第2.5-2話 桜木美桜の心境(2) その後の教室。
こんな時でも、時間は等しく平等に流れ続ける。
充分に自分がしてしまった事を後悔する時間すら与えられず、大切な人を守れなくて泣き崩れる自分を何とか奮い立たせる猶予すら与えられない。
大河が教室を出た後‥私が動けなくて固まっている間にもクラスの皆は次々に好き勝手に彼に酷い言葉を投げかけていた。
「俺たちあんなクズと今まで仲良くしてたのかよ‥本当に人は見かけによらないもんだな」
「麗奈がかわいそうすぎる‥。それに美桜も大丈夫?‥まあある意味美桜はよかったのかな?あんたも最低野郎に弄ばれる所だったかもしれないしね」
クズだの最低だの、何でついさっきまで笑い会っていた友達にそんな事が言えるんだ‥っ。
この調子だと、大河がスマフォごと鞄を昨日置き忘れてたという事も忘れているんだろう。
覚えていたとしても、スマフォだけは持って返っていてあたかも鞄から取り出したように見せかけた等といくらでもいいようはある。
クラスの皆はもうすでに大河の完全な敵だ。
分かってるよ?皆は悪意で言ってるんじゃないって事。私の為に怒ってくれてるんだという事は。
もし私が彼の幼馴染で恋人じゃなかったら、今の状況ならおそらく彼らのように勘違いすると思う。
でも‥それでも‥っ。こんなの酷すぎるよ!
辛い事が起きすぎると返って人は少し冷静になれるみたい。私は、まだ溢れ出る涙を拭いながら皆に抗議しようとした。
「待っ--」
言いかけたその時だった。小柄な女の子がビシッと手を挙げた。
「あの!少しいいですか?」
委員長の立花さんだ。とても真剣な表情で彼女にしては大きな声でクラスの視線を集める。
「み、皆さん一旦落ち着いてください。それで、私も一度冷静に考えてみたんですけど今回の事はやっぱり警察に相談するべきだと思います。八神くんと斎藤さんが正式に付き合っていた頃のえ、えっちな写真はともかく、別れた後も本当に襲おうとしたのならば、それは立派な犯罪だと私は思うのです!!」
立花さんの言っている事は正しいと思う。というより絶対警察に相談するべきだ。
どこまで本気で取り扱ってもらえるのだろう。麗奈ちゃんの証言からすると当日まで恋人だったというのだから真剣に取り合ってもらえるのだろうか。
勿論私は警察のお世話になったこともないし、特にそんな知識もない。
私は実際に動画を見た訳じゃない。加減によっては学生カップルのただの痴話喧嘩だと処理されてしまうような内容かもしれない。
それでも少なくともこのまま大河が犯罪者扱いされるより、ちゃんとした場所で、無実が証明される可能性があるなら私はそれに賭けたい。
というか大河は無実なのだから、きちんと証明されるべきだ。
「わ、私もそう思う!大河はそんな事する人じゃないよ!だって‥だって‥誰よりも優しいって事私は知ってるもん!!昨日は私と一緒だったし!!」
やっとだ‥何とか嗚咽しながらも言葉を振り絞れた。
先程まで一言も話せなかった私が、声を出した事でみんなが驚いているのが分かる。
でもすぐにみんなの視線が同情に変わった。
「可哀想に‥美桜ちゃん。こんな事があってもまだアイツの事信じてるんだな‥」
「美桜‥あなたは騙されてたのよ。大丈夫。今は混乱してるだけ。あとの事は私達クラスメイトに任せて」
違う。騙されてなんかない!お願いだからちゃんと聞く耳を持ってよ!
「と、とにかくっ!本当に八神くんが酷いことをしたのかどうか客観的に調べてもらう為にもですね。あのっ?みんな聞いてますかっっ??」
あまり私達と関わりのない立花さんでさえも、この雰囲気の中積極的声を挙げてくれている。
それなのに‥恋人の私が頑張らないわけにはいかないっ!
