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第36話

「我は天界にいた神であり、魔物を作った偉大なる存在。それを変態なんて言うなど・・・」


パオゴローの目の前に現れた魔王は裸の上半身でヤギの頭を抱きかかえながら苦々しく言葉を漏らす。


「ねえ、パオゴロー。あれが魔王なの?あの変態が?」


「ご名答ですユイズさん。さっさとあれを倒すです」


そしてこう口にしたパオゴローは腰から剣を取り出し、構え、魔王のことを睨む。


「パオゴロー。其方は我の提唱した案に賛同しないのか!?」


声を絞り出すように叫ぶ魔王。しかしパオゴローは冷めた目をしながら淡々と答える。


「当たり前でしょう。誰が魔王の言うことを信じるですか?」


その声には呆れた感情も混じられている。


「同胞達の苦しみはどうだ!この世界のゾウは人間に絶滅させれたんだぞ!しかも薄汚い私利私欲のために!それを許せないと思わないのか!」


「だからしつこいですって。僕はこの世界のゾウ云々なんて知ったこっちゃないです」


パオゴローの返答を聞いて唇を噛む魔王。


この魔王は元々パオゴロー達がポンコツ呼ばわりする女神と共に天界にいたのだが、彼は女神が持っていない能力として死後の世界にいる魂の、前世の姿を見ることができた。


だからこのクゥア王国にパオゴローが入国した瞬間にその前世を識別し、それに効果的なプランを組み立てていた。


『この世界のゾウは人間達に全滅されている。それでも人間の味方をするのか?』


魔王の計画ではこの一言が強烈な影響を及ぼすはずだった。そしてそこまで自信を持っていた理由として、例えば初代勇者である奈嘉見多カナ相手には同じような論法が有効であったからだ。


動物園の飼育員をしていた彼女には、『人間がどれほど他の動物のことを軽視しているのか?』という観点からの言葉が重く響いた。だからこそメーサブローの生涯にスポットライトを当てて言葉を浴びせ、自身に協力させる誘いをし、首を縦に振らせたのだ。


これによって初代勇者はペナルティが発動して地獄に堕ち、魔王は勝利した。


しかしパオゴローは違う。


「パオゴロー!話を聞け!其方が暮らしていた世界の人間も、この世界の人間も・・・」


「うるさいですね。そもそもどうして魔王は常に“人間VS他の動物”という構造なんですか?人間以外の動物だって争う時があるでしょう」


「人間以外の動物の争いは正しい弱肉強食だ!しかし人間は違う!人間は・・・」


「はあ・・・。もう良いです。やっぱり話が通じないタイプですね」


そしてパオゴローは魔王のことを睨みながらこう尋ねる。


「正直に答えてください、魔王とメーサブロー。この世界のゾウを絶滅させたのは本当は誰ですか?」


「・・・何が言いたい、パオゴロー」


「そうですね、例えば・・・。『ゾウがトラウマのメーサブローの言うことを聞いて、魔王がゾウを滅ぼした』とかですかね・・・」


そしてパオゴローは続ける。


「おかしいと思ったんですよ、ズイファ国王さんは言ってました。この世界のゾウはクゥア王国だけに生息していたのですがある日突然、姿を消したって。そんなこと人間ごときが一瞬でできますか?」


さらに彼は魔王のことをじっと見ながら言葉を紡ぐ。


「・・・よくも滅ぼしてくれましたね。今なら聞こえますよ?仲間達の嘆きの声が」


パオゴローの放った内容を聞いた魔王は深いため息をつき、「女神め・・・。偶然か必然か分からないがよりにもよってこんな面倒な勇者を転生させやがって・・・」と呟きながら天を仰ぐ。


「ならばパオゴロー!力づくで其方のことを殺す!そしてそこの魔法使いの娘も新たなる魔物の素体にするため、息の根を止める!」


闇が包む空に魔王の声が轟く。


するとそれまで大事そうに胸に抱えていたメーサブローを、魔王は丸呑みしてしまった。


「え!た、食べちゃったの!?」


「まだ我の実験は終わっていないのだ!魔物こそが人間よりも支配者に相応しい!」


じきに魔王の姿は変わっていく。


端正な顔がドロドロに溶け、代わりにメーサブローの顔が首から生え、細い体は筋肉隆々となり黒く変色する。


そしてその真っ赤な眼でパオゴロー達のことを一瞥した後、天に向かって咆哮した。


「ど、どうするの!?パオゴロー!」


「・・・最終手段を使います。ユイズさん、例の姿に変化してください」


パオゴローは平静を保ちながらユイズに指示を出す。そして魔王の足元で横になっているギムのことを見ながらさらにこう話す。


「ギムさんのこと、ユイズさんができますか?」


「・・・あの膜がアタシの力で壊せるか分からないけど、やるだけやってみるわ」


この2人は薄々ながらも、魔王がギムのことをあんな膜で守りながら人質に取った理由を分かっていた。


リチェピワは『幹部を全員倒さないと魔王のところにたどり着かない』と話していたが、実際にはギムのことを殺さずともパオゴロー達の目の前に魔王は現れた。


しかし本当にギムの生死が魔王とも関係ないのであれば、裏切り者のギムを真っ先に始末するはず。


となると考えられるのは。


「やっぱりギムさんを殺されるのは魔王にとってもかなり困ることみたいですね」


「そうね、何年も一緒だったアタシが最後はやるわ。じゃないと気が済まない」


こう口にしたユイズは、最後の力を振り絞って体中に魔力を溜める。そしてその動きをすぐに察知した魔王による攻撃が彼女へと襲ってくる。


天に響き渡るほどの咆哮と共に向かってくる、魔王の肉体から放たれた無数の黒い腕。


「ごめん!少し時間かかっちゃうかもだからアレどうにかして!」


「分かりました!」


すぐに走り出したパオゴローは剣でそれを弾いていく。本来、この武器は魂以外は斬ることができない。しかし勇者の腕力があれば向かってくる無数の黒い腕をユイズのところまで届かせないほど弾くというのは可能だ。


