38 勝利の大人数宴会と不自然に消された『柱魔法』の情報
「お疲れ様! 今日は僕のおごりだ、ドンドン飲んで食ってくれ! 冒険者や騎士のみなさんも、遠慮なく食べて明日への英気として欲しい。さぁいくよ……カンパーイ!」
「おごり飯だー! カンパーイ!」
夕方、暗くなり始めたファーマルの街の広場にて、Sランクパーティー『月下の宴』主催で、『無限湧きオーク及びオークエンペラー討伐成功お疲れ様宴会』が開かれた。
戦いに参加してくれた冒険者連合四十名、王都から派遣された騎士三百名、さらに街の人も参加しとんでもないことになっている。
さすがにこの人数はお店には入らないから、外にいっぱいテーブルやらを並べての、大宴会。
月夜に外で焚火での飲み食いって初めて経験するが、雰囲気良いなぁ。
「ヒャハハハ! すっげ、すっげェぞコレ! これ全部食っていいのか? いいんだよなシアン! おらぁぁぁァァ!」
そしてリューネが狂喜の顔で叫び、宴会用に用意された大皿を食い散らかしていく。
オークエンペラーの右目の黄色い魔宝石のお話、ドラゴンが関係しているらしいが、リューネも確信が無い為、あれ以上の話の進展は無かった。
オーク大発生にドラゴンが関係している……どういう意味か分からないが、いつかリューネが話してくれるだろう。
……ああ、そういや忘れてたけど、リューネってすっっっごい食べるんだよなぁ。
リーダーであるロイドさんが乾杯の音頭をとるが……リューネプラス、この人数をおごりにして大丈夫なのか……?
「大丈夫よシアン。ロイドって、すんごい良いとこのお坊ちゃんだから。冒険者として稼いだ額もすごいけど、それ以前に、元から持っている資産がね、半端ないのよ。だから遠慮なく、いっぱい食べてね、ふふ」
ファーマルは六歳から十年住んだ街だけど、広場が人で埋めつくされている姿を初めて見たぞ。
これ、一体おいくらになるのか、と不安気にしていたら、エルフ特有の長い耳をピコピコ動かし、上機嫌のルナが俺に飲み物を持ってきてくれた。
「え、ロイドさんって、もしかして身分の高い人だったりするの……? うわ、俺普通に接していたかも……やばいよルナ……!」
そういえばロイドさん、この国、マリンフォールズ王国の王子様であるリーブルさんともお知り合いだったし……つまり、それクラスの雲の上の人なんじゃ……!
「だっいじょうぶー! 冒険者をやっているときのロイドはタメ口おっけー無礼講、ほら、こうして背後からいきなり膝カックンしてもーーー……だい、じょう、ぶ! おいでシアンくーん、一緒にカックンさせてやろうよー。あはははは!」
「ほぁ……! こ、こらメイメイ……! 素直なシアン君に妙なことを教えないでくれ!」
俺、ロイドさんに身分とか気にしないで接していたぞ、やばい、と震えていたら、背後からお酒片手の女性、メイメイさんが登場。
そーっと後ろからロイドさんに近付き、膝カックンを連続で仕掛けている。
い、いやいや、メイメイさん、俺はそんなに連続で出来ないです……せいぜい一回でしょ、普通。
「あはは、出たわよシアン、メイメイの連続カックン。あれやられたら、本当にイラッとするのよね。でもロイドは怒らないから、メイメイが面白がって何度もやるっていう悪循環が起こるの」
ルナが笑いながら見ているが、と、止めましょうよ。
「メ、メイメイさん、その辺にしましょう……ってうわあああ」
「お、これは新たなターゲット発見! 新人の洗礼を受けろーーー! ほりゃああって、あらら」
さすがにロイドさんが可愛そうなので止めに入ったが、メイメイさんの目がギラリと光り、俺に連続膝カックンを仕掛けてくる。
うわあああ、ちょ、ひえ……!
