お題 「坂道・昼休み・ピクニック」1
毎週木曜日、午後の二時。週に一度楽しみにしている事がある。
会社の昼休みに、坂道を下ってすぐにある回転寿司を一人で食べに行く事だ。
寂しい奴だと思うだろうか?
実際のところ、そうでもない。寧ろ満喫している。
自分のペースで、人目を気にせず好きなネタを食べる。人との会話もないので、黙々と次のネタはどうしようかと、頭の中はそれで一杯になって楽しい。
「いらっしゃいませ!お好きなお席へどうぞ!」
女性店員に促され、僕は迷いなくカウンター席の一番奥に腰掛ける。
さて、何を食べよう。今日は鰤が推しらしい。
空きっ腹には少々重いので、まずはコハダかな。
それにタコ、イカ、帆立。
多くの飲食店で、今や主流となったタッチパネルで一皿ずつ吟味しながら注文する。
マイルールとして、一度に三皿以上は置かないことにしている。
カウンターは幅が狭く、隣の席との距離も近いので、侵略しない為だ。
醤油は零れたらすぐに拭く。お皿も綺麗に重ねる。始めから最後まで美しく頂くのが、僕の流儀だ。
そろそろ鰤を頼もうか。稲荷もいいが、腹の膨れ具合とよく相談して…先に好きな鮪をもう一皿…
一人寿司は本当に楽しい。一皿百円と安価なのも魅力的だ。
お茶を飲んで一息ついていたら、新しく女性客が僕の隣に座った。
特に気に止めることも無く、メールの確認などしていた。
数分後、突然、機械の故障かと思われるアナウンスが隣から響き続け、僕は思わず腰を浮かせた。
「ご注文の品が届きます」「ご注文の品が届きます」「ご注文の品が届きます」「ご注文の品が届きます」「ご注文の…」
隣から、次から次へと女性の元に皿が到着していた。
彼女は驚く様子もなく、せっせと陣地に皿を下ろしていた。
ここで初めて彼女の姿を見たが、とてま華奢な女性だった。
テーブルには、プリン、パフェ、サーモンが三皿、鴨ねぎうどんが所狭しと並んでいた。
一人ピクニック状態だ。
僕は唖然としていたが、その食べっぷりは見ていてとても気持ちの良いものだった。
その細い身体のどこに入っているのか…
しかしどれも、美味しそうに食べている。
無意識に眺めていると、彼女が視線に気付き目が合ってしまった。
「あ…ごめんなさい、私のお皿がこんなにはみ出してましたね」
慌てて彼女はお皿を積み上げ始めた。
その事で見ていた訳ではないのだが、ひょうきんに「良い食べっぷりで!」なんて言えるキャラでもなく、「いえ、もう出ますのでごゆっくり」とだけ言い残し、レジへ向かった。
少し彼女が気になりさっきの席に目をやると、僕の食べ終えたお皿をまじまじと見ている気がした。
次の木曜日、やっぱり僕は回転寿司屋にいた。
この間の彼女はいない。
僕は少し冒険して、始めにデザートの大学芋を頼んだ。
おひとり様なのだ、あの時の彼女のように、少しは好きな順に食べるのも悪くない。
隣には、まだ店員が片付けていない先客の皿が、二十枚ほど綺麗に積まれていた。




