第18話 全てを知る茜。不穏な空気
その後のクラスの雰囲気はまさに最悪だった。
授業が始まれば表面上はピリピリとした空気が一旦落ち着く。しかし休み時間になれば凛人と麗奈に暴言が飛び交う。
その度に等々力や、珍しく遅刻してきた委員長の立花が何事かと止めに入ったが彼らは聞く耳を持とうとしない。
真田のような普段から存在感を放つグループだけじゃない。須藤のような普段大人しいタイプの性格の奴らまでもが二人を追い出そうとしていた。
奇妙な事に、クラス普段関わる事のなかったグループ同士が共通の凛斗と麗奈という敵を得た事で団結している。
その中心にいるのが、今日まで存在感を消していた須藤。
俺が冤罪に巻き込まれた時が可愛く思える程、凛人と麗奈に対する非難の勢いは凄まじい。
やっぱりおかしい。俺は確かに皆とできるだけ仲良くしようと普段から心がけていた。だが、そんな俺でも凛人と麗奈以外で友達とまで言えるのは数人ほどだ。
俺と友達だった真田や美桜の友達は分かる。彼らなりに罪悪感を感じて二人を追い出そうとしているのだろう。
だが他の連中はどうだ?いじめる事自体を楽しんでいるかのようにしか見えない。
事実ちらほらと嬉々とした笑みを浮かべカオスな現状を楽しんでいる奴ら、混乱に乗じて可愛い女子と仲良く会話しようとしている男子もいる。
俺の冤罪が証明された後の皆の謝罪もやはり上っ面だけのものだったのだろうか。ここまで酷いものを見せられると、どうしてもそう思わずにはいられない。
それどころか、新たに次の虐めの標的を見つけたくてウズウズしていたのかと邪推してしまう。
無論凛人と麗奈に肩入れするつもりはない。少し冷静に考えて見れば、今の状況をざまあみろという感情がないと言えば嘘になる。もっと正直に言えば、少なくとも俺と同じ程度には傷を負って欲しいと思っている。
だがそれを置いてもこのクラスの雰囲気は気持ち悪い。俺が冤罪を受けた事実を利用して、いじめを娯楽にしているとしか思えない。
本来なら俺が晴らすべき恨み。なのに、こうも他人が動いている事に違和感を感じる。
だからといって俺は何をする?止めに入る義理もなければそんな事あの二人の為にしたくもない。
下手にクラスメイトの連中ともう関わりたくもないのだ。まあ、須藤が何を思って俺の為にこんな事を率先してやってくれているのかは興味がある。
‥いや、そもそも本当に俺の事を知っているのか?ここまでしてくれる程仲が良かったなら、俺が須藤の事を忘れる訳がない。それに美桜の事も知っている口ぶりだった。肝心の美桜に聞いてみても須藤の事をよく知らないみたいだが。
当然須藤本人に聞いてみたが、「別に覚えていなくても問題ないよ」と言うだけで教えてくれないのだ。
「‥八神?聞いてる?約束通り全部話してや」
「ん?‥ああ、悪い。そうだったな」
どうやら相当考え込んでしまっていたようで、何度目かの等々力の言葉でようやく話しかけられている事に気づく。時計を見ればもう昼休み。授業の合間の休憩時間より遥かに長い。確かに話をするなら今だろう。
まずは他の事より等々力にこの状況を説明するのが先決だ。俺の側には美桜が既に来ており、目が合うと真剣な面持ちで頷いた。
「私も参加させて下さい‥!証人になれると思うので」
席から立ち上がり三人で屋上へ向かおうとした時、立花が声をかけてきた。確かに彼女がいてくれた方がスムーズに説明出来るかもしれない。特に断る理由も無いので四人で屋上へ向かう。
どこか立花はオドオドと緊張しており、いまだに俺に負い目を感じているのかもしれない。前に全くそんな必要はないとハッキリ伝えた筈だが、相当真面目な人柄なんだろうな。
屋上にはいつも通り、昼食を食べに来る生徒がいたがなるべく人の少ない場所を確保する事が出来た。
みんなあまり食欲が湧いてないようだったが、皆が弁当箱を開けた所で話を切り出す事にした。面白い話ではないが、これは俺が話さないといけない話だ。
「等々力。ごめんな?転校してきたばかりで嫌な想いさせて」
まずは謝罪しなければならない。俺は被害者ではあるが、俺が関係している事で転校早々彼女を巻き込んでいる事に違いはない。
コイツの性格だったら、他の学校に転校していればもっとたくさんの友達に囲まれていた事が想像できるから尚更申し訳なくなる。
「いや、それはいいねんけどさ‥。私が来る前に何があったんかはちゃんと教えて欲しい」
等々力はいつもの彼女と別人かと思うほど真剣だ。そんな彼女に俺も真剣に答えようと思う。
俺は全てを等々力に包み隠さず話した。
俺と美桜の凛斗と麗奈との関係、ある日突然その二人から裏切られた事、学校中の生徒からの仕打ち、そのせいで家族との関係にも亀裂が入ってしまった事まで。
俺達が話している間、等々力は一切ふざける事なく聞いてくれた。所々で美桜や立花が補足してくれた事もあり、全てを伝えきれたと思う。
「やから、八神は頑なに友達って言葉を嫌ってたんか‥‥。そりゃそんな事あったら信じられへんようになるのも分かるわ‥‥」
全部聞き終えた等々力は、何か納得したよう呟いた。
そのまま俯いて黙り込んでしまった彼女をみて、俺は自分の鼓動が早くなっている事に気づく。