ロイドさんのような体幹も無い俺は一撃でバランスを崩し、後ろに倒れ込む。
「……わ、ご、ごめんなさいメイメイさん……! あ、ちょ、背後から抱きつかないで下さい……!」
俺はメイメイさんごと地面に倒れ込み、何か柔らかい物を思いっきり触ってしまう。
やばい、と慌てて離れようとするが、軟体動物のような手足がニョインと伸びてきて、俺を絡めとる。
「ふははははー! やるじゃないか新人シアン君! 倒れながらアクシデントを装いつつも、しっかりと私の胸を揉むとか達人の所業! いいだろうー、よーし、ルナより先に食ってやるー! あはははは!」
「ちょ……! やめなさいメイメイ! 私のシアンに変な事しないでよ!」
うっふ、背後からすんごい大きくて柔らかいものが当たる……!
ってヤバイ、ルナがガチ切れだ。
「ルナレディアお姉様、こういうときは落ち着いて正しい知識を示すのが大人の女性かと。私もお手伝いしますので、シアン様に性の知識を……」
「……え、うん、性……? ルウロウ? そういえば急にシアンへの態度を変えたけど……これからずっとそれで行くの?」
顔真っ赤にして怒ったルナの背後からルウロウさんが現れて、そっと耳打ち。
なんかルウロウさんが余計なことを言ったような。
「はい。シアン様は命の恩人である夫妻のご子息、私が守るべきお方です。彼も十六歳、そういうことに興味を持っているはず。ですが独学ですと、間違った方向に行く可能性もあり、ここは大人の私たちがしっかりと教えるべきかと。もちろん、私の身体を使っていただき、実際に行為も……」
「ちょ、ルウロウ! ダメよ! そういうのは私が……」
「うっふ、大変な目にあった……」
なんとかメイメイさんの軟体を剥ぎ取り、揉めるルナとルウロウさんから離れる。
「……シアン発見。私、人多いの苦手、一緒に物陰に行こう……」
「だめよアイリーン。私、シアン少年にお話があるから」
人の輪を抜け、端っこのほうで座ろうとしたら、狐耳パーカーの女性、アイリーンさんが音も無く暗闇から現れる。
ひいいいい……! マジでビックリしていたら、黒いドレスの女性、魔法使いであるヴィアンさんも黒猫を引き連れ登場。
「…………エッチなやつ……?」
「ち、が、う。真面目なお話。さて、ここならみんなから離れているから、ちょうどいいわね」
アイリーンさんを軽くあしらった後、ヴィアンさんが真面目な顔で俺の目を見てくる。
な、なんでしょう……
「シアン=ソイル。ロイドから依頼されたから、あなたのこと色々調べさせてもらったわ」
ヴィアンさんが手書きの紙の束を出し、ニヤァと笑う。
お、俺のこと?
「ああ、生い立ちとか、ご両親のこととか、さすがにそこには触れないわ。……でも一言、辛かっただろうけど、頑張ったわね、シアン少年」
ヴィアンさんが、その大きな胸に俺の顔を抱き込む。
うわ……暖かくて……柔らかい……
「……やっぱり、エッチなやつ……」
アイリーンさんが不満そうに自分の控えめな胸を触り、ジーっと俺を見てくる。
「……さて、私が調べたのは、あなたの『柱魔法』のことよ」
ヴィアンさんがやっと離してくれた。もうちょっと味わい……ってヤバイ、ルナに怒られる……え、俺の柱魔法のこと……?
「あなたの使う『柱魔法』って、なぜか全然情報が残っていないのよ。そして過去にこの魔法の使い手がいたという記載すら無い。でも、使い手がいないのに、なぜか『重い物を持ち上げる』という説明だけが残っていた。おかしいわよね」
そういえば、ロイドさんがそんなことを言っていたな。
「でもたまーに古い書物に、断片的に、この魔法って『柱魔法』じゃ、って部分があるんだけど、不自然に削られていたり、書き換えられていたりするの。そしてその不自然に書き換えれらた本を集めてみたら、一つ、共通点があったのよ。──それは、それら全てが、過去に『ドラゴンを倒したという英雄勇者のことが書かれた本』だってこと」
ヴィアンさんが真面目な顔で語り、数冊の絵物語が描かれた本を出してくる。
これは世界中で人気の絵物語。
子供から大人まで、ほとんどの人が読んだであろう本。
俺も子供のころ、この物語の英雄勇者に憧れて冒険者を目指した。
数百年前、ドラゴンを倒し、皆に勇気と希望を示し、絵物語にまでなった彼等だが、これは架空の物語ではなく、実際にあったことらしい。
果たして、彼等と『柱魔法』、一体どういう関りがあるというのだろうか。




