第13話
「・・・というわけで君の手下のライシさんや、その他大勢の人間に化けて洞窟にいた魔物は僕が倒しておきました」
「ちょっと待テ。説明が足りなさ過ぎるだろウ」
胸を張って戦績を自慢する前世がゾウの勇者・パオゴローの目の前にいるのは、真っ白で巨大なケルベロスであるガオノスケ。
そしてその足元には、このドヌ王国における正統な君主・ウィーポに仕えている侍従長のはずだった初老男性・ライシの死体が転がっている。
「それにしても・・・。まさか自分で殺した人間の皮を被って化けるだなんて凄いことしましたね。前世がゾウの僕でもちょっと引きます」
パオゴローはゆっくりとガオノスケの方へと歩み寄ると、作戦における囮として使われていた魔法使いの少女であるユイズが彼に声をかける。
「・・・全員殺したの?」
「はい。やっぱりあの洞窟にいた人間は全員が魔物でした。違ったのは僕の腰にへばりついているこのウィーポ国王さんだけでしたね」
顔を正面に向けたままパオゴローとユイズは言葉を交わす。同時にユイズは「そう・・・」と小さな声で呟いて彼の腰に目を向けるが、そこにいるウィーポは、太っている体をガタガタと震わせながら必死にしがみついていた。
「み、みんな偽物だった・・・。ライシも人間じゃなかった・・・。な、なんて惨たらしい・・・」
そんなウィーポ国王を横目にガオノスケはパオゴローに対して質問をする。
「どのようにして殺しタ?報告にあったがその剣を使ったのカ?」
「やっぱりライシさんから色々と話を聞いてたですか」
お互いに様子を窺いたいという狙いもあるのか、両者は今の距離をキープしながら言葉を交わしていく。
「魔物の死体の皮を剥いだらその下には泥人形みたいなのがいましたね。君のことも殺す前に聞きたいのですが、どうしてあの魔物はライシさんの記憶をそのまま知ってたですか?」
パオゴローは疑問を抱いている。確かに初めて会った際から彼はライシだけでなく、ウィーポを除いた洞窟内の人間達の雰囲気に違和感を抱いていた。そのために必要以上のコミュニケーションを取ろうとしなかったのだが、それでもどうしてもライシとは会話する機会は多かった。
そしてあのパオゴローですら気味悪がったのはここに原因がある。
どうも侍従長であるライシとの会話内容に不可解な点は無い。それに魔物独特の片言な喋り方でもない。おまけにこのドヌ王国の過去やウィーポへの気持ちというのは、その時の思い付き等では到底話せるような感じではないとパオゴローは思ったのだ。
するとガオノスケはその3つの首全てで満面の笑みを浮かべてこう答えた。
「あの魔物の種類はゴーレム、それとあいつらは皮の内側についていタ、その人間の遺伝子を吸収して記憶や振る舞い方を復元・再現できるらしイ。そういうのには長けているからナ」
「・・・なるほど。じゃあ遠慮なく殺せてこっちも良かったです。ちょっと変な情も湧いたんですよ?どうしてくれるんですか」
「ハッハッハ!まあ良いだろウ。ついでだがこちらもお前に聞きたいことがあル。・・・あれだけの魔物を1人で殺したのか?しかも傷一つ負わズ?」
「当たり前じゃないですか。何ならちょっと時間余ったぐらいですよ。だからユイズさんと君の会話を聞いていたんです」
こう言うとパオゴローはまだ腰にしがみついているウィーポに向かって「そろそろ離れてください。ユイズさんの方に行けば大丈夫です」と声をかけてガオノスケに攻撃をしようとしたのだが・・・。
「・・・あの。本当にもう離れてくれませんか?」
ウィーポはまだユイズのところへと向かおうとしない。それどころか震えながらもガオノスケの方を睨みながら「・・・おい、そこの化け物・・・」と口を開いた。
「ラ、ライシのことはいつ殺した!あの洞窟の中にいた、魔物が被っていた人間の皮はどうやって手に入れたんだ!」
「ちょ、ちょっとウィーポさん・・・」
パオゴローは変わらぬ体勢でガオノスケに向かってこう叫ぶウィーポに困惑するが、彼は決して離れようとしない。
「どうした!答えろガオノスケ!」
「・・・知らなイ。あのゴーレムはいつの間にか人間の姿に化けて俺のところに来たからナ。それに自分以外の魔物が人間のことを殺した時期なんて知ってるわけないだろウ」
そしてガオノスケは自分の右前足を少し上げ、器用に爪を使い、ウィーポのことを指さしながらこう続ける。
「そもそもお前は何のためにそこまでぶくぶくと太ってるのか分かってるのカ?・・・お前には魔法使いの血が流れていル、恐らく僅かだがナ。それでも良い味にはなるだろうと思イ、目一杯肥えさせて食べる予定だったんだヨ。洞窟はお前の味を熟成させるための場所サ」
「き、貴様・・・っ!」
なおもガオノスケのことを睨んでいるウィーポだが、さすがにパオゴローは我慢の限界を迎え、彼の服を掴むと後ろにいるユイズの方へと放り投げた。
「ユイズさん。彼のことをお願いします。念のために防御できる魔法をユイズさんの分も兼ねて展開してください。出来る限りのもので大丈夫です」
「わ、分かったわ」
そしてパオゴローはようやく自由になった手を使い、両手で剣を握り、構える。
