第5話
やっとヒロイン登場です。遅いですね。
前世がゾウの勇者・パオゴローがレヤ王国を支配していた魔物達を倒してから2日後。
バン王国を出発する時から大切に持っている大きな袋を肩に担ぎながら、パオゴローは国中を練り歩く。現在の彼は、僅かながら国内に生き残っている魔物の残党を狩りつつ、領土のあらゆるところに魔力が込められている杭を袋から取り出すと土地に打ち込んでいるところ。微弱ながらも魔物用となる結界を張る準備を進めているのだ。
この杭は転生後のパオゴローが育ったバン王国の国王であるズイファが作ったもの。魔法を使えるズイファは病に侵されながらも長年研究開発していたこの杭をパオゴローに託していた。
「さて。こんなもんで良いですね。後は国の中心部に戻って起動の呪文を唱えれば完了です。この紙に書いてる通りのことを言えば良いです」
レヤ王国の最南端に杭を打ち込み終わり、こう話したパオゴローはズイファから渡された紙に目を通す。
「・・・ん?何ですかこれ」
しかしそこにはこれまで無かったはずの『注意!!』と書かれていた箇所があった。
「えっと。『この注釈が出ているということは恐らくどこかの国を解放し、結界杭を起動する運びとなったのだろう。それはおめでたいことなのだが・・・。実際に結界を張るには魔法使いが必要となる。残念ながらパオゴロー、お前では起動できない。今いるその土地で魔法使いを探すのだ』・・・?」
紙を持っていた手をプルプルと震わせながら、珍しく彼は感情を露わにした。
「こういうことは出発する時に言うです・・・!どうしてこんな大事なことを黙ってたですか国王さんは・・・!」
そして「・・・この国って魔法使いはいるですかね・・・?」と肩を落としながら彼はひとまずレヤ王国の中心部へと戻ることにした。
◇
「この国に魔法使いがいるか、でしょうか?」
レヤ王国の中心部にある宮殿に戻ったパオゴローと会話しているのは、この王国の正統なる王家の生き残りであるミワレ王女。ちなみに宮殿の中では何とか生き残った侍従達がせわしなく働き、魔物の遺物などを処分している。
「パオゴロー様がどれだけ知っておられるか分かりませんが、魔法使いというのは非常に貴重な存在なのです。バン王国の王家のように魔法を使用できる立場でありながら国を統治するというのも極めて稀でして」
ミワレは、レヤ王国を支配していた魔物が大量に蓄えていた食糧庫から持ち出した木の実を一口齧った後、さらに続ける。
「それに魔法使い関連でこの国では色々なことがありまして・・・」
「なるほど。そうですか」
パオゴローも水を一口飲んで天井を仰ぐが、せっかくここまでできたのに結界を張れないというのはもったいない。
「ミワレさんが知らないだけでどこかに魔法使いがいるっていう可能性はありますか?やっぱりズイファ国王さんから貰ったこの杭は使わないといけないです」
彼は手にズイファから渡された杭や結界の起動方法が書かれた紙を持ってこう口にする。するとその言葉を聞いたミワレは目を瞑り、しばし静かになった後に穏やかな口調で答えた。
「・・・魔法使いの一族がいたことを私は知っています。しかし彼らがどうなっているのか分かりません。魔物に殺されているかもしれませんし、もしくは解放された国民の中に紛れているのかも・・・」
「探す面倒そうですね」
ばっさりとこう言い切ったパオゴローだが、ミワレの方も気を取り直してといった感じで「私からもパオゴロー様にお話ししたいがございます」とも話し、彼に対して語りかける。
「パオゴロー様がこの宮殿を占拠していたオーガを倒した後も、杭を領土に打ち込みつつ魔物の残党を狩っていたことは分かっております。しかしどうもまだ魔物の生き残りがいるようでして」
「あれ?全部倒したと思ってたけど違うですか?」
パオゴローが首を傾げると、ミワレは頷く。
「ええ。魔物、その中でも特に最強ランクの強さを誇ると言われているドラゴンを見たという情報が噂として流れているんです」
「確かにドラゴンについてはズイファ国王さんからも聞いていましたね。でも僕が倒した魔物の中にそういうのはいなかったです。その話は本当ですか?」
するとミワレは「はい、特に農村部の国民からはそのような報告を。北東の方にある荒野の周辺だそうですが」と続けると、パオゴローもそこに足を運んでいたことを尋ねられる。
確かに彼女の言う通り、パオゴローは少し前にそこに行ったことがあるのだが・・・。
