第20話 お店の存続危機!?
コロナから無事生還したので執筆再開します!待ってくれてた方々すいません。
「えええ〜ここがたいがのオススメの店なの〜?結構歩いてきたのに、なんか色々ヤバそうなんだけど‥‥」
銀蔵さんと美羽さんの店に来て、そんな事をいきなり言い出したのは柚希だった。まあ、気持ちは分かる。俺も初めて来た時は入るのを躊躇したしな。
「柚希知らんのか?外汚い店は料理めっちゃ美味しいってのは定番なんやで!私は基本王◯しか行かんから知らんけど」
「あっ、それ私もよくテレビで見た事ある!大河がオススメするんだから私はここがいいな」
「入ったら意外と中は綺麗だから安心してくれ」
ドアを開けると、やはりと言うべきか客らしい姿は見当たらなかった。それどころか美羽さんが椅子に座って心ここに在らずと言う感じで天を仰いでいた。銀蔵さんの姿は厨房の奥にいるのか見当たらない。‥っておいおい、この店大丈夫か?
「あはははは!店員さん寝てるじゃーん。やばすぎい」
「寝てるんか‥?寝てるってより気を失ってるというか、なんというか」
等々力がそう言うように、俺も寝てるのは流石に予想外だった。もしかして定休日とかだったか?寝てる所を起こすのはもうしわけないのだがとりあえず起こす事にする。
「美羽さん?」
「‥‥」
「おーい、美羽さーん!!」
「‥‥んー」
肩を少し揺すると、美羽さんはようやく目を開けてくれた。しばらく呆然としていたが、ハッと俺達の姿を見て途端に慌て出す。
「あれ‥君は‥大河くん!?また本当に来てくれたの!?しかもその後ろの可愛い女の子達は‥‥まさか大河くんが連れてきてくれたの!?」
「はあ、一応。てか大丈夫ですか?物凄い顔してましたけど」
俺がそう言うと美羽さんは何故か目をうるうるさせて、何を感極まったのか急に抱きついてきた。
「うう‥‥大河くうううん!助けてええええええ!!」
「え!?ちょ、美羽さん!?」
訳も分からず強く抱きしめられて戸惑う俺。こんな時でも何とは言わんが柔らかい感触が気になったり、いい匂いがするなあとか気になっている俺が我ながら情けない。
「な、なな、ちょっと待ったあああああ!大河は私の彼氏なんです!!離れて下さい!!」
今度は美桜が強い力で俺を美羽さんから引き剥がして、まるで私のモノだと主張するように後ろから抱きついてきた。
嫉妬してくれている美桜がとても可愛いくてこちらも抱きしめ返したいが、今はあまりにも様子がおかしい美羽さんの事が気になる。
前に一度会った時は、年上の綺麗なお姉さん感のあった美羽さんが今は見る影も無く泣いている。力無く「いきなりごめんね‥」と言う姿は酷く痛々しい。
「おい美羽どうした!?何があった!?ってお前は確か‥」
「お久しぶりです銀蔵さん。一応客として今日皆で来たんですけど、美羽さんに何かあったんですか?」
「‥‥ああー、すまん。美羽個人に何かあったって訳じゃなくてだな‥‥」
銀蔵さんそう言って頭をポリポリ気まずそうに掻いたあと、次に衝撃的な事を言った。
「このままだとこの店を今年には閉めようと思ってる」
「いやだよおおおおおおおおお‥ぐす‥お父さん‥‥」
「うるせえぞ美羽!客の前だ、しっかりしろ!‥とまあそんな感じだ。俺が死んだ妻に変わってこの店を何とか継続したかったんだがそろそろ限界でなあ。今はまだ自分でいうのも何だが俺の前の稼ぎが良かったから何とか運営出来てるが正直この店は大赤字なんだ。借金なんかして、一人娘に迷惑かけるような事なんかしたら死んだ妻に顔負けできねえからな‥。すまねえなあせっかくツレと一緒に来てくれたのにこんな辛気くせえ話して。今年いっぱいはやるつもりだから遠慮なく注文してくれ」
銀蔵さんに席に案内された俺たちの顔は暗い。美桜達は皆優しすぎるくらい優しいから、初めて会った人達の事情なのに心を痛めているんだろう。何やかんや楽しみにして来てくれたのに、まさかこの店がこんな状況になってると思わなくて連れてきた事を申し訳なく思う。
