お題「カフェ・ご褒美・花」 3
しとしとしと。今日も雨降りです。
花ちゃんは、お父さんのお迎えを待っていました。
お部屋の扉が少し開いていて、風が吹くと雨の匂いが入ってきました。
花ちゃんは、お部屋の絨毯にうつ伏せになって、クラスで一番人気の、水色のリボンを付けた、うさぎのぬいぐるみを弄っていました。
「暇だなぁ。お父さんまだかなぁ」
ため息をついた瞬間、また雨の匂いがして、上から「花ちゃん」と女の人の声が降ってきました。
飛び起きると、髪の長い優しそうな人が体育座りでニコリと笑っていました。
髪には水色のリボンが付いています。
保育園の先生もでもないし、お友達のお母さんでもありません。
花ちゃんが警戒していると、女の人はそっと花ちゃんの小さな手を握りました。
「私ね、花ちゃんに会いたくて遊びに行きたの。少しだけ、一緒にお出かけしない?」
知らない人についていってはいけないのは、お父さんからも先生からもキツく言われています。でも何だか、とても懐かしいような、泣きたいような、離れたくないような…そんな色々な気持ちでいっぱいになって、気付くと花ちゃんは、その人と手を繋いで雨の中、傘を挿して歩いていました。
小さなゲームセンターがあり、花ちゃんが好きなガチャガチャがありました。女の人は百円玉をくれて、花ちゃんはハンドルを回しました。
次に、可愛いカフェに入りました。所々に動物のインテリアが飾られています。花ちゃんはもうすっかり慣れて、女の人に色々な事を話しました。
クラスで仲良しな友達と手裏剣で遊んだこと。
隣の男の子が髪の毛をすぐ引っ張ってきて大嫌いなこと。
さっきガチャガチャした景品の消しゴムは、今クラスで流行っていること…。
女の人は、「うんうん」と、どれも嬉しそうに聞いてくれていました。
「花ちゃんは毎日、保育園楽しいんだね。毎日、頑張って通ってるんだね」
女の人は嬉しそうです。
花ちゃんは、ウェイトレスさんが運んできてくれたホットケーキを美味しそうに口いっぱいに頬張りました。蜂蜜がたっぷりで、ふわふわです。
あっという間に時は過ぎて、辺りは暗くなり始めました。そして気が付くと、花ちゃんは園の絨毯でうつ伏せになっていました。
「ごめん!遅くなった!」
扉からお父さんがお迎えに来ました。
「雨が止んで良かった。途中で花を買おうね」
お父さんが息を切らしながら言いました。
六月十七日。
今日は、お母さんの命日です。
花ちゃんのポケットの中には、ガチャガチャの消しゴムと、蜂蜜の甘い香りが残っていました。