「分かりました。魔法使いを探す目的もありますし、もう一度そこに行ってみて魔物らしきものを探してきます」
報告を聞いたパオゴローはこう言うと部屋を出て、教えて貰った荒野のある方向へと向かうこととした。
◇
「人工物が無い場所は見通しが良いですね。こういうのは好きです」
植物が枯れ果てている荒野。パオゴローはそんな土地を進みながら魔物を探している。
「動物園は人間が造ったものがいっぱい目に入りました。でもここは違うです」
前世が動物園で生まれ育ったゾウである彼はこのような感想を口にしながら周囲を見渡していたのだが・・・。
「・・・絶対あれですよね?」
パオゴローの目線の先にはぐったりとした様子の赤いドラゴンが地面に横になっていた。そこまで大きくない体だが近づいてきたパオゴローの方を向きながら、口をパクパクと動かしながら何か声を絞り出している。
「グ・・・グゥ・・・」
「え?『何だ貴様・・・もしかしてここから逃げようとしているバカな人間か?ハンっ!オレ様を舐めるんじゃねえよ!ここは通さねえぞ!』ですか?またまた、この荒野の先は断崖絶壁で下には荒れた海が広がってるって聞いてますよ。そんなところから逃げるわけないじゃないですか」
「ガルァ・・・グルゥ・・・」
「え?『ここの警備を任せられているこのドラゴンを舐めるな』って言ってるですか?そんなに体調が悪そうでよく言えますね。そもそもこの前、僕はこの周辺に来ましたが君はいなかったじゃないですか。どこに隠れてたですか?」
「グ・・・グルァァァァァ!!!」
「え?『今だ!ユイズ!』って言ったですか?」
するとその瞬間、パオゴローに背後から女性の叫び声が聞こえた。
「アタシの友達に近づかないで!殺すわよ!」
そしてパオゴローの体に強力な電撃が撃ち込まれる。
荒野中に響く轟音。直視できないほどの強い光。
じきにそれらが落ち着いて静かになると、パオゴローはバタリとその場に倒れこんでしまった。
「はあ・・・はあ・・・」
荒くなった息を上げながらパオゴローのことを見下ろしているのは、長い金髪で青いローブをまとった少女。人間年齢で17歳のパオゴローと同じぐらいの年齢だろうがやせ細っており、足元もおぼつかない。
彼女は大量の汗をかきながらドラゴンに近づくと手に持っていた草のようなものをそれに食べさせながら呟く。
「そっちがいけないのよ。私の友達を殺そうとするから。悪く思わないでよね」
そう口にしながら体中をガタガタと震わせているこの少女だが、何かに気づいたドラゴンが力なくうめき声を上げた。
「どうしたの?・・・え、嘘でしょ・・・」
こうして彼女が恐る恐る後ろを振り返ると。
「いきなり攻撃するだなんて良い腕してますね。近づいて来たのに全然気がつかなかったです。君、魔法使いですか?」
先ほどまで荒野の地面に転がっていたパオゴローが何食わぬ顔でそこには立っていた。
「な、何で・・・?」
そして呆然としている少女のこの問いかけに対し、彼はいつものように平然としながらこう答えた。
「育ててくれた国王さんが出してた雷の方がヤバかったです。子供の頃から修行としてあれを食らっていれば慣れます。回復はすぐにできます」
「あ、あんた・・・人間じゃないの・・・?」
「良い質問ですね。僕は人間ですけど前世はゾウです。あれです。鼻が長くてパオーンってやつです」
彼の言葉を、金髪の少女は理解できない。明らかに普通の人間ではない耐久力を目の当たりにして言葉にできない恐怖を感じてしまっている。
「君もゾウを見たことないですか、まあ仕方ないですね」
さらに彼は「ちなみに言っておきますが僕の体の強さは特別です。この前、夢に出てきたポンコツ女神さんが引いてました。人間以外の転生による副産物ってやつらしいです」と言うと、腰から剣を抜き、少女とドラゴンのことを睨みつける。
そして、パオゴローは彼女達のことをじっと見つめた後、冷たく言い放った。
「僕は人間に手を出さないつもりでしたがそれは条件付きです。先制攻撃されたら話は別です」
こうして彼は目にも止まらぬ早さで腰から剣を抜き、地面に横たわってしまっているドラゴンと魔法使いの少女に斬りかかり・・・。
「ガ・・・グ・・・グルゥ・・・」
「・・・やっぱりやめました。そんな目をして『この子は高熱を出している。助けてやってくれ』って言われたら仕方ないです」
すんでのところドラゴンが言い放った内容を聞き入れ、彼は剣を振り下ろすのを止めた。そして同時に、金髪で青いローブをまとったこの少女は気を失ってしまいそこに倒れこんでしまった。