銀蔵さんが言った事‥つまり客が来なさすぎて経済的にキツくなる前に閉店って事か。確かにこの閑古鳥状態がずっと続いてるならそうなるのも仕方ないだろうな。理屈は分かる。親としては当然の判断だろう。でも‥‥
「ごめんね‥ぐす‥大河くんが彼女とお友達の皆もせっかく連れて来てくれたのに‥‥私がこんなんで‥ひっく‥みんな、注文決まったら言ってね?」
美羽さんのこんな表情を見たら、やはり心が痛む。別に仲が良いわけでもないし、一度店に来ただけなのだがあの時食べた味に俺は救われたのだ。冤罪を受け、そのせいで詩音と紬との関係も悪くなり偶々この店に辿り着いただけ。味も特別美味かった訳でもないのだが、それでも父さんの懐かしい味がして少しだけ荒んだ心が洗われたような気がした。俺の中ではもう、それだけで美羽さんと銀蔵さんは大切な側の人間なんだ。
出来ればそんな店を俺だって潰してしまいたくない。
「どうにか、店を畳まない方法はないんでしょうか?何か俺に出来る事ありませんか?」
俺みたいな金も能力もないガキ一人同情した所で何も出来ないかもしれない。それでも聞かざるを得なかった。
「私がお客さんを店の前で引き込むっていう方法も何度もお父さんに言ったんだけど、お父さんが負担がかかりすぎるって許してくれなくて‥。それにここらへんは治安が悪いから危ないって‥」
店員が美羽さん一人ってのがそもそも異常なんだよな。いや小規模の店なら一人も普通なのか?どちらにせよ客を呼び込むとしたら愛想がよくて美人の美羽さんに頑張ってもらうしかない。そうなると、ウエイトレスの美羽さんの代わりに
なる人物がいれば売上も上がると思うんだが。
「銀蔵さん一つ質問が。この店ってバイト新しく雇う余裕ありますか?」
「ん?まあ金があるうちに店畳もうと思ってるから今はまだ余裕があるぞ。だがなあ、誰もこんなボロい店で基本は働きたがらねえし、働きたいと今までウチにきた奴は全員美羽目当てだったんでなあ‥‥」
「なら、もしよければ俺をバイトで雇ってくれませんか?」
ちょうど家にいる時間を減らしたくてバイトをしようかと悩んでいた所だった。俺には美桜という大切な彼女がいるし美羽さんを狙うつもりも勿論ない。
美羽さんが俺の言葉に目を輝かせて是非と言いたげだったが、銀蔵さんが心底申し訳なさそうな顔をする。
「ありがとうなあ、坊主。でもな‥お前が入ってくれてもここらへんは治安が悪いんだ。お前が店の中で働いてくれるとしても、客が来たら一人だと対応で手一杯になる。美羽を一人外で呼び込ませるのはやっぱり忍びねえんだ。バカな奴だけど俺にとっちゃ何よりも大切な娘なんだ」
‥ダメだったか。確かに一人増えた所で美羽さんが変な輩に絡まれていても対応しきれないかもしれない。大切な一人娘を1%でも危険に晒したくないという銀蔵さんの想いも分かってしまう。
どうしたものかと悩んでいた時、等々力がハッとしたように手を挙げた。
「おっちゃん!なんや話聞いてたら働けて且つボディガードも出来るバイトが、八神ともう一人おったら何とかなりそう??」
「ん?まあそう‥だな。バイト代も多くは出せないが今のところは問題ねえ」
「じゃあ私のお兄ちゃんはどうや?丁度ニートやし、今も多分家でアニメ見ながらポテチ食っとるし!」
アホか、その紹介で何で採用されると思ったんだよ!銀蔵さんも同じ気持ちなようで顔をしかめている。
「お嬢ちゃん‥気持ちは嬉しいけど--」
「ち、違うんです銀蔵さん!コイツがアホなだけで!コイツのお兄さんは喧嘩はマジで最強でめっちゃいい人なんです!女性関係は知りませんが多分硬派なんで美羽さんにも手は出さないと思います!」
「アホってなんやねん!!そうやでおっちゃん!何なら私だっていつでも力になったんで?美羽さんは美人さんやけどお兄ちゃんなら安心やで?たまにこそこそ見てるAVからしてお兄ちゃんが好きなタイプはきっとロリ巨乳やもん!