「パオゴロー!その娘を寄こせ!魔法使いは天界から堕ちた神の子孫なのだ!その最後の生き残りによって最強格の魔物の素体が作れる!」


「何かサラッと凄いことを暴露しましたけど・・・!だったらなおさらユイズさんのことは守りますよ!」


すると魔王は体をブルっと震わせると口から黒く長い舌を伸ばしてパオゴローの心臓目掛けて飛ばしてきた。


「気持ち悪い舌ですね!」


パオゴローは片手で剣を操作して腕を弾きながら、もう片方の手で舌を掴む。そして同時に背後からユイズの声が聞こえた。


「行くわよパオゴロー!制限時間は1分、これでギムを殺す!あの子の命を無駄にしないで!」


パオゴローが思わず振り返ると、そこにはドヌ王国で見た時と同じ姿になったユイズがいた。


背中にあるおびただしい数の翼をはためかせ、体中からは魔王と同じように数えきれないほどの腕を生やした妖艶な女性。


「じゃあね、ギム!大好きだったわよ!」


ユイズがこう叫ぶと、その腕の先から虹色の光線を放つ。


そしてそれはギムを包んでいる膜に直撃するが、まだ壊れない。


「何よこれ、硬いわね・・・!」


ユイズは無数の手を一つの方向に固め、さらに光線の威力を増す。するとそれを見た魔王が素早く光線の先へと移動した。


「邪魔をするな!魔法使いの娘!」


「ヤバっ!じ、時間的にこれで壊せないと・・・」


ユイズも空を飛び、角度を変えて光線を放つが、魔王はそれにも対応する。


「ちょっと邪魔よ・・・!」


彼女がこう言って唇を噛みしめていると、パオゴローがその膜に僅かな亀裂が入っていることに気づいた。そしてそれを確認するとギムのところへと全速力で走って向かう。


「ユイズさん!時間いっぱい魔王にそれを当て続けてください!」


「・・・分かったわ!」


「どちらもこれで殺す!」


魔王もこう叫び、黒い腕とその長い舌でパオゴローとユイズの双方に攻撃を行う。


それでもパオゴローは自分に向かってくる腕を素早くかわすと、ギムに対して大声で呼びかける。


「起きてください、ギムさん!その亀裂を破って!これを投げますから!」


懸命にパオゴローが叫んだこの声がようやく届いたのか、ギムはゆっくりと目を覚ました。そして震える手で亀裂に爪をひっかけ、そこをこじ開けようと試みる。


「やめろギム!其方は我が生み出した存在だ!・・・ぐっ!」


「アンタこそ邪魔しないでよ!パオゴロー、これでアタシはお終い!後は任せたわよ!」


自分の方向から目を切った魔王の顔面目掛けて、ユイズは渾身の力で光線を放つ。虹色のそれが直撃するとヤギとなっている魔王の顔の一部はただれ、思わず苦しむ。


同時にユイズは変化が解けてしまい気を失って空中から地面に落ちていった。


そんな中、パオゴローは顔を抑えてよろける魔王を尻目に、ギムが開けた穴に剣を投げ込んだ。


「ガウガウガウ!!!」


大きな声を上げたギムは。


「ま、まさか自害するつもりか!ギム!」


勇者から投げられ、隙間を縫って膜の内部に入ってきた剣を手に取ると、穴をさらにこじ開けた後、自ら心臓部分にそれを突き刺した。


同時に魔王が言葉にならない怒号を叫ぶが、パオゴローはそれを無視してでもさらに全速力でギムのところへと走り出す。


そして自らその魂を剣で貫いたギムがゆっくりと倒れ行く中、勇者はギムがこじ開けた穴から膜の内部に入り、ギムの体から剣を引き抜いた。


「これで終わりです。魔王」


そう口にしたパオゴローはギムの亡骸にちらりと目を移す。胸の部分を貫いたはずだが、その体に傷口は無い。やはり魂のみを刺したようだ。


ギムの死を確認した勇者は再び走り出す。


目的は魔王の討伐。ギムの死の影響か、魔王は体が段々と崩れながらもパオゴローのことを拒むかのように攻撃を繰り返すが、彼は動じない。


「さっきから同じ動きばかりですよ。策が無いですね」


そう話すとパオゴローは一気に魔王との距離を詰めると瞬時に背後に回り、腰からリチェピワが使っていた棍棒を取り出した。


「メーサブローは魔物ではありませんから。これが必要です」


魔王がそれを聞いて振り返るよりも前に、パオゴローはその頭を棍棒で殴る。すると肉体からは赤く光る魂が勢いよく飛び出した。


「メーサブロー。人間のことを許してあげるです。人間は確かに面倒でバカでどうしようもないですが、良いところもあるです」


そしてパオゴローは柔和な口調で声を掛けると、それを一刀両断した。

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