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13.繧繝の見合い

 元婚約者の妹、フィール・フーパ。


 王国一完璧な淑女、ルエナ・ヒエム。


 どちらがソリス王子の婚約者に選ばれるのか。貴族達はその動向を注視していた。


 ヴィリディステラ王国には公爵家が二つある。スキエンティ公爵とプクラトディニス公爵だ。


 国を平和に治める為には、これらの権力の均衡を図る必要がある。


 現国王の妃には、プクラトディニス公爵家の長女、ヘルバが選ばれた。したがって、次の王妃──ソリス王太子の婚約者にはスキエンティ公爵側の人間を選ぶのが好ましい。


 カルチェ・フーパが婚約者となったのも、政治的利益を得る為だった。


 フィール・フーパや、スキエンティ公爵派の貴女を後任とするのも、自然な流れだ。


 したがって、フィールが最有力候補と考えられていた。


 しかし、どうやら籠城の花嫁の美しさには敵わなかったらしい。


 晩餐会の後、ヒエム家に王妃からお茶会の招待があった。


 参加者はルエナ、唯一人だと言う。


「スキエンティ公爵には同様の会が設けられていないようです。」


 アクイラによれば、フィールにはお茶会を開いていないそうだ。


 己の優位性を示したい彼らが、会の存在を開示しない訳を無い。とすれば、それらしい噂が耳に入って来ない時点で、そういう事実は無いと考えるのが妥当だ。


 王妃は一週間に一度、二人きりのお茶会を開いた。


 毎度、ヒエム家に手紙を出し、正式な手順で誘っている為、アヴィスも断り難いようである。


「国民達は既に、貴女が王太子の婚約者と思っているようです。彼らの期待を裏切るような事にならないと良いのですが……。」


 ヘルバは会う度に、ルエナを王太子妃に望んでいるかのような発言をする。


 新聞を使った印象操作の甲斐あって、民の声がヘルバにも届いているようだ。


 三度目のお茶会に、遂にソリスが同席した。


「王子、先日の狩猟大会で優勝されたそうですね?」

「陛下、彼女の前で私を良く見せたいのは分かりますが、その話はよろしくないかと。多くの女性はそのようなお話が苦手でしょうから。」


 畏まった言葉遣いと裏腹に、良好な母子関係が窺えるやり取りだった。


 特にソリスの声は柔らかく、優しさに満ちていた。


 舞踏会や晩餐会で言葉を交わした事はあるが、こうして面と向かって話をするのは初めてだ。


 ルエナは少しでも良い印象を与えようと、いつものように笑顔で答えた。


「わたくしは抵抗ございません。殿下の活躍された話を是非お聞きしたいです。」


 少々偽り過ぎただろうか。


 類に漏れず、ルエナも血の話は苦手だ。でも、このチャンスでソリスの関心を逃したくなかった。


 ルエナの言葉は本心と取りづらいものであったが、ソリスは嫌な顔を一つせず、「そうか。」と頷いた。


「あの日は一番大きな角を持った鹿を狩った者が勝ちというルールでした。動物は基本的に脳を狙います。鹿の場合、目の少し上、両目と頭頂部を結んだ三角の中心です。ですが、大きな鹿程、生き残る力が強く、警戒心も強いものです。一発で仕留められない事もあり、……」


 鹿の弱点や弱り方等、やけに詳しく説明するものだから、ルエナは気分が悪くなってしまった。


 それを察しさせないよう努めたが、ヘルバが「話が長くてお茶が美味しくなくなってしまうわ。」と嗜めた所を見ると、隠し切れていなかったのだろう。


「度が過ぎてしまったようです。お許しください。」


 ソリスはしゅんと眉を落として謝罪をした。


 王太子は真面目な人という印象だった。賢王と呼ばれる、現国王の息子なだけある、とルエナは思っていた。


 今回、彼には趣味の話になると熱中してしまう子供のような一面もあるのだと知る事が出来た。


(でも結局、殿下の不興を買ってしまったわ。)


 ルエナは失敗したと思った。


「ところで、スフォリアテッラは皆に好評でしたね。他に好きな物はございますか? 次お会いする時に用意しましょう。」


 だから、彼が次がある事を仄めかした時、ルエナは驚いた。


 そして、彼は約束を違えぬ人だった。


 翌週のお茶会に、ソリスはルエナの好物と共に現れた。


「貴女は私に難題を強いてくれますね。」


 また他国の伝統菓子を要望したルエナに、ソリスは無邪気な笑顔を見せた。


「今回も自信がありますよ。さあ、想像通りの味になっているか、確かめてください。」

ルエナ・ヒエム(19歳)

 メイフォンス侯アヴィス・ヒエムの妹。

 初登場  :1.籠城の花嫁

 前回登場話:12.懐旧の味


アヴィス・ヒエム(25歳)

 メイフォンス侯爵。ルエナの兄。

 初登場  :1.籠城の花嫁

 前回登場話:12.懐旧の味


ソリス・ヴィリディステラ(19歳)

 ヴィリディステラ王国第一王子。

 初登場  :6.壁の美しき花

 前回登場話:12.懐旧の味


ヘルバ・ヴィリディステラ(38歳)

 ヴィリディステラ王国の王妃。

 初登場  :3.王妃の試練

 前回登場話:12.懐旧の味


カルチェ・フーパ(享年17歳)

 スキエンティ公爵の長女。王太子の元婚約者。

 初登場  :2.王家の使者

 前回登場話:12.懐旧の味


フィール・フーパ(16歳)

 スキエンティ公爵令嬢。カルチェの妹。

 初登場  :6.壁の美しき花

 前回登場話:12.懐旧の味


アクイラ(22歳)

 ヒエム家の侍女。子爵家の出で、行儀見習い中。

 初登場  :4.舞踏の授業

 前回登場話:11.龍虎の衝突

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