第19話
「まったく・・・。いきなり戦闘から始まるなんて。ここは好戦的な魔物が結構いるわけ?」
朝日が差し込む、フィル王国の広大な草原。そしてそこにポツンとある小屋に身を隠しながら魔法使いの少女であるユイズは愚痴をこぼす。
「さっさと退治できたから良かったものの、あそこからさらに援軍が来てたらさすがに手こずってたですね」
小屋の中に残されていたイスに座り、水筒の中に入っていた水を口に含んで勇者パオゴローも答える。そしてその足元には赤いドラゴンのギムが「もうへとへとだ」という顔をしている。
「ギムはドヌ王国からここに来るまでアタシ達を乗せて頑張って飛んでくれたからね。少しここで休みなさい」
「ガウグルウルグ」
「『うるせえ。オレ様はそんなことでは疲れねえ。今からこのフィル王国を走り回ってやるぜ!』って言ってますね」
「強がって発言がバカになるのやめなさいよ、本当に」
ユイズは呆れ声をしてパオゴローと同じように水を飲みながらギムに注意する。そして窓から少し外を確認し、敵が追って来ていないかどうか確認をした。
「それにしてもアタシ達、断崖絶壁に着陸したのによくあんなところにまで警備役の魔物を配置してたわね」
ドヌ王国を飛び立ったパオゴロー達はフィル王国の端へと下りた。ここだと魔物にも見つかりづらい場所だろうと予想したからこその着陸場所だったのだが、警備していた魔物に出会ってしまったのだ。
それでもパオゴロー達に向かって来た魔物を倒すとそこから少し離れた場所にあったこの小屋を見つけて忍び込み、一息ついたところである。
「そうですね。しかもあの魔物達、何と言うか雰囲気が・・・」
ところがパオゴローは先ほどの戦いの中である不思議な感覚を抱いていた。するとギムが2人の方を見て「グウガウ」と何かを伝えた。
「・・・え?さっきの魔物って生まれたばかりなの?」
「やっぱりそうですか。ギムさんも『あいつら、まだまだガキだぜ』って言うぐらいだからそうなんでしょうね」
「生まれたばかりの魔物・・・」
彼らの話を聞き、腕組みをしながらもユイズは外の方を窺う。すると太陽が昇ってきたことによって徐見通しが良くなってきたことで、離れたところからこちらに向かってくる人影のようなものが見えた。
「2人共!誰か来るわ!」
「「!!」」
ユイズの指示を受けたパオゴローとギムは即座に立ち上がり、玄関に体を向ける。
「・・・影はどれくらいの大きさでした?」
「分からない、でもそこまで大きくはなかった・・・」
小屋の中、そしてその周辺は静寂が続いている。しかししばらくすると確かにパオゴロー達の方へと向かってくるような足音が聞こえてきた。そしてそれは段々と大きくなっていく。
「・・・ここが目的なのかもね」
こう話した矢先、ユイズの想像通り扉のドアノブが動く。先ほどの足音の主がここを開けようとしているのだろう。
ガチャ・・・。
遂にそれが開けられ、パオゴロー達の目の前に立っていたのは。
「あや?あんた達は誰だい?」
背中の曲がった、優しそうな顔をした老婆だった。
「・・・アンタ、人間?魔物?」
しかしユイズはその姿を目にしても油断をせず緊張感を保ったまま。強い警戒心を解かずに老婆のことを睨みながらこう口に出す。
「あたしゃ人間だよ?魔物様のはずじゃないか。・・・おや?そこにいるのはドラゴン様だね。そうか、あんた達はそこのドラゴン様のお手伝いさんかい」
「「・・・?」」
老婆の言葉を聞き、パオゴロー達の頭の上にはクエスチョンマークは浮かぶ。特に彼女の発した『魔物様』というワードについて彼らは違和感を覚えた。
ところが老婆の方は首を傾げて顔を見合わせている勇者や魔法使いのことなどどこ吹く風であり、小屋の中にある木箱の中を整理しながら話を続ける。
