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第4話 

「もうこんな時間カ・・・」


朝日が昇る、レヤ王国の都市部中心にある巨大な宮殿。本来は人間の王家が暮らしているはずのそこだが、現在は魔王によって生み出された魔物達が占拠している。


そしてその宮殿内において最も巨大で豪華な部屋から出てきたのは、魔王からレヤ王国の国王の号を授けられ、玉座に鎮座している魔物。


それは灰色で屈強な肉体を持ち、のしのしとその巨体を揺らしながら宮殿内を練り歩く。しかし通常なら部屋から出てきた自分のところに、すぐ侍従役を務めている魔物が寄ってくるのだが誰も現れる雰囲気がしない。


「ン?朝食はまだカ?」


おかしいなとその魔物は思いながら、ツノの生えた頭をかきながら周囲を見渡すが静まり返っている。


さすがに異変を感じた魔物は普段食事などを摂る際に使用している大きな部屋へと進んだのだが、そこへの扉を開けて目に飛び込んできたのは。


「な、何だこれハ・・・」


床に転がっている変わり果てた魔物達の姿。


「お前ラ!ど、どうしたんダ!?」


慌てて同胞達のそばへと駆け寄るのだが、既にそのどれもが呼吸をしておらず、目からは光が失われている。外傷は見当たらないものの、命が尽きたということだけは分かる有様だ。


そして灰色の巨体の魔物は膝から崩れ落ち、ツノの生えた頭を抱えながら狼狽する。


「い、一体全体誰なんダ?こんなことをしたのハ・・・。人間なわけがなイ、あいつらはオレ達に逆らえなイ・・・」


怒りや戸惑いを覚えて体をガタガタと震わせていると、後ろから声が聞こえてきた。


「あ、おかえりなさいです。偽国王の子分は僕の方で始末しておきました」


魔物が振り向くと、扉の近くには剣を手にした勇者・パオゴローが立っていた。


「き、貴様がこれをしたのカ!」


「はいそうです。それにしても起きるのが遅かったですね。そこに転がっている魔物は『すぐにオーガのゲユユパ国王陛下が戻ってくル!そうすればお前は殺されル!』とか言ってたけど待ちくたびれたですよ」


そして欠伸をしながら「僕は夜通しこの魔物達を倒してたです。のんびり眠れる身分は羨ましいです」と続けたパオゴローは、ゲユユパ国王陛下と周囲からは呼ばれている魔物のところへとゆっくりと歩いて向かう。


「君はオーガっていう種類の魔物なんですね。国王さんが色々と教えてくれましたけど本当に腕力は強いんですか?頭は悪そうですけど」


飄々とした口調でこんな言葉を浴びせながら、パオゴローはこの王国を支配しているオーガに近づく。しかしゲユユパの方も怒りを露わにすると体中に力を込めて彼のことをギロリと睨んだ。


「よくも仲間達ヲ・・・!人間風情が調子に乗るなヨ・・・!」


「今は人間ですけど前世はゾウです。そこのところお願いするです」


「訳の分からないことを言うナ!」


そしてオーガはこう叫ぶと同時に床を蹴り上げ、とてつもないスピードでパオゴローの方へと飛び込んでいく。


勇者に向けられたゲユユパの拳は巨大で見るからに硬い。人間のそれとは異なる殴打をモロに受ければひとたまりもないことは火を見るより明らかだ。全身の骨は折られ、内臓にもダメージを食らうだろう。


しかしパオゴローは冷静だった。怯えることもなく、かと言って慢心するでもなく。自分に任せられた責務を淡々とこなすために。


「オーガ、強いとか国王さんは言ってたけど僕の相手じゃないですね」


ゲユユパの拳が振り下ろされるよりも早く、パオゴローがその手に持っていた剣を一閃すると、それは力なくその場にへたりこんでしまった。


レヤ王国を支配していたオーガのゲユユパは何の見せ場も作ることができず、先にパオゴローに敗れた者達と同じように、静かに息を引き取ったのだ。


そしてパオゴローは多くの魔物の肉体が足元に転がっている状況にもかかわらず、短く刈り上げられた頭をかきながら平然と話す。


「女神がくれたこの剣は良いですね。体を斬ることができないけど魔物はばたばた倒れます。充分です」


朝日の陽光はこの宮殿だけでなく、王国中で倒れている魔物の死体をも照らしている。人間を恐怖に陥れ、この王国を支配していた悪はその全員が無情にもパオゴローの手によって倒されたのだ。


「さて。国民達に自由になったと教えてあげますか。ここに入る時に心配されましたからね」





「こ、ここの魔物はあなたが1人で倒してくれたのか・・・?その、信じていなかったが本当に新しい勇者様なのか!?」


「はいそうです。ゾウは嘘つきません」


「ゾ、ゾウ・・・?」


「昨日も言ったじゃないですか。僕の話の何を聞いていたですか?」


「す、すみません・・・」


宮殿から出たパオゴローのことを出迎えてくれたのはレヤ王国の都市部にて魔物達の配下に置かれていた人々。彼・彼女らは魔物が快適に生きるための労働力として使われており、頻繁に暴力なども受けており散々な目に合っていた。