「わーーー!わーーー!もう喋るなお前は!!あの人のそんな特殊な性癖聞きたくなかったわ!!!てかそんなん聞いたら美桜と柚希を龍次郎さんに合わせられねえよ!!銀蔵さんすいません、コイツの話は抜きにしても、お兄さんはマジでいい人なんで信用して大丈夫です!コイツアホなんで!」
「プークスクス!やっぱり茜ちゃんさいこー!あ、おじちゃん、私も人手足りてないなら働いてあげてもいいよー?どうせ帰宅部だし、たいがと働くと面白そうだしー!」
「銀蔵さんと美羽さん‥でしたよね?それなら私だって部活がない時は大丈夫ですよー?大河がお世話になった人のそんな事情聞いちゃったら、もう他人事と思えないですし。‥それに大河が美羽さんに惚れたりしないかどうか『彼女』の私が監視しないといけないですし!」
龍次郎さんの性癖とかマジで聞きたくなかったわ!てか妹のお前がまさに一番龍次郎さんの性癖ブッ刺さってんじゃねえか。一緒に暮らしてて大丈夫か?
柚希はあんな感じだけど、本当は困ってる人の力になりたい優しい子なのは知ってる。美桜もやたらと「彼女」の部分を強調していた気がするが柚希と同じでどこまでも優しい。等々力だって言わずもがなだろう。
本当に、俺の大切な人間はいい奴ばかりだ。
俺たちの言葉にしばらく銀蔵さんと美羽さんが目を丸くしていた。さすがにお節介がすぎて引かれただろうか?
「なんで、お前らはあまり知りもしない俺らにそんな良くしてくれるんだ?」
「大河くん‥みんな‥‥‥」
美羽さんは嗚咽しながら泣いており、銀蔵さんは信じられないと言うように聞いてきた。
ああ、そういうことか。確かに疑問は最もだ。俺は前に少なからず救われたという理由があるが、美桜達にはそんな理由なんてない。
「俺は色々あって、前にこの店の味に少し救われたんです。だから恩返しがしたい。コイツらは‥そういう奴らなんです。ただのお人好しっていうか‥本当にいい奴らなんです」
俺がそう言うと、美桜が頬を少し朱に染め、柚希が照れ臭そうにそっぽを向く。等々力だけが何故かドヤ顔だったので突っ込もうと思ったがやめた。
銀蔵さんと美桜さんが深く頭を下げたからだ。
「ありがとう。恩に着る」
「みんなありがとう‥‥。私どうしてもお母さんとお父さんが守ってきた店を守りたくて無理言っちゃった‥ごめんね」
「いやいやいや‥頭を上げて下さいって!」
「そういう訳にはいかない。お前らとの出会いがなかったら家族みんなで大事にしてきた店を諦めちまう所だった。けどもう一度お前らのおかげでがんばってみようと思えたよ。本当にありがとうな」
まさかここまで感謝されるなんて思ってなかった。無償で働くならまだしもお金貰って働く訳だし‥。それに俺は勿論の事、おそらくこの場にいる皆が初バイトだ。少し荷が重い気はするが、ここまで感謝されたんだし何としてでも二人の大切な店を盛り返したい。
美羽さんや美桜達の可愛さで客をいかに引き込めるかが肝心になってくるだろう。
銀蔵さんと相談し、もう少しで始まる期末テストが終わって夏休み前くらいから働かせてもらう事になった。
ぐうー
穏やかな空気になったからか、どこからともなく気の抜けるようなお腹のなる音が。
「ぷっ、八神お腹鳴ってるやん!恥ずかしっ」
「いや、俺じゃないから!どうせ柚希だろ?」
「あー!私じゃないもん!」
「あの、わ、わたし‥‥ごめん。話がひと段落したみたいでお腹減っちゃって‥‥」
そういって顔を真っ赤にしながら手を挙げたのは美桜だった。
か、かわええ‥‥。思わず抱きしめそうになった所を美羽さんに先を越されてしまった。猫可愛がりされて、あうあう恥ずかしそうにしている美桜を見てると変な気持ちになりそうになるのをグッと抑える。
美羽さんの元気が戻ったようで何よりだ。
「可愛いいいいいいい!この子が大河くんの彼女なんだよね!?お姉さんキュンときちゃったなあ。ねえ大河くん、この子私にちょうだい?」
「絶対あげません!!」
「うわ!?マジじゃん!よかったね美桜ちゃん、しっかり愛されてるよ!てかお父さーん?今日くらいは皆の為に私達が無料でご馳走するってのはどうかな?」
「おう!それくらいお安い御用だ」
「ほんまか!?ええんか!?」
「やったー!!美羽ちゃん、おじちゃんさいこー!!」
まさかの無料飯‥。高校生にとってはありがたすぎる。メニューを頼んだ後、どうせ今日はもうお客さん来ないからと開き直った美羽さんを含め、ワイワイと過ごした。




