第37話
メーサブローの魂をパオゴローが斬ると、魔王はさらに苦しみだし、じきにその肉体は泥のように崩れていった。
「あ・・・あ・・・そんな・・・。メーサブローの魂が・・・」
そして遂にドロドロになった魔王の肉体が地面に広がっていくのだが、パオゴローはなおも緊張を解いていなかった。
「まだ生きてるでしょう。どこにいるですか」
その声に呼応するよう、溶け切った肉体の中から、青く光る球体が飛び出してきた。
「・・・それが魔王の本体ですか。幹部を全員倒さないとたどり着けないのはこれだったんですね。これを斬ればようやく全部終わります」
こう言ったパオゴローはフラフラと宙を舞うそれを斬ろうとするが。
「・・・あ、あれ?」
何度剣を振ってもそれを斬ることができない。縦に斬ろうが横に斬ろうがナナメに斬ろうが、でもだ。
困惑した顔をするパオゴローだがその球体からは大きな笑い声が聞こえてきた。
「は、はは・・・ははは!残念だったねパオゴロー!我は神だ。其方達のような脆い魂など持たない。其方の言う通りこれは我の本体だが・・・。そんな剣では斬れないよ」
「ま、待つです!」
青い球体・・・いや魔王の本体は空へと舞い上がっていく。
このままだと魔王を逃がす。そうしたら今度も何をするか分からない。
焦りの色を見せるパオゴローは必死にそれを掴もうとするが、剣で斬れないどころか手で触れることすらできない。
「こ、このままだと・・・!」
ズイファ国王の死、ギムの死、ユイズの全力の魔力開放を無駄にしてしまう。しかしそんなパオゴローの奮闘も虚しく魔王はこの世界を逃げ出そうとするが・・・。
「よくやりました、パオゴロー。後はわたくしにお任せください」
聞き覚えのある女性の声が耳に届いたと思った瞬間、同じような青く光る球体が、魔王の本体を貫いた。
「っ!め、女神・・・。そうか、メーサブローの魂が我から離れたから・・・」
「ここまでくれば魔王はわたくしで仕留めることができますから。これで本当のお終いです」
そして魔王の本体が脆くも砕け散るという光景を目にした後。
パオゴローは体中の力が抜けていき、その場に倒れて肉体も消滅した。さらにギムの体も同じように消えると、戦闘を終え静寂に包まれた大地には、ユイズたった1人が取り残されてしまった。
◇
「・・・ユイズ様はまだ目を覚ましませんか?・・・ええ、そうですか。分かりました」
ユイズは目を覚ます。そこはどこか見覚えのある装飾が施された部屋だった。
「・・・誰?」
「・・・!ユイズ様、気がつきましたか!私です。レヤ王国の国王代理を務めおります、ミワレです!」
そう言われてもユイズはまだピンときていない。彼女はしばらくボーっとしながら天井を見つめるが、段々と頭が起きてくる。
「ミワレ?ミワレ・・・。・・・え!?ミワレ王女!?こ、ここは!?パオゴローとギムは!?」
ようやく自分に顔を近づけて呼びかけている女性がミワレだと理解したユイズは、慌てて飛び起きる。周囲を見渡すとそこはレヤ王国の宮殿内。しかも自分が初めてパオゴローと出会った時、気を失った後に連れて行かされた部屋だった。
ただユイズにとって重要なのはそこではない。
「ね、ねえ!パオゴローは!?戦いはどうなったの!?」
ボロボロの体で着ている服の襟を掴みながら狼狽するユイズを見て周囲にいた医者や侍従達は困惑するばかりだが、ミワレはこう答えることしかできない。
「そ、それが・・・。1週間前、突然宮殿の前にユイズさんが現れたのです。しかしずっと声をかけても目を覚まさず・・・」
「ど、どうして・・・。何でここに・・・?」
ユイズは自らの髪を掴み、震えながら絞り出す。
「魔王は・・・?パオゴローは勝ったの?それとも負けたの?アタシは生きてるの?それとも死んでるの・・・」
彼女はガタガタと震えだし、じきに大粒の涙を流し始めた。
「分からない、分からない。2人は?パオゴローは?ギムは?もし負けてたら、どうしよう。どうしよう・・・」
その様子を見てさらにどうしようかと慌てる周囲だが、ミワレはユイズのことを優しく抱きしめた。
「大丈夫です。ユイズ様は生きています。・・・ここに帰ってこれたということは、きっと魔王のことを倒せたのでしょう」
「で、でも。パオゴローは?ギムは?」