「みんなお願い聞い--」
「‥警察に相談する必要はないわ」
そこで私の声を妨害するかのように声を挙げたのは麗奈ちゃんだった。
この場で1番の被害者だと思われているのは麗奈ちゃんだ。私の声は無かったかのように掻き消され、みんなが彼女の次に発する言葉に注目する。
「‥私としては、皆んなの前でアイツの本当の姿を暴露できただけで充分だと思ってる。それと一度はあんな男でも好きになった事は事実だしね。あまり大事にしたくないの。‥悔しいけどまだアイツを許してあげたい自分もいるのよ‥」
そう涙声で訴える麗奈ちゃん。
やられた‥私は言葉を失ってしまう。
この子、自分の今の立場を完全に理解してる。彼女は相当な策士だ。
周りから見たら彼女は恋人に捨てられた上に暴行を受けそうになった悲劇のヒロイン。しかもそんな誰が見ても可哀想な女の子はクラスでの人気者だ。
「だから私はアイツに取られた写真も動画も今ここで全部消そうと思う」
待って。
それは絶対ダメだ。警察が本気を出せば動画とかを復元出来るとは聞いた事がある。でもただでさえちゃんと捜査してくれるのかも怪しいのに、そんな事したら絶対ダメだ。
麗奈ちゃんは泣きながら‥おそらく名女優さながらの演技をしながらスマフォを操作し始めた。
「おい‥本当にそれでいいのか‥?まあ本人がいいならそれでいいけどよ。」
「麗奈‥何て優しいの‥。こんな事されてまだあのクズの事を庇うなんて‥」
その瞬間私の中の何かが、プツンと切れた。
麗奈ちゃんは、その女は‥友達だと思っていた裏切り者は大河を決して庇ってなんかない。
ふざけないでよ。ほんとうに‥もう‥ふざけるな‥っ。
いい加減にしてよっっっ!!!
「だめええええええええ!!大河は何も悪い事してない!!昨日だって放課後はずっと私と一緒にいたんだよ!?!?
騙されないでみんな!!麗奈ちゃんは、その女は最初からずっと嘘をついてるんだ!!やめろおおおおおおおお!!」
これまで出した事もない大声を上げながら麗奈ちゃんに向かって走り出す。
こんなに他人に対して怒りを覚えた事はない。怒る事すらいつぶりだろう。
何で私はもっと早く彼の為に声を挙げれなかったんだろう。既に取り返しのつかない所まできているのは分かってる。
だけど‥まだ‥っ!こんな私にも出来る事はある!!
必死に私が手を伸ばし、嘘吐き最低女からスマフォを奪える寸前まで来たその時
私は後ろから突然誰かに取り押さえられた。
「離してええええ--!?」
「落ち着け!!美桜!!大丈夫だから!!お前は混乱しているだけだ。な?今はゆっくり休んだ方がいい。おい女子!ぼーっとしてないで美桜を一緒に押さえつけてくれ。」
「「う、うん!!」」
凛人?何で??
頭の良い凛人なら動画を消されたら、大河の立場がもっと悪くなる事分かってるよね??
私は取り押さえられて声が出せない中、心の中で大河に謝罪する。
(ごめんね‥大河‥。私やっぱり何もできなかったよ‥。)
地面からかつて友達であった斎藤麗奈の顔を見上げると、少し口角が上がった気がした。
この女‥
「むぐうう--離してっ‥!!大河は私のもんだああああああああああああああ!!!!!!」
その後先生達が騒ぎに気付いて駆けつけるまで、私はただ泣き叫ぶ事しか出来なかった。
《読んで下さった方へのお願い》
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非まだの方ブックマーク登録、評価、レビュー、いいね等をして頂ければモチベーションが凄く上がります。
評価は↓に☆がありますのでこれをタップいただく事で出来ます。
頂いたコメントは全て目を通しております。いつも読んでくれてありがとうございます!