「結局のところ君の前世は人間ですか?ライオンですか?」
「俺の前世・・・。それはサーカス団に在籍していた人間ダ。孤独だった俺はライオンのガオノスケと友達だったガ、サーカス団の団長に殺されタ。悪いことなんてしてないのニ」
ガオノスケはパオゴローのことをキッと見つめながら話す・・・が、勇者は何かを見透かしたかのように冷たくこう返した。
「・・・そのガオノスケってライオン、君のことは嫌いだったんじゃないですか?動物的勘ですけど」
さらに、彼は続ける。
「何だか嘘をついてますね。多分悪いことをそれなりにしてきたタイプです」
◇
ケルベロスの姿をしている、このガオノスケという魔物に込められている魂の前世。それは本人が言う通り、あるサーカス団に在籍していた孤児だった。
パオゴローが前世のゾウ時代に生きていた時代から数十年ほど前の日本。彼の両親は相次いで病死し、幼い身にして孤独となった。そんな境遇を見かねた近所の親戚に保護されていたのが、その知人に移動サーカス団の団長がおり、ガオノスケの前世である少年はほどなくしてそこに在籍することとなる。
サーカス団の大人達は愛情を持って彼のことを育てた。十分な教育も与えたし、サーカスにおける技術も教えた。運動神経の良かった彼はパフォーマーとして生きる道を得たのだ。
しかし先ほどのパオゴローの発言は当たっていた。
彼の心の奥底には生まれ持っての、濃い“悪意”が存在していた。もちろん誰しもが善意のみを持っているわけではないが、彼の場合はそれを抑えることができなかった。
最初は小さなイタズラをする程度だった。サーカスに使う備品を弄ったり団員にちょっかいをかけたり。ところが、それは段々とエスカレートしていく。さらに彼自身の肉体も成長するにつれて、そのイタズラの度合いは強まっていき、深刻に被害を訴える者も出てきた。いつしか彼はサーカス団の抱える大きな問題となってしまったのだ。
それでもサーカス団に在籍していた彼だが、20歳を目前にしてイタズラの主なターゲットとなったのは、そこで飼育されておりショーにも出演していたライオンに移った。大人しく臆病だったこの雄ライオンの名前こそが“ガオノスケ”なのである。
ガオノスケはサーカス団から大切に飼育されていた。それに賢く、ショーの人気者だった。
彼はそのガオノスケを勝手に友達として認識していた。しかし危険やガオノスケへの悪影響を承知しておきながらも、檻に入っているそのライオンに対して様々なイタズラを行っていたのだ。それは他の団員や親代わりだった団長から幾度となく注意を受けながらも。
そしてとうとう事件を起こしてしまう。
ガオノスケは彼から受けていた度重なるイタズラをストレスに感じて死んでしまった。これによって彼は批判の対象となり、積もりに積もったそれまでの不満も他の団員からぶつけられた。
さらにこの影響で、サーカス団は公演をいくつか中止せざるを得なくなってしまった。
そしてある日の夜。肩身の狭くなった彼は、居場所を失ったサーカス団からひっそりと抜け出した。
「そもそもあんな酷い環境でガオノスケを飼育していた方が悪い。俺は悪くない!」
彼は愚痴りながら夜道を歩く。
「ガオノスケは俺の友達だった。死んだのは俺のせいだけじゃないだろ!」
ガオノスケの死の責任を他者に擦り付けて。
「・・・俺だけのせいにした奴を許さない。ガオノスケを殺した奴も許さない・・・!」
しかしこう言った矢先。
「え?」
突如として脳内に響き渡った鈍い音と鈍痛を感じた後、薄れゆく意識の中で、彼の視界には自分を育ててくれたサーカス団の団長の顔が映った。
『お前のせいでサーカス団はめちゃくちゃだ。しかもこんな逃げ方しやがって』
この言葉を聞き終えるかどうかのところで、彼の意識は失われ、その人生は幕を下ろした。
◇
「・・・君の話が頭に入ってこないんですよね。ところで君の前世の名前を教えてくださいよ。ガオノスケはライオンの名前でしょう?ややこしいですよ」
「忘れたヨ、もう俺は魔物ダ。そしてここでライオンのガオノスケの無念を晴らすのダ!」
するとパオゴローはそれまで構えていた剣を腰に戻す。
「ちょ、ちょっと何やってんのよパオゴロー。それでさっさと倒してよ!」
ユイズはこう叫ぶものの彼は聞く耳を持たない。そしてその様子を見たガオノスケもその3つの首全てで怪訝そうな顔を見せるが、パオゴローはそれを見つめながらこう口にした。
「ガオノスケ。僕の前世は人間に飼われていたゾウだったので、同じように人間に飼われていたライオンの気持ちも少し分かります」
そう話しながら前方へと歩みを進め、距離を詰める。
「何が言いたイ?」
そして目と鼻の先にガオノスケがいる位置でパオゴローは足を止めて拳に力を込める。
「多分ガオノスケは生きている頃、君のことが嫌いだったと思います。そして勝手に名前を使って身勝手なことをしている今の君のことも嫌いだと思います」
「何ヲ・・・グフッ!」
顔を近づけてきたケルベロスの、真ん中にある首をパオゴローは思い切り殴った。
「何か君の顔を見ると僕も腹が立ってきました。思い切りボコボコにします」




