学校のゼロ不思議(3)
九月二十一日 午後一時三分 ショーコ宅
「そこもう少し上じゃない?」
「いや、さつきちゃん。それ以上やると足がだね」
さつきとショーコは、ショーコの体で型を取った二枚の布を床に置き、二人で合わせていた。
「これで大体二枚きれいに重なったよね」
数分後、さつきはセロハンテープで仮止めした二枚の布を眺めていた。
「あのう、さつきちゃん。これ合わせるのはいいんだけど。あ、着ないよ、わたし着ないけど。これどうやって着るの・・・?」
あ・・・。そうかも。さつきは口に手を当てたまま数秒固まった後、
「下肢部分と右半身を縫って、左上肢だけジッパーとかで開け閉めできればいいんじゃないの?」
と言いながら腕を組みなおした。
「いやあ、ジッパーかあ。ちょっと素人には取り付けが困難だと」
「わたしもそれぐらいわかるから。なんかあったでしょ、あんたの好きなビイオの中に。ほら、洋服の直しのとこ」
「うん、あるねえ。クリーニング屋が片手間でやっているようなのが」
「そこに持って行きましょう」
さつきは布を床に落ちていたビニール袋に入れて玄関に向かう。
「え、ちょ、ちょっと。さつきちゃん。それは洋服の直しの範囲を大幅に超えてるよ、むしろ作るレベルっていうか」
「いいじゃない。聞いてみるだけ。一緒に行ってあげるから」
「い、いや。さすがにそれは。って、ちょっと待ってよ。さつきちゃーん!」
ショーコは玄関を出て階段を降りるさつきを追いかけた。
ビイオに着いた二人は駐輪場で何度かやり取りを繰り返した後、さつきが嫌がるショーコをクリーニング店の前で振りほどき、店内にあるドラッグストアに向かった。
買い物を済ませたさつきは併設されているロッテリアに入り、飲み物を頼んでテキストを開いて眺めていた。
「あ、もう終わったの?早かったじゃない」
さつきは店内に入ってきたショーコに声を掛けた。
「さつきちゃん。戦いって言うのはね、大体戦う前に勝敗は決まってるんだよ・・・」
俯きながらショーコはビニール袋と買ったポテトを席に置いた。
「で、どうだったの?」
「まずね。ジッパーを付けるのに5千円からって言われたんだ」
「そんなにするの?それならその辺で服買ったほうが安いんじゃない」
「うん。でね、一応取り付けるものを見せてくれって言われてさ。言ったよ、わたしは。いいです、大丈夫です。その辺で買ったほうが安いので、って。でもそれが日本人特有の遠慮と思われて。結局仮止めした布見せることになってさ」
「ああ、そうなんだ」
「これなんですか?って真顔で言われたよ」
うう、もうあの店いけないよ。わたしはどこでクリーニングに出せばいいの。ショーコはビニール袋に入っている布を掴みながら言った。
「あんたの家でクリーニングに出すものなんてないでしょ」
そっか、まあそうよね。さつきはストローで飲み物を飲む。
「さすがに他の店に行くっていうのはなしだよね。もう結果出たもんね」
「それはそうでしょ。じゃあさ、とりあえず百円ショップであるものでやってみる?」
「そうだよー、さつきちゃん。わたしたちはこれまでのいくつもの困難を百円ショップで乗り越えてきたじゃない!」
「どうせならちゃんとしたもの、って思ったけど。ここにもあったよね?」
「うんうん、あるよ二階に。なんなら銀ビルの横にもあるよ、選び放題だよ!」
「大体使うの決まってるでしょ」
さつきは飲み終えたコップを捨て、ショーコは残りのポテトを食べながら二階の百円ショップに向かった。
「ねえ、さつきちゃん。縫うんでしょ、糸の色どうする?」
ショーコは座り込んで裁縫コーナーの品を手に取っているさつきに言った。
「白。それ以外ありえない」
さつきは針をいくつか手に取った。
「まあ確かに。幽霊にステッチがっていうものおかしな話だよね」
「あ、左上のほうはボタンにするから」
「ごめん、さつきちゃん。ボタンはハードル高いよ。これにしようよ」
ショーコは安全ピンが大量に入った箱をさつきに見せた。
「は?そこだけ浮いちゃうじゃない。白のボタンにしておいたほうが目立たないでしょ」
「え、でもジッパー付けようとしてたし」
「それは内側を考えてたから」
「う、内側?洋服の新しい形だね。使いづらそうだけど。あ、じゃあ安全ピンも内側に付ければ」
そうね。さつきはショーコが持っている布を手に取った。
「さ、さつきちゃん。それは一応幽霊の素みたいなもんだよ。こんな公衆の面前で出していいものじゃ」
「いいじゃない。今はただの布だし」
あ、でも。さつきは二枚の布を合わせながら、
「ほら、こう二枚の布をちょっとたたまないと内側から止められない。手間かかるし、何度も着ることを考えたらやっぱりボタンの方が」
さつきは白いボタンをいくつか手に取った。
「な、何度も?いや、うん、わかる。わかるよ。さつきちゃんがいいたいことわかる。じゃあさ、安全ピンを白く塗ればいいんじゃない?マジックとかでさ、それだったら割と目立たないよ!」
その後、ね、そうしよう。その他は割り勘だけどマジックはわたしが個人で買うから。とショーコの説得が続き、結局根負けしたさつきが安全ピンをマジックで塗ることに同意し、針、糸、安全ピン、マジックを購入した二人はショーコの家に戻った。