人なんて簡単に裏切る、と今もそう思っている。これからも俺にとって大事な人間、そうでない人間はしっかり分けていくという生き方を変えるつもりもない。その方が苦しみも少なく楽に生きられるだろうから。
でもそんな今の俺からみても等々力は良い奴だと思う。俺と友達になりたいといつも純粋に好意を向けてくれる。そんな彼女に嫌われたく無いと俺は思ってしまっていた。
なんかこんなに早く自分の決心を揺るがされるなんて思ってもいなかったが、俺にとって等々力はもう‥自分が思うよりも大事な存在になってきているのかもしれない。
勿論今更あんだけ断っておいて口には出さないけど、友達としてだ。等々力はアホの子だし基本空気も読めないし、手のかかる弟みたいな奴だ。
けど‥等々力には言い表し難い魅力がある。新しい友達なんていらない。そう思った俺でも彼女なら大丈夫だと思わされてしまう。
「あの、さ。‥等々力?」
沈黙を打ち破ろうと恐る恐る話しかけようとした時、等々力が急に顔を上げてバッと立ち上がった。
「うおおおおおおおおむかついてきたあああ!めっちゃむかつくうううう!!ほんっま何やねん!!話くらい聞いたれよ!!なんですぐにそんな事信じんねん!!おかしいやんそんなん!!!アホか!!!」
「‥等々力?」
「ちょ‥あ、茜ちゃん?」
「ととと等々力さん?視線がすごい事になってますよ‥」
いきなり叫び始めた等々力に周りの視線がすごい事になっていた。
「ん?ああ‥ごめんごめん。でもさ、叫ばんといられへんかってん」
そう言うとまず等々力は美桜と立花を思いっきり抱きしめた。あまりの予想外の行動に抱きしめられた二人は目が点になって呆然としている。
「美桜、ありがとうな!八神の味方してくれて!愛花!アンタは自分を責めすぎや!あんまりずっとそんな顔してたら逆に八神に失礼やで!」
二人を抱きしめ終えた後、等々力は次はお前だというように、真っ直ぐに俺を見る。そして何の躊躇もなく俺を力一杯抱きしめてきた。
「辛かったなあ‥‥。私は友達を裏切らへんから!絶対に、最後まで信じ抜く。そんでそれでも友達が悪かったら、そん時はしっかり正したる。な?今はしょうがないと思う。やけど少しずつでええから‥。私を信じてくれ」
これでもかと等々力のメロンのような胸に顔を埋められ息が出来ない中でも、彼女の言葉だけはハッキリと俺の胸に届いた。
純粋な彼女が言うからこそ、クサい言葉でも本心で言ってくれているだと分かる。どこまでも真っ直ぐで、シンプルで‥決して語彙力がある訳でもない。
それでも他のどんな飾られた言葉よりも温かく感じる。
家族を除いて、美桜以外の異性に抱きしめられるのなんて
始めての経験。それに今は、すぐ側には恋人の美桜や立花も見ている。
一刻も早く振り解かないといけない事は頭では分かっているのだが、胸の温もりと等々力の優しさが心地よくなすがままに身体を預けてしまっていた。
「もうっ、大河!鼻の下伸ばしすぎだよ?それに‥あれ?茜ちゃんとはあんなに密着しても大丈夫なの??」
「ご、ごめん美桜!これは違うくて!!」
「あっ私もごめん美桜!美桜の彼氏やのについ抱きしめてしまったわ‥‥」
離れようとしない事に痺れを切らした美桜が無理やり引き剥がした事で、俺は自分がとんでもなく恥ずかしい事をしていた事に気づく。間近で見ていた立花の顔も真っ赤だ。
美桜が発作を心配してくれたが、これだけ等々力に強く抱きしめられたというのに身体には何の異常もない。
「全然大丈夫!‥‥みたいだ」
そう伝えると美桜は安心して胸を撫で下ろした。しかしすぐに暗い表情になってしまう。そりゃそうだ。恋人の自分と触れると発作が出る癖に、他の女子なら平気となればいい気はしない。
身体は自分の力ではどうしようもないが、俺は美桜一筋だと言う事を何とか伝えたい。
焦った俺は何とか気まずい流れを変える為に、等々力を利用させて貰う事にした。
すまん。等々力。
「等々力はなんて言うか、女子じゃないから!!」
「ええええ!?私めっちゃ女子やもん!!めっちゃ八神胸に顔埋められて嬉しそうな顔してたくせに!!!
「そ、そんな訳あるか!お前の力が強いから抜け出せへんかっただけだし‥バカ!」
「嘘ばっかり!八神のアホ!エロ!むっつり!!」
小学生みたいな喧嘩をする俺たちに立花が優しく微笑む。立花が笑っているのなんて、ここ最近はクラスでも見た事がなかった。
気づけば周りを笑顔にしている、それが等々力の魅力なのかもしれないな。
「ふふふ、二人とも本当に仲がいいんだね」
「「どこが!?」」
全く等々力と会話しているといつも調子が狂わされてしまう。でも、不思議と悪くない‥てか正直にいえば俺も彼女の元気さに救われている。
「等々力、ありがとな」
自然と感謝の言葉が出た。等々力は一瞬何の事か分かっていなさそうにしていたが、すぐにいつものように無邪気な笑みを見せる。
その後も昼休みの間ずっと暗い表情で何か考え込む美桜だったが、今度二人きりでデートに行く約束をした事で何とか元気を取り戻してくれた。
10万から11万文字くらいで一章完結予定です!
少しネタバレになりますが、一章の佳境の主役は美桜です。




