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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第六章 あやかし まぼろし ゆめ うつつ

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第79話 計算ミス

 花曇りの空の下、ナコイの海風が穏やかに吹いていた。

 早朝の浜辺を訪れる人はおらず、この場に集う四人を歓迎するのはウミネコの声だけだった。

 そのウミネコを、無邪気に追いかけるカミーユ。


「あーっ! もぉー、シルフィードさえ出せれば簡単に捕まえられるのにィー」

「海鳥を食料扱いできるのは貴方ぐらいのものですよ」


 呆れた様子で見守るライナーの背中には、修理を終えた愛器・ローターヒンメルが戻って来ていた。


「血抜きすればちゃんと食えるし……てかミオ姉なら撃ち落とせんじゃね? 首か背中側狙えば可食部分が多く取れてお得だよ」

「私の剣術そんなことに使わせないでよぅ……」


 カミーユと(みお)の無遠慮なやり取りも、(けん)()から見ればありふれた日常である。


(平和だなぁ…………ん?)

「うぎゃあああぁぁぁ――ッ!!」


 突如カミーユの絶叫がこだました。

 皆が一斉に声の方を見やる。砂浜に尻餅をついたカミーユと、すぐそばにぼんやりと佇ずむ長身の女性――ノーラの姿があった。


(あい)待たせた。……はて、そこな童女(わらわめ)。そのような場所に座り込んでは尻が砂だらけになってはしまわぬだろうか?」

「『しまわぬだろうか?』じゃねーよっ!! いきなり目の前に転移(ワープ)して来やがってコノヤロー……ちびったらどうしてくれんだ!?」

「ちびったのか?」

「ちびるかあぁっ!! ものの例えだろうがあぁっ!!」

「そうか。それは安心した」


 ノーラはカミーユの怒声をあっさりと受け流し、献慈たちへ近づいて来る。


「急な出発なのにご足労おかけします。俺の治療の件といい、今回といい……」

「何、我がしてやれることといえばこの程度だ。気に病む必要はないぞ、少年」


 表情こそまるで変化はないが、ノーラの気遣いは充分に伝わってくる。


「気に病むとかではないんですが、転移するのに俺も混ざって平気ですか?」

「マレビトの身体の件か。どれ、調べてみるとしよう。短縮術式(ショートカット)――〈解析(アナリシス)〉」


 ノーラの指先から何らかの波動が発せられたのを献慈は感じた。


「……ふむ。体温や心拍数は問題なさそうだ。身長体重、すりーさいずも把握……それから最重要部位の大きさや形状、膨張率は……」

「え!? ちょ、ちょっと!! それ以上は……」

「参考までにうちのシグヴァルドといい勝負をしているぞ」

「参考とか要らないので!!」


 献慈がいたたまれず声を荒げる横で、澪は顔を両手で覆い小刻みに震えていた。


「なぁに騒いでんの? そろそろ出発しようってば」

「僕たちは準備万端です。いつでもどうぞ」


 カミーユとライナーが駆けつけて来た。


「では我が周囲に集うがよい。排他フィールドを展開するゆえ無駄に動き回らぬようにな」


 ノーラは球形の魔力結界で一同を取り囲み、詠唱を開始させる。


「Ena tizit: ZALY menampe myime-'i seshiny――」

(何だか……身体がふわふわする……?)


 おぼろげとした浮遊感が献慈の身を包み込んだ矢先、


「――kiri tusuriny-l fesa-asi...femizhel!」


 認知力を先回りするスピードで、景色が身体の中を走り抜けていった。




 そこは献慈にも見覚えのある場所だった。

 山あいに伸びた街道の入口付近、キホダトを出てすぐの雑木林だ。


「こんな場所まで一気に飛んで来たのか」

「おー、スゲー……けど、やけに中途半端な場所じゃね?」


 カミーユの言い分を誰も否定しない。予定ではシヒラ川に掛かる橋の手前まで運んでもらうはずだったのだ。

 答えは献慈の足元に転がっていた。


「え……ノーラさん……!?」

「皆の者、すまぬ……霊力を……使い果たした……」

「計算ミスかよ……つか、大人数で転移するの初めてとか? アンタ友だちいなさそうだし」


 カミーユが連続で図星を言い当てる。


「おぬし、なぜ知っている……!?」

「あ、何かゴメン……代わりにコイツが友だちになってくれるってさ」

「……俺!?」

「何と!? 少年……否、我が友よ。かたじけない」

「あ、はい……」


 とりあえず献慈はライナーとともに、ノーラが起き上がるのに手を貸してやった。


「ここまで距離を稼げただけでも有り難いことです」


 仕上げに澪が身繕いを手伝ってやる。


「私たちはいいけど、ノーラさんはこれからどうするの? 消耗したままじゃ帰るに帰れないだろうし」

「大事ない。幸い近くに町もあることだ。回復のため霊泉にでも浸かってから帰るとしよう」


 ノーラは気息を整え、一人で歩き去ってしまった。


「さて、僕たちはどちらへ向かいましょうか? 一旦町へ戻って馬車に乗って行く手もありますが」


 ライナーが提案する意味は献慈にも伝わった。御子(みこ)(ほう)じが頓挫した今、徒歩での移動にこだわる理由はない。


「いいですね。でも馬車賃ってどれぐらいだろ……う?」


 献慈の所へノーラが早足で引き返して来る。


「友よ、頼みがある」

「な、何でしょうか?」

「財布を忘れた……金を貸してくれ」


 馬車での移動は諦めた。

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