「ここには何も無いよ、まあドラゴン様の好物の農作物があるかと思って入ったのかもしれないけど。そうそう知ってるかい?ついさっきこの国に侵入者が来たらしいよ?警備兵を務めている魔物様達が全員殺されてしまったって。罰当たりだねえ」
「・・・。そうなんですか!?そんなことがあったんですか!?この近くで・・・怖いですね!」
するとユイズは先ほどまでと声色を一変させ、老婆の話に合わせるような態度を示した。
「それにしてもごめんなさい、おばあちゃん。実はこちらにいるドラゴンのギム様が昨日の深夜、急に『散歩したい』すると今度は『お腹が空いた』って申し上げて・・・。ここに食糧が無いか勝手に入ってしまったのです」
そう言うとユイズは老婆に対して深々と頭を下げた。そしてこの様子を見ていたパオゴローも同調する。
「僕達はこちらにいる誇り高きドラゴン、ギム様の使用人です!その女の言う通り、ギム様のご要望にお応えしようとしたです!でも勝手に入ってすみませんでした!」
彼はこれまでに聞いたことが無いような大きさの声で叫び、ユイズの隣で彼女と同じように頭を下げる。
「(・・・アンタ、空気読めるじゃない)」
「(僕の前世は天才ゾウです。バカにしてもらっちゃ困ります)」
老婆だから小さな音は聞こえないだろうと2人揃って高を括り、小声で会話をしながら。
そしてこの姿を見た老婆は「やっぱりそうだったかい!ところであんたらはどこから来たんだい?」としわくちゃの笑顔で尋ねてきた。
「・・・すみません、実はギム様は色々と訳ありで詳しいことはお話できないんです。だけどアタシ達はギム様に忠誠を誓った身。どこまでもついて行く所存であります!」
「所存であります!」
余談だが、必死になって設定を練って老婆を欺こうとしているユイズとは異なり、パオゴローの方はこの状況を少し楽しんでいる節があるのは秘密だ。
「なるほど。まあ魔物様達も、そして人間達も色んな事情はあるからね。深くは聞かないよ。ただ分かってるだろうけど、この辺りにはそろそろ警備兵の魔物様達が来るよ。早めに移動しないとね」
こう話した老婆は小屋の整理を終えたのか、ここを出て行こうとする。そしてそれを察知したユイズは頭を上げると小さな声で、目に涙を溜め、老婆に向かってこうお願いをした。
「おばあちゃん・・・。一度、おばあちゃんの家に行ってはダメかしら?ギム様に暖かい食事を、できればお慈悲を・・・」
(ユイズさん、スイッチが入ったのか名演技の連続ですね・・・)
さすがのパオゴローも頭を下げながらユイズの言動に感心していた。すると老婆は「ひっひっひっ」と笑いながらこう答える。
「女の涙ってのに騙されるタチじゃないけど、そこまでしてドラゴン様に尽くそうってなら話は別だね。仕方ない、どうせ家にはあたしと魔物様しかいないからついて来な」
こうしてパオゴロー達は老婆について行くことになったのだが・・・。
「(・・・魔物がいる家に行くの?)」
「(そうらしいです。でもその流れを作ったのはユイズさんです。僕は知りません)」
ギム・・・様と共に道を歩くパオゴローとユイズは、再び老婆に聞こえないような声で、これから先のことについて一抹どころの騒ぎではないレベルの不安を感じていた。
◇
「リチェピワ女王陛下。昨晩の侵入者について報告が来ておりまス。どうも人間の男性・人間の女性なのですガ・・・」
「口ごもって『なのですガ』ってどうしたのゥ?気になることでもあったァ?」
「それがそノ・・・。赤いドラゴンも一緒にいたようなのでス」
「あらァ。多分それはギムちゃんねェ。さすが幹部だわァ。それにしても新しい勇者は楽しみねェ。前の子はこのリチェピワのことォ、嫌いだったみたいだからァ」
フィル王国の都市部にある宮殿。そこではこの国を支配している魔物の女王が、不気味な笑みを浮かべていた。