するとミワレはユイズから離れると魔王と戦った場所がクゥア王国の土地であることを聞き出し、こう提案した。
「分かりました。それではユイズ様やパオゴロー様、ギム様が解放した国と連携し、共にクゥア王国へと向かいましょう。そこにパオゴロー様やギム様がいらっしゃるかもしれません」
◇
それから数日後。
ミワレは隣国であるバン王国や、ドヌ王国、フィル王国に使者を送り、超国家的な特別部隊を編成する旨の連絡をした。
バン王国はパオゴローと面識があり故ズイファ国王の意思も汲んだ政治家が、ドヌ王国からは国王であるウィーポがそれへの協力を示した。しかしフィル王国は今だ国家として再建できておらず、さらに国民もパオゴロー様への憎しみは消えていないようで参加は見送られた。
さらに日数が経過すると、ミワレやウィーポといった各王家の人間が直々に合流して、大きな船に乗りクゥア王国へと向かった。
フィル王国と橋で繋がっている場所とは反対側からクゥア王国の土地へと上陸した面々だが、そこは至って静かな地だった。
特別部隊は色々と探索したもののパオゴローやギムは見つからない。それどころかユイズの記憶だと道中にあるはずの魔物の死体も無くなっていたのだ。
「・・・パオゴロー・・・ギム・・・」
そして特別部隊はディマイラリズや魔王と戦った場所へとたどり着いた。
そこはユイズが丸焦げにした魔物が転がっているはずなのだが、やはりその姿も無い。その代わり、結界を展開させるための杭の余りが入っていた袋はポツンと寂しく転がっている。
「・・・」
しばらく周りを見た後、ユイズはそこに崩れ落ちてしまった。
「お、おい!魔法使い!大丈夫か!・・・ほら水だ。これを飲んで落ち着け」
すぐにドヌ王国のウィーポが駆け寄り、自らの水筒を彼女に差し出す。しかしユイズはこれに反応できず、すすり泣き始めた。
「お、おい・・・」
「パ、パオゴロー・・・。ギム・・・」
ユイズは分かっていたのだ。
死んでいない自分がここまで足を運んで、魔物が全く襲ってこないということはあり得ない。おまけに魔王やディマイラリズがいたこの土地で何事も起きないということが、何を表しているのかを。
「ウィーポ国王陛下。ユイズ様の姿を見て私も分かりました。パオゴロー様は、ギム様は、魔王を倒してくださったのです。でも・・・」
そして2人のそばへとやって来たミワレも目にその頬に涙をこぼしながら、こう話した。
「でも、2人もこの世から旅立ってしまいました。私達は・・・彼らによって守られたのです・・・」
これを聞いてウィーポも俯き、目を真っ赤にして鼻をすする。
次第にそれは伝染していき、パオゴロー達に助けられた他の面々も嗚咽を漏らす。
そしてそれは、前世がゾウの勇者パオゴローと魔王を裏切り人間のために戦ったギムの手向けとなった。
◇
「何を勝手に殺してるですか、このポンコツ無能空気読めない女神」
「ガウガウガ、ガガウガウ・・・あ、普通に喋れるぜ。おいこら女神!なんて仕打ちだこれは!せめてパオゴローは生かせよ!ユイズが可哀想だろうが!」
「ひ、酷い!せっかくあの場から離れさせてあげたのに!」
天界ではパオゴローとギムが女神に激怒していた。
「せっかくはこっちのセリフです。せっかく魔王を倒したのに。これじゃあ・・・ですよ」
「そもそも何だよこの恰好はパオゴローもオレ様もおかしいだろこれ」
そう。パオゴローは頭がゾウで体が人間のまま、他方でギムは体が秋田犬で頭がドラゴンというとんでもないことになってしまっている。
「そ、それはホラ。2人共、どうも前世の姿のことも好きかなあと思いまして・・・」
「だからってこんなことしちゃ困るでしょうよ!」
「いい加減、パオゴローは生き返らせろ!今頃ユイズが寂しくて泣いてるかもしれねえだろうが!」
「ひ、ひい!ごめんなさい!」
天界全域に轟くようなパオゴローとギムの大きな声。そしてそれに続き、パオゴローは女神に近づいて、明らかに怒っているような目でこう問い詰める。
「おいこらポンコツ女神。僕に言っていないことがまだ色々とあるでしょう。良い機会なのでここで全部吐くです」
「は、はい・・・」
地上でユイズ達が泣き叫んでいた一方、天界ではガチギレ状態のパオゴローを前に女神は泣きそうになっていた。