そして現在パオゴローと会話をしているのは、数日前に彼が立ち寄った村にいた男性。休憩所と呼ばれていた地下室で気を失っていた男だ。今もパオゴローが見つけた時と同じようなボロボロの服を身につけている。


パオゴローのことが気がかりだった男性は、休憩所から彼が出てしばらくして、こっそりとその後をつけていた。そして昨日の夜に都市部へと入って魔物を淡々と倒していたパオゴローがひと段落して休んでいるところに、魔物の住処から持ってきた食糧と水を分け与えてくれたのだ。


ちなみにその際にも『自分は新しい勇者』だとか『前世は天才と呼ばれていたゾウ』だとか色々と聞いていたのだが、この男性にとってはあまりにも衝撃的な光景が目の前で繰り広げられたために理解をすることができていなかった。


さらに夜中に宮殿へと入ろうとするパオゴローのことはさすがに危険だとして止めようとしたのだが、存分に無視されたために夜通し心配していた。


「これでこの国は自由です。でもまだ数日はここで過ごして魔物用の守りを固める手伝いをするです。また攻めて来られたら困ります」


そう話すパオゴローは自分が持っていた大きな袋の中を漁り、育ての親であるバン王国の国王・ズイファから渡された魔力が込められている杭のようなものを何個か取り出した。


「これは僕の故郷の国王さんが命を削りながら作ったものです。バン王国に張られている結界の成分の分析をしてできるだけそれに近づけたそうです。どれだけ効果があるか分かりませんが無いよりマシです」


淡々とそれらを取り出し、ズイファが使用方法を書いた紙を読むパオゴローだが、自分のことを見るレヤ王国の国民達の様子に違和感を覚えていた。


「どうしました?さっさと地面に転がっている魔物の肉体を処分して街を綺麗にするです」


人々はパオゴローのことを囲んでいるのだがもろ手を挙げて喜ぶようなことはない。それぞれが戸惑っている表情を浮かべているのだ。


「・・・もしかしていざ自由になったらどうすればいいのか分からなくなっている感じですか?」


「あ、ああ。不思議と魔物に支配されることが慣れてしまっていて・・・。どうも実感が湧かず・・・」


こう話す男性は目線を地面に落とす。周囲には他の人々もそうであり、またすぐにでも新たな魔物が襲ってきていつもの生活に戻るだろうという諦めにも似た境地に達している。


「・・・仕方ないです。人間は面倒ですから、もう放っておきます。自由の実感を得たら騒ぐです」


そして呆れた顔をしたパオゴローは一旦この場を離れようとしたのだが・・・。


「ちょ、ちょっとお待ちくださいませ!私はこの国の王家の生き残り、王女のミワレと申します!貴方様にお礼が言いたいのです!」と叫んだ女性の声が、進もうとするパオゴローの耳に届いた。





「いきなり申し訳ございません。しかしどうしても貴方様に感謝の想いを伝えたくて・・・」


「だからさっきから聞いてるです。もう十分です」


場所は先ほどまでパオゴローが戦いを繰り広げていた宮殿の中。そこにある高価そうな机などが置かれている部屋にパオゴローと肩まで伸びているであろう黒い髪を携えた30代ほどの女性、ミワレが座っている。


彼女によれば本来の正統な王家となる人間達は既に数名が魔物によって殺されており、自身を含めた生存した面々も、劣悪な環境の下で過ごしたせいで体が弱っているらしい。


つまり彼女の父となる国王なども死に至った状況の中では、国を支配していた魔物の討伐というのは悲願に近いものだったのだ。


「しかし・・・。この王国は数年前に勇者が解放してくれたのにも関わらず、また襲ってきた魔物に支配されてしまいました。この度の解放、深く感謝申し上げます」


ミワレはパオゴローに向かって深々と下げていた頭を上げ、漆黒の髪を耳にかけるとこう続けた。


「貴方様は・・・。新しい勇者様でしょうか?」


「そうです。名前はパオゴローと言います。前世はゾウです」


「ゾ、ゾウ?よ、よく分かりませんがどこから来られた方なのでしょうか?」


もう毎度のごとくのことになっているのだが、パオゴローの『前世はゾウ』発言にミワレは困惑したもののさらに質問を投げかけた。


「こっちで育ったのはバン王国です。ちなみにですが国王さんから、バン王国からレヤ王国までは徒歩で行けるけどその次以降は船が無いと厳しいっていうのは聞いています。海には魔物はいませんから」


あっけらかんと彼が言うとミワレはしばし考え事をした後、こう提案をした。


「そ、それではせめてものお礼として船舶の方を国民達でご用意させては貰えないでしょうか?解放された人々の中には技術がある者もおります。こちらとしても何かお手伝いをできないと・・・」


これはパオゴローにとって願ってもない礼の内容。そもそも彼はどこかで船を調達しようとは思っていたのだがこうなると話は楽だ。


「分かりました。じゃあ数日の間で良い船を用意するです」


パオゴローはこの提案を飲むことにし、さらにレヤ王国の守りを固めるために数日間この土地で過ごすこととした。

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