の手が届かない入り組んだ帝都の毛細血管のような路地へと姿を消した。

一方、横田基地の地下。

赤色灯が激しく点滅し、「ミサイル着弾まで残り十秒」という無機質なカウントダウンが鳴り響く中、ミコは崩壊する通路を疾風のごとく駆け抜けていた。

『エマージェンシー。第一防爆シャッター、閉鎖します』

前方にある分厚いチタン合金のシャッターが、地響きを立てて上方から降下してくる。隙間は残りわずか一メートル、八十センチ、五十センチ――。

「……甘く見ないで!」

ミコは全速力から一気に姿勢を低くし、冷たい床を滑るようにスライディングした。

背中をシャッターの底辺が掠めるギリギリのタイミングで滑り抜け、見事、地上フロアへの階段へと転がり込む。その直後、背後でズドォォォン! と重い音を立てて地下への道が完全に封鎖された。

地上に出たミコを待っていたのは、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

存在しないミサイルに怯え、迎撃システムも作動しないという絶望の中、米兵たちは車両に飛び乗り、あるいはシェルターへと向かって泣き叫びながら走り回っている。もはや、黒いライダースジャケットを着た一人の東洋人の少女に気を留める者など誰もいなかった。

ミコはその大混乱の波に逆らうように進み、いとも容易く基地の外周フェンスへと到達した。

侵入時と同じくワイヤーを掛け、高圧電流のフェンスを飛び越える。彼女のブーツが日本の、外側の土を蹴った瞬間、基地に響き渡っていたミサイル警報が、ふっつりと途絶えた。

『……エラー。ミサイル情報のロストを確認。警報を解除します』

幻の弾道ミサイルは消え去り、静寂が戻った横田基地。

しかし、彼らが失ったものはあまりにも大きかった。

数時間後。空が白み始め、日本の新しい朝がやってきた。

しかし、この日の朝は、戦後八十年続いてきた「まやかしの平和」の終焉を告げる朝となった。

『……繰り返しお伝えします。未明、国内外の主要メディアや政府機関に対し、日米間の極秘合意と見られる膨大な内部資料が一斉に送信されました』

テレビの全チャンネルが、予定されていた朝のワイドショーやバラエティ番組を吹き飛ばし、血相を変えたアナウンサーによる緊急特番に切り替わっていた。

『資料には、自衛隊の指揮権密約、在日米軍関係者の犯罪揉み消しに関する警察庁への圧力記録、そして……横田空域における日本政府の主権放棄の署名が、生々しい音声データと共に含まれています』

SNSは完全に沸騰していた。

これまで「陰謀論」や「一部の活動家の戯言」として片付けられてきた噂が、最高機密の公文書という逃れようのない形で白日の下に晒されたのだ。

「俺たちはアメリカの植民地だったのかよ!」

「ふざけるな! 今すぐ不平等条約を破棄しろ!」

「総理を出せ! 国を売った連中を全員逮捕しろ!」

怒りの炎は瞬く間に日本中へ燃え広がり、霞が関の国会議事堂前には、夜明けと共に数万人の市民が押し寄せていた。彼らの手には、日の丸が握られている。右も左も関係ない。ただ、「自分たちの国を自分たちの手に取り戻す」という純粋で強烈な意志が、怒号となって帝都の空を震わせていた。

その喧騒から遠く離れた、東京郊外の高台にある古びた神社の境内。

眼下には、朝日を浴びて黄金色に輝く日本の街並みと、遠く横田基地の滑走路が見渡せた。

「……世界が変わる音がするわね」

缶の温かいお茶を両手で包み込みながら、ミコが静かに言った。

徹夜の戦闘の疲労は見えず、その瞳は夜明けの光を反射して力強く輝いている。

「ああ。これで奴らはもう、表立ってこの国を操ることはできない。日本政府も、国民のこの怒りを無視してアメリカに尻尾を振ることは不可能だ」

ロキは神社の鳥居の柱に寄りかかり、満足げに鼻で笑った。

「J-イージスの奪還。中国資本の壊滅。そして、アメリカの支配の証明。……俺たちの『日本独立』は、ついに最初の頂に達した」

だが、二人の顔に油断はない。

追い詰められたアメリカと、利権を奪われた売国奴たちが、このまま大人しく引き下がるはずがないからだ。

「ケインの野郎は、なりふり構わず俺たちを消しに来るだろう。CIAの暗殺部隊が、これからは堂々と日本の街をうろつくことになる」

「望むところよ。神域を荒らす害獣は、一匹残らず私が駆除する」

ミコは腰のタクティカルナイフの柄を軽く叩き、不敵に微笑んだ。

ロキはゆっくりと神社の本殿に向き直り、深く、静かに一礼をした。

天皇陛下が祈りを捧げるこの神聖な大地。先人たちが血の滲む思いで守り抜いてきたこの国を、二度と他国には渡さない。

「さあ、始めようか。本当の『独立戦争』を」

天才ハッカーと古流の巫女。

朝日に照らされた二人の影は、これから始まる壮絶な死闘を予感するように、長く、力強く伸びていた。

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