第105話 怪訝
左前方にストローを加えながら座っている彩葉の目が俺と麗華の距離感を見て徐々に厳しくなっていくのを知らないふりをして妹のルナに話を振る。
「あーそういえばルナ、今日から撮影とか言ってたな。お前、俺や母さんの家族だって事バレたくなかったんじゃないのか?」
俺の質問にルナは一口だけオレンジジュースを飲んで答えた。
「んーそれはそうだけど、別に一緒に撮影する人たちにはバレてないよ。監督や麗華ちゃんは私の事昔から知ってたし、七瀬さんとはお兄ちゃんの誕生日会で知り合ったしね。だから新しく知ったのは桐谷さんくらいだね」
そう言って一瞬桐谷さんに視線を飛ばしたルナ。
桐谷さんもそれに対して少しだけ会釈してストローから自身の汲んできたメロンソーダをちょびちょびと啜っている。
「……なるほどな。まぁルナがそれでいいなら俺も構わないけど……あ、彩葉、もう俺への用は終わったって事でいいのか?」
俺はそこで今日彩葉に呼び出されていた事を思い出し、監督と麗華と会う事で目的は達成したのかを問う。
彩葉はそれに対して少し迷う素振りを見せながらもコクッと頷く。
「まぁ確かに終わったけど……湊に1つ聞きたい事あるんだよぬ」
「え、なんだ?」
俺は唐突に何を聞かれるのだろうと思い、少し身構える。
「別に対したことではないけど……湊って普段の映研の活動でも手を抜いたりしてる?演技する時とか」
俺は彩葉の言葉の意味が分からず首を傾げる。
「いや別に手は抜いてないけど……まぁあまり目立つ役はやらないようにしているが……」
俺の返答を少し訝しむ様子で彩葉は「ふーん」と相槌を打つ。
俺は何をそんなに訝しまれているか分からず頭にクエスチョンマークが浮かび上がる。
「んー実はさ、今日あたし凪さんや麗華さんの生演技を近くで見たわけなんだけど、2人の演技を見る限り2人は異次元であたしにとっては遠くの存在に感じたんだよね」
「あー、そうか」
俺はイマイチ彩葉が何を言いたいのか分からず頷くことしかできない。
「それでさ、そんな凄い2人の演技と比べるとこう言っちゃ悪いけど湊の演技は上手いけどそこまで異次元に感じなかったんだ。だから普段も手を抜いているのかなって思って」
「なるほどな……まぁ俺としては普段手を抜いているつもりはないから安心しろ」
俺が彩葉を安心させる為にそう言葉を発すると俺に体を寄せていた隣の麗華が「ふふっ」と笑ってから言葉を発した。
「湊って相変わらず意地悪だね。彩葉ちゃん、確かに湊は手を抜いてないかもしれない。でもそれはあくまで学生レベルでは手を抜いてないって意味だからね?多分今でも全国放送されるドラマや映画の撮影でカメラの前に立てば私や凪くんじゃ相手にならないんじゃない?」
「……いや流石にそれはないだろ。俺はもう結構な期間演技してなかったわけだし」
俺は流石に凪とかいうヤツはともかく麗華より演技上手いわけはないと思って否定したのだが、麗華はそう思っていないらしく微笑みながら俺の言葉を否定してくる。
「私としてはまだ湊の方が演技上手いと思うけどな。だって湊は私の目標で、私がどれだけ努力しても届きそうにないほどの才能を持っている人だったから」
「いやお前の中で俺はどれだけ神格化されてんだよ」
流石に冗談がすぎると思ってそう突っ込んだのだが麗華の中では冗談じゃなかったらしく俺の言葉を笑って受け流す。
そんな俺たちのやりとりを見ながら彩葉が少しムクれていたが、久しぶりの俺たちの再会を直接邪魔する気はないらしく無言で圧をかけてくるだけだった。
それからすぐに俺の頼んでいたチョコレートケーキが運ばれてきて俺はそれを美味しく頂いた。
他の皆は特にこれから用事はないらしく、1時間ほど雑談したり俺と麗華と監督はお互いの近況報告し合ったりして過ごした。
最後は監督が全員分奢ってくれて俺たちは各自お礼を言ってから解散する事になった